第1430話:本物の聖女は桁違いにすごかった
「キャロラインさんは、多い日には一〇〇人以上に『リフレッシュ』を施すそうです」
「ふーん」
ライナー君の用事は、聖女とゆー噂の汎神教ユーラシア教会のキャロラインについてだった。
ユーラシア教会への道すがら、ライナー君や記者トリオと話をしながら行く。
と、ふと矛盾に気付いた賢いあたし。
「あれ? 我がライバルキャロラインはレベルいくつなのかな?」
「そりゃあ一だと思いますよ。レベルを上げる機会なんかなかったでしょうし」
「だよね? おかしいじゃん。レベル一の人が一〇〇人に回復魔法をかけられるほどマジックポイントを持ってるわけがない」
いかに『リフレッシュ』の効率がいいとは言え、レベル一なら使えるのはせいぜい二~四回だろう。
『リフレッシュ』が有効なのは一〇人くらいまでだし、となれば最大限見積もっても四〇人くらいまでしか施しようがない。
ライナー君が言う。
「信者からお布施として魔法の葉をもらうことがあるんだ」
「えっ?」
魔法の葉?
どーしてここで不吉なワードが?
えぐい予感が脳内を駆け巡るんだが。
「キャロラインはマジックポイントが切れたら魔法の葉を食べて回復し、再び『リフレッシュ』を施そうとするんだ」
「……衝撃だな。あたしはキャロみたいな聖女にはなれない。降参です」
「何が衝撃なんですか?」
記者トリオは魔法の葉の破滅的な味を知らんらしい。
帝都に住んでりゃそもそも魔法の葉にお目にかかる機会もないだろうな。
ドーラの新聞記者ズみたいに魔法の葉青汁を飲ませてやりたい。
「魔法の葉ってメチャメチャ不味いんだよ。ドーラでは魔法の葉青汁を大きな器一杯飲ませることが、刑罰として成立してるくらい」
「騎士団では魔法の葉摂取訓練があるんだ。どんな厳しい訓練よりも、ダントツで嫌がられているよ」
「騎士団ってきっつい訓練があるんだなあ。魔法の葉に耐えられるんだったら立派な騎士になれると思うわ」
「そ、そこまでですか……」
「ドーラで魔法の葉青汁の刑啓発キャンペーンやった時、試しに飲んで気を失った人何人も出ちゃったんだ。記者さん達も飲んでみる? ドーラの記者には飲ませたよ。次の日は怨念のこもった迫力のある記事になったらしいの」
「「「いやいやいや!」」」
「遠慮深いね。何事も経験だよ。二回以上は必要のない経験だと思うけど」
記者トリオが青い顔になっとるわ。
魔法の葉の恐怖は感じていただけたらしい。
しかし本物の聖女は桁違いにすごかった。
いや、あたしだって本物の聖女だわ。
「他人のために魔法の葉を食べるなんて考えられんわ。まさに聖女だわ」
「顔色が悪いのもわかるだろう?」
「うん。よく顔色悪いくらいですんでると思う。普通だったら心の病になっちゃう」
「私はキャロラインが心配なんだ」
「今ならよーく理解できるよ」
色恋じゃないけど女性関係の相談というのは当たってたな。
あたしも結構すごい。
「ん? 人が集まってる。あそこがユーラシア教会の聖堂かな?」
「ああ。だが……」
「騒々しいのはおかしいですね。何かあったのでしょうか?」
近寄ってみると変死体が!
「キャロライン!」
「何だ生きてるじゃないか。変死体じゃなかった」
濃い青と白の袖や裾の長い、いかにもな修道女服を着た女性が倒れている。
色男ライナー君が抱え上げるが、気を失ったままだ。
年齢はあたしくらいだな。
魔法の葉なんかくわえて横たわってるから変死体に見えるのだ。
まあ魔力の流れは正常だから、ケガしてるわけじゃない。
多分魔法の葉の不味さ苦さ渋さに気を失ってるだけだろう。
ライナー君が大きな声を上げる。
「どういうことだ!」
側にいた修道士が脅えながら答える。
「ら、ライナー様。申し訳ありません」
「キャロラインにムリをさせたんだろう!」
「い、いえ。本日は朝から事故があり、ケガ人が多く押し寄せたのです。シスター・キャロラインも懸命に癒しを授けていましたが、ついに力尽き……」
「まだかなりケガ人いるじゃん」
でも重傷者の治療はあらかた終わってるみたいだな。
命の危険がある患者を回復させたから、気が抜けたってこともあるかもしれない。
「ケガしてる人並んでー。魔法かけてくぞー」
「お待ちください! どういうことです?」
「あたしも『リフレッシュ』を使えるんだ。キャロは寝かせときなよ」
マジックポイントの回復には寝るのが一番。
魔法の葉食べるなんてどうかしてる。
「聖女のスキルを? あなたは一体……」
「ドーラ人の冒険者がヤマタノオロチを退治したという話は聞いているだろう?」
「あ、あの勇士ユーラシアとかいう?」
「そうそう、それあたし」
「何と大それた名前なんだと、教会の者は皆眉を顰めておりました」
「何だとお!」
ユーラシア教会の人は、自分とこの神様と同じ名前ってのは抵抗があるのかもしれんけど、あたしがつけたんじゃねーよ!
文句なら父ちゃんに言え。
「しかし同名の少女が窮状を救ってくれる! これこそ女神ユーラシア様のお導きに違いない!」
「ハッハッハッ、あたしを崇めるがよい! リフレッシュ!」
◇
「よーし、こんなとこだな」
「助かりました!」
ケガ人の列が捌けたところで、修道士に聞く。
「ところでユーラシア教会では、悪魔の扱いはどうなの?」
「博愛・平等を謳っておりますので、悪魔といえども人間と差はないという教えです」
「さすがにあたしの名前を冠する教会だけあるな。この子悪魔なんだ。あとでそっちの聖堂にお邪魔するからよろしくね」
「よろしくお願いしますぬ!」
「えっ?」
「どういうことだい? 説明してくれよ」
ライナー君は冷静だな。
「問題が根本的なところで解決してないじゃん。こんなこと続けてたら、またキャロは倒れるぞ?」
「ああ。やめさせるべきだ」
「しかし、シスター・キャロラインが自ら望んで行っていることなのです。やめさせることは……」
「好きなだけやらせてあげればいいよ」
「「えっ?」」
ポカンとすんな。
「あたしが少し慈悲をくれてやろう。一時間ほどキャロを借りるよ。記者さん達ここにいてくれる? ライナー君手を貸して」
「構わないが、何をすればいい?」
「キャロを優しくお姫様抱っこしてね。そうそう、キュンキュンするわー」
「キュンキュンするぬ!」
笑い。
転移の玉を起動して帰宅する。




