第1424話:ガリアとカル帝国の関係
「メリットは大きいであろう? 穀倉地帯にしても不凍港にしても」
「それはゼムリヤを永続的に領土化することができて、初めて享受することのできるメリットである。仮にゼムリヤを一時的に軍事占領できたとしても、カル帝国がカレンシー皇妃の実家であるリリエンクローン辺境侯爵家を救わぬわけはないのである。帝国対ガリアの消耗戦になれば、国力の劣るガリアが勝てる道理はない。最後には攻め滅ぼされるか不毛の地に追い払われるか亡命するかである」
「バアルって、帰結までわかっててゼムリヤ攻めろって唆すのな?」
「当然である。吾にとっては戦争を起こして悪感情を得ることが目的であるからして、勝敗については関心がないである」
「現場のバアルさんでした」
言ってることはよく理解できるのであろう。
苦虫を噛み潰したような顔になるガリア首脳の四人。
「……ぬけぬけと言い放つものであるな」
「まあ。でもバアルはウソ吐かない子ではあるよ。正直に話してるってことはわかってもらえると思う」
「うむ、ゼムリヤの領有化がかなわぬ夢であることは理解した。父上が言っていたことは正しい」
「絶対にゼムリヤを領有化できないってことじゃないと思うけどね」
「「「「えっ?」」」」
驚くようなことじゃないぞ?
「ゼムリヤの領民がガリアに属した方がいいと思って、帝国もゼムリヤを領有しててもいいことないと考え始めたら、自然とガリア領になるでしょ。地理的には」
「……わからぬ。説明してくれ」
「ドーラが独立したのも似たような理屈なんだよね」
「どう似ている?」
「ドミティウス主席執政官閣下は初め、ドーラを再占領して強圧支配する気満々だったよ。再占領できないと決まった時点でさっと独立を認める方針に切り替えたのは、植民地化してても帝国にはあんまり得がないからだと思うんだ」
「肥沃な地なのであろう?」
「肥沃ではあるけど、帝国だって農業国だから。帝国にとってドーラ領有のメリットって、魔宝玉とコショウくらいしかなかったんだ。だったら自分で苦労して経営するより、独立させて自主発展に任せ、貿易で儲けた方がいいじゃんってこと」
強圧支配が可能なら別のプランがあったんだろうけど。
コージモさんが言う。
「面白いですな。ドーラの独立は必然だったのですか?」
「帝国統治下でも割とドーラは放ったらかしだったんだよ。魚人の支配域の関係で港が一つしかないし、魔物も多いから。と同時に温暖で肥沃な土地が多いんで、やる気のある支配者なら手を入れたくなるかもって気持ちはわかる。でも帝国の思惑とドーラの現地人の思惑がケンカしちゃうんだったら、独立の方へ転がっちゃうのが自然かな」
飛空艇を使ってまでドーラを攻めようとした意味はわからんけど。
「飛空艇は、アルハーン平原から魔物を追うのに使用される予定もあったである」
「知らん事実だったわ」
爆撃と同時に歩兵を投入すれば、魔物退治に慣れてなくても追い払って居住可能域を拡大するのは簡単ってことか。
飛空艇にも意味があったんだなあ。
「つまりガリアの立場からすると、ゼムリヤが自然と我が下に落ちてきたら拾えということか」
「王様の父ちゃんの言ってた禁断の果実ってのは、目の前にぶら下がってるからって迂闊に齧りにいくな。焦らずのんびりした気持ちでいろってことだと思う。二〇〇年くらい先を見てれば、ゼムリヤを領有できるかもしれない機会もあるんじゃないの?」
「ハハッ、二〇〇年か。気の長い話だな」
「二〇〇年あればすげえいろんなことできるよねえ。国が発展していくのを見るのは楽しいよ。どっちにしてもゼムリヤの領主が有能な時に仕掛けようとするのは、アホも極まる」
「うむ、メルヒオール殿は有能だからな。しかし次の辺境侯爵が有能とは限らぬ」
「次の辺境侯爵も有能だよ。今皇位継承権三位のウルピウス殿下がほぼ内定」
「「「「えっ?」」」」
ハッハッハッ、ちょっと情報をサービスしたった。
べつに秘密事項じゃないし、構わん構わん。
コージモさんが言う。
「次の辺境侯はザムエル殿が有力なのでは?」
「ヒゲピンのおっちゃんはナンバーツーになるよ。本人も納得してるから揉めない」
「ウルピウス皇子は、次期皇帝の有力候補ではないのか?」
「もっと有力な同腹の兄ちゃんフロリアヌス殿下がいるからね。年若ってこともあって、ウ殿下は全然皇帝なんて意識ないよ」
王様が考えるように言う。
「……カル帝国のコンスタンティヌス今上帝は長くないと聞いている。次期皇帝は皇位継承権一位のセウェルス皇子、二位で現皇妃の子であるフロリアヌス皇子、主席執政官として辣腕を振るうドミティウス皇子のいずれかか?」
「セウェルス殿下はないな。元々支持する人があんまりいない上に、精神を病んじゃったんだ。フロリアヌス殿下は有力ではあるけど多分ない。母ちゃんのカレンシー皇妃が天然だからかもしれんけど、権力欲の薄い人だよ。まだ若いってことを自覚してるからかもしれない。それからこの前亡くなったガレリウス第一皇子殿下の遺児リキニウス殿下もない。リキニウスちゃんはラグランド植民地の旧王族オードリー姫と婚約した。帝国保護下でラグランド王国が成立すると、王になるんじゃないかと思う」
「ふむ、その方は随分と事情に通じているのだな。これもまた『アトラスの冒険者』の恩恵か?」
「そうそう。何かあっちこっちの偉い人と知り合いになっちゃう」
『アトラスの冒険者』というより、おっぱいさんの恩恵だと思う。
「となると、順当にドミティウス皇子が次期皇帝か」
「あるいはルキウス第四皇子殿下かどっちかだね」
「ルキウス? コージモ、どんな皇子だ?」
「母はドレッセル子爵家の出です。年初まで次席執政官を務めておられましたな。堅実な政治力を評価されておりましたが、地味な印象があります」
「あんまり知られてないけど、プリンスルキウスは今、在ドーラ大使なんだ。いい人だし、会えば一目でやるやつだってわかるから、皇帝になって欲しいんだよね」
「ほう、ルキウス皇子か。その名覚えておこう」
せっかくガリアの王様が覚えてくれたのだ。
ムダにならないといいな。
「腹が減ったな。昼食を用意させよう」
「やたっ! いただきまーす!」




