第1426話:おめでとう、おっぱいさん
フイィィーンシュパパパッ。
ガリアから帰宅後、魔境で一稼ぎしてからギルドにやって来た。
「やあユーラシアさん、今日もチャーミングだね」
「こんにちはー、ポロックさん」
「御主人……」
あれ、どうした?
しがみついてくるのはいつも通りだが、ヴィルが悲しそう。
こんなに元気がないのは初めてだぞ?
どーした?
ポロックさんが苦笑いする。
「サクラさんが婚約を公表してね」
「ついにハッピー発表したのか。おめでとうございまーす!」
「ところが皆が歓迎ムードとはいかなくて……」
「なるほど。ショックを受けた独身男性冒険者の悲しみの感情が、ギルドを覆っていると」
ひっじょーにバカバカしくもくだらない理由だった。
ヴィルがとばっちり食ってるじゃないか。
可哀そうに。
「よしよし、肩車してやろうねえ」
「ありがとうぬ!」
ぎゅっとしてからヴィルを肩車してやる。
ギルド内部へ。
依頼受付所の前で崩れ落ちてるのは?
「どーしたの? ボロ雑巾のマネなんかして。もの悲しさが表現されていて、なかなか迫真の演技だね。一〇点満点です」
「一〇点満点だぬ!」
「これが泣かずにいられるか。ギルドの花サクラ嬢が嫁いでしまうとは」
片眼鏡のおっちゃん、杖職人のナバルさんだった。
まー泣いてる理由なんかわかってるけれども。
おっぱいさんが困った顔してるじゃないか。
「サクラさん、おめでとう! これお祝いにもらって」
「まあ、ありがとうございます」
透輝珠を渡す。
透輝珠は透明だけに、どこに飾っても綺麗な魔宝玉なのだ。
すぐに換金できて実用的ということもある。
「そもそもおっちゃんは何しにギルド来たのよ?」
「超絶美少女精霊使いに伝言を頼もうと思って……」
「超絶美少女精霊使いが来たじゃないか。元気出せ」
「元気出すんだぬ! 迷惑なんだぬ!」
「そ、それもそうだな」
ハハッ、ヴィルが迷惑がっとるわ。
もういっぺんぎゅっとしたろ。
どっこいせと立ち上がる片眼鏡。
「ところであたしに何の用だったかな?」
「ステッキタイプの魔道杖を作ってみたのだ」
「あっ、見せてよ」
「盾の魔法を組み込んだものだ。ヒゲの公爵様に献上しようかと思ってな」
うむ、シンプルで物理強度も十分だろう。
派手さはないけど、うっかり公爵は本人が目立つからな。
ステッキはこれくらいがいいのかもしれん。
「いいじゃんいいじゃん。うっかり公爵のとこ行こう!」
「え? 今からか?」
「何か用事がある?」
「い、いやないが、アポも取らずに押しかけていいものなのか? 公爵様だろう?」
「どうせ暇してると思うぞ?」
だからしょっちゅう皇帝陛下のお見舞いに行けるんじゃないの?
公爵とはいえ、あんなトラブルメーカーと付き合いたい人あんまりいないだろうし。
「ふむ、傷心旅行もいいな」
「何の傷心だ。旅行ってほどでもないわ」
まったくこの片眼鏡は。
一々面白いけれども。
「サクラさん、またね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を……あ、買い取り屋さん行かなきゃ。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
皇宮にやって来た。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、また来たのかい? そちらはこの前の杖職人の方だね?」
「うむ、ナバルだ。よろしくな、近衛兵君」
「こちらこそ」
片眼鏡もおっぱいさんショックが少しは抜けただろうか?
歩きながらサボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「今日はどうしたんだい? 午後の変な時間だが」
「ナバルのおっちゃんが杖を作ったんだ。うっかり公爵に献上したいらしいの」
「うっかり公爵……グレゴール様だな?」
「そうそう、すっとこどっこい公爵。昨日ラグランドのオードリー王女が行ってお世話になってるじゃん? どうしてるか様子も見たいんだ」
王女のワードにすかさず反応する片眼鏡。
「ふむ、王女様は美人なのか?」
「可愛い子だけど幼女だぞ?」
「レディはレディだ。問題はないのだぞ、超絶美少女精霊使いよ」
「随分守備範囲が広いね」
公平なのかしらん?
正門脇の近衛兵詰め所へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
今日はめぼしいメンバーは近衛兵長さんだけか。
寂しいな。
「これお土産だよ。皆で食べてね」
「おお、いつもの肉ですな。ありがたいことだ」
「うっかり公爵邸行ってくるね。さよならー」
「精霊使い殿お待ちを!」
何か用だったかな?
「ウルピウス殿下から伝言があります。明日朝にライナー殿がここ近衛兵詰め所にみえられると」
「うん、覚えてる。ライナー君の用件はわかる?」
「さあ、伺っておりませんが」
となると、どれくらい時間がかかるか見当がつかないな?
まあいい。
明日は他には予定入れてないし。
「あと施政館から連絡が入っております。ラグランドの件で謝礼を申し述べたいと。さらに一人ユーラシア殿に大変感謝している人物がいるので、引き合わせたいとのことでした。ついては施政館を訪れる日時を連絡してくれと」
「じゃ、明後日一〇時頃に行くよ」
会ったことない人で大変感謝って誰だろ?
ラグランドクエスト関係じゃなくて、もっと以前の案件かな?
皇妃様の呪殺未遂事件とかヤマタノオロチとか。
近衛兵長さんが続ける。
「最後に魔道研究所の嘱託杖職人モプシュ殿から、ナバル殿を連れてきてくれとのこと」
「しまったな。ナバルのおっちゃん連れてるのに、今日は魔道研究所まで行ってる時間がない」
「いつでもいいではないか。モプシュなど待たせておけばよいのだ。大方、ドーラの杖作り環境を知りたいのに違いない」
うん、あたしも同感。
しかし魔道研究所に出入りできる用事があるのは好都合だな。
宮廷魔道士達をあたしの美少女フェイスに慣らしておきたい。
魔道コンロみたいに作って欲しいアイテムあったら、魔道研究所に頼むのがよさそう。
いや、宮廷魔道士は公務員だから、融通利かないのかな?
宮廷魔道士を思い通り働かすのにはどうしたらいいかは、新しいテーマだ。
「おっちゃん。一応三日後の午前中を、魔道研究所行きの予定にしといてくれる?」
「うむ、わかったぞ。三日後なら余裕で土産を用意できる」
片眼鏡は何かをモプシュさんに見せつける気らしい。
新作の杖か、ドーラ産の材料とかかな?
イベントを用意する心意気は買えるなあ。
「近衛兵長さん、じゃねー」
「バイバイぬ!」
うっかり公爵ん家ことオーベルシュタット公爵家邸へ。




