第1429話:二人のユーラシア
――――――――――二三三日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
朝から皇宮へやって来た。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵がにこやかに挨拶してくれる。
普段通りの態度だな。
特に帝都で事件はないようだ、と。
「今日ライナー君の用事なんだ」
「知ってるよ。もう近衛兵詰め所に来てるんだ」
「ライナー君が? 早いな」
「ついでに新聞記者達も」
「えっ?」
ライナー君が朝早いのは騎士の習慣かもしれないけど、新聞記者は御苦労だこと。
いや、意外ではないか。
記者トリオもライナー君とあたしが来ること知ってるから。
記事ネタを拾えると考えてるんだろう。
面白くなるといいな。
「ライナー君何の用か言ってた?」
「いや、聞いてないが」
「随分と焦らすなー。こんだけ溜めといてつまんないイベントだったら抗議したい」
「勝手に焦れてるだけなんじゃないのかい?」
イケメンにも拘らず、ライナー君は基本的に真面目な人だ。
ツッコミスキルはヤマタノオロチ退治の時に見せつけられたけど、本質はボケにあるんじゃないかと思う。
もう少し掘り下げてみたいタイプ。
「ライナー君は天然女たらしの気配がするんだよなー。きっと意図せず焦らすスキルを持っているに違いない」
「ハハハ。ライナー様がモテるのは事実だな」
「手掛かりがないのがモヤモヤするなー。ツムシュテーク伯爵家とライナー君個人について、知ってることあったら教えてよ」
このサボリ君は以前、フィフィの実家筋であるエーレンベルク伯爵家に詳しかった。
母が侍女として奉公していたからって言ってたけど、興味なかったら覚えてないだろうしな?
基本的に貴族皇族の事情とかが好きで、よく知ってると見た。
「ツムシュテーク伯爵家も開祖帝の時代から続く古い家なんだ。忠義に篤いところが評価され、タムポートのすぐ北を領地として与えられている。金銀を産出するため富裕だが、酪農や漁業も盛んだよ」
「王都からも近いところが領地で、家には問題なしと。ライナー君個人はどう?」
「歳の離れた妹を可愛がっているそうな。また剣術の才能は素晴らしいね。一七歳で正騎士となった。正騎士は一八歳以上と定められているんだが、武道大会での際立った成績が評価され、特例として認められたんだ」
「ライナー君ってすごいんだ?」
「すごさを感じなかったかい?」
「師匠のボクデンさんだっけ? あの人はすごいと思うけど」
正直ライナー君はあんまり。
いや、かなり剣術を使えるのはわかる。
立ち合いになれば強いのかもしれないけど、割と普段隙があるんだよな。
師匠みたいにレベルの差をひっくり返すほどの腕ではないとゆーことだ。
「あのルックスだからモテるんだろうが、浮いた話は聞こえてこないな」
「そーかー。剣術バカだな?」
「ハハッ。有り体に言えば」
「伯爵家の跡取りなのに、視野が狭くちゃダメだとゆーのに」
近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシア君」「「「ユーラシアさん」」」
ライナー君と新聞記者トリオ、近衛兵長さんか。
今日ライナー君は師匠を同伴していない。
朝早いしな。
「で、ライナー君どうしたの? 憂いを帯びた美男子面を見せつけちゃったりして。リリーを諦めてあたしに乗り換えようとしたってダメだぞ?」
「違うよ」
「リリーの弱点かな? リリーは午前中が苦手でなかなか起きられないよ。おっぱいは割とあるけど、実は色恋の話題はあんまり好きじゃないみたい」
「参考になる情報をありがとう。でもそういうことじゃないんだ」
「どういうことだったろ?」
「私どもの方から説明させていただきます」
記者トリオは話を聞いたらしい。
つまり記者に話せないような内容ではないってことだな。
取材熱心なのはいいことだね。
整理して教えてちょうだい。
「最近帝都では、二人のユーラシアが話題になるんですよ」
「二人のユーラシア?」
メッチャ意外なワードが出てきた。
何じゃそら?
あたし以外にもう一人ユーラシアがいて、話題になるくらいの人ってことか。
なかなか興味をそそるね。
「勇士ユーラシアとユーラシアの聖女ですね」
「へー。あたしも勇士ユーラシアに会ってみたい」
「勇士はユーラシアさんのことじゃないですか!」
「ええ? あたし聖女の方がいいなー」
「勇士の方が似合ってるぬ!」
アハハと笑い合う。
でも皆あたしのこと勇士だと思ってるんだな。
せっかくガリア王国公認の聖女になったのだ。
もっと聖女アピールが必要らしい。
ライナー君が言う。
「キャロラインは……私と同郷なんだ」
「つまりあたしの聖女ライバルはキャロラインという名で、ツムシュテーク伯爵領出身ということで合ってる?」
「合ってます。キャロラインさんは汎神教ユーラシア教会の修道女で、生まれつき聖女のスキルを使えるのです」
「聖女のスキルってひょっとして『リフレッシュ』? あたしも使えるけど、生まれつき使える人がいるなんて初めて聞いたな」
「君も使えるのか? 助かる!」
「えっ、何事?」
勢い込んで助かるって何がよ?
新聞記者が続ける。
「キャロラインさんは毎日ユーラシア教会の聖堂前で、回復の魔法『リフレッシュ』を無償で施していらっしゃるのです」
「実に聖職者らしいことだね」
「その献身的な行いから聖女と呼ばれるようになりました」
「聖女には献身的なエピソードが必要なのか。なるほど、あたしに足りないところかもしれないな」
皆がそうじゃないって顔してる。
じゃあどういうことだ?
「キャロラインは明らかにムリしてるんだ。顔色も悪い」
「ユーラシア教会の広告塔として、やめるにやめられないということもあるのかもしれませんが……」
「けなげな姿は信者を確実に引きつけるのです」
「ちょっと言いたいことがわからない」
魔法なんて持ちマジックポイント以上には使えないじゃん。
ムリしてるって、身体の弱い人なんかな?
「どっちにしてもライバルとして、ユーラシア教会の聖女には会わなければならないようだね」
「ありがたい! キャロラインを助けてやってくれないか?」
「何を言っているんだ。ライバルだぞ? 宣戦布告しに行くのだ!」
「行くんだぬ!」
「「「「「えっ?」」」」」
ユーラシア教会の聖堂へゴー。




