第1423話:ここでもバアル
「おお、よく見ると議会政堂はえらく立派な建物だなあ」
木の存在感がすごいというか。
宗教関係の建物みたいな荘厳さがある。
昨日は空中からチラッと見ただけだから、さほどは感じなかったけど。
こんな建物で行われている重要な会議中にいきなり飛び込むってどんなだ。
いや、あたしが悪いんじゃないわ。
『アトラスの冒険者』の転送魔法陣のせいだわ。
「このような場所で政治は行われているという、為政者の気を引き締めるためとされているのですぞ。来賓を遇する場も兼ねています」
「へー。理にかなってるねえ」
議会政堂は政治の場であり外交の場でもあるってことか。
となると王宮はカル帝国の皇宮と同じで、王家のプライベートな場か?
あれ? じゃ何で『ガリア・セット』の転送先は王宮なんだろ?
王様の個人的な困りごとの面倒をみろってことかな?
「では、小官はこれで」
「ありがとう、じゃーねー」
「バイバイぬ!」
ゾロゾロと議会政堂の中へ。
受付はと。
「こんにちはー。ドーラの美少女精霊使いとその他四名で……」
「あっ、いらっしゃいませ! こちらへ!」
何だ何だ?
急ぎ足で案内されて奥へ。
一つの部屋の前で足を止める。
「ユーラシア様御一行がいらっしゃいました」
「来たか 通せ」
「こんにちはー」
応接間かな?
明るく趣味のいい部屋で、それなりの広さがある。
中には王様とトリスターノ元帥、ガストーネ森林大臣、コージモ外務大臣がいた。
あたしと面識のある人達だ。
「遅かったではないか」
「ごめんね。転送先がここの会議室から王宮の森に変わっちゃったんだ。王宮に飛ばされてて、どこだここって感じだったの」
「ふむ? 『アトラスの冒険者』とは、そんなことがあるのか?」
「時々。今後は王宮で用があるから、転送先が変わったってことだと思うんだけど」
あれ、王様心当たりがありそうですね?
「昨日の霜の巨人退治は大儀であった。ああも簡単に未曽有の国難が排除できるとは思わなかった。このガリア王ピエルマルコ、謹んで礼を申す」
「あたしもお仕事だからいいんだよ」
えらそーな肩書きの人に頭下げられると、背中がかゆくなるからやめて欲しい。
王様が問うてくる。
「仕事とはどういうことだ?」
「『アトラスの冒険者』は、依頼を完了すると新しい転送先をもらえるんだよ。それが報酬の一つみたいなものなの」
「ほう? では依頼をこなすほど、色々なところへ行けるようになるということか?」
「うん。例えばゼムリヤに行けるようになったのが一ヶ月半くらい前なんだ。何故かメルヒオール辺境侯爵と仲良くなって、コージモ外務大臣と知り合うきっかけになったんだよ」
「『アトラスの冒険者』とは妙に面白いものだな」
ガリアの王様ならゼムリヤには関心あるだろ。
あえて話題にしてみたがどうだ?
せっかくだから、ゼムリヤに対してどんな考えを持っているか知りたい。
「ゼムリヤか。いいところだな。予も訪れたことがある」
「ガリアの王様としてゼムリヤに興味があるとかはないんだ?」
「ハハッ、きわどい質問であるな。もちろんあるぞ? しかし亡き父上がゼムリヤは禁断の果実である、絶対に手を出すなと言っておられてな」
「もののわかったお父ちゃんだねえ」
王様がチラッとヴィルを見る。
「その方も悪魔と縁があるようだが、父上も同じでな。悪魔が誘惑してくると……」
「悪魔の誘惑?」
あっ、ひょっとして。
「じゃーん、大悪魔登場!」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
バアルの籠をナップザックから取り出す。
皆さんがまた悪魔かって顔してるけど、ヴィルとバアルは全然違うよ。
バアルは悪い子。
「ピエルマルコ王であるな。吾が大悪魔バアルである」
「悪魔、バアル?」
「ねえ、王様の父ちゃんにちょっかいかけてたのってバアルなの?」
「吾である」
「ごめんね。うちの子の犯行だった」
「そやつは何なのだ?」
もっともな疑問だな。
言っちゃっても構わんだろ。
「カル帝国のドミティウス主席執政官と組んで、ドーラの強圧支配を目論んだ悪魔だよ。結局攻め手がなくなって、ドーラの友好独立って落としどころになったけど」
「やはりドーラ独立には裏があったのだな。随分と出し抜けな展開だと思ったが」
これまでのカル帝国の対外方針からすると、ドーラがすんなり独立したことは奇異に映るらしい。
ガリアでもおかしいと考えてたんだろうな。
トリスターノ元帥が聞いてくる。
「未確認情報だが、カル帝国には空飛ぶ巨大軍艦をドーラ戦に投入予定だったとのことだ。ユーラシア君は何か知らんか?」
「よく知ってるね。飛空艇を試運転の時に壊したのがあたしなんだ」
「やはり……だからカル帝国は攻め手をなくし、ドーラから手を引いたのだな?」
「うん。戦争起こしてゴッソリ悪感情を得るつもりだったバアルが、当てが外れて逆恨みしてあたしに絡んできたから、捕まえてうちの子にしたの」
「口惜しいである!」
呆れる王様。
「バアルはその方にとって敵ではないか」
「敵っちゃ敵だけど、バアルは誇り高くて潔い、見どころのある悪魔なんだ」
「照れるである」
「もう大した悪いことはしませんって誓わせてあるの。いろんなこと知ってて役に立ってくれるし、過去敵だったとかは割とどうでもいいな」
「ふむ、遺恨を残さぬということか。気持ちの良いことだな」
「吾が主の下僕になったことは、後悔しておらぬである。むしろ誉れなのである」
「何言ってんだ、この大悪魔め」
アハハと笑い合う。
「大悪魔バアルに質問だよ。王様の父ちゃんにどんなちょっかいかけてたの?」
「ゼムリヤを攻め取れと唆していたである」
「何で? まーわからんではないけど」
「ガリアは冬長き国である。今以上の強国となるために、穀倉地帯と不凍港の確保は必須であるぞ? ゼムリヤはその双方を満たすことができ、またガリアにとっては攻めるも守るも易き地であるからである」
ごもっとも。
あたしも地図を見て同じことを思った。
全員頷いてるとこ見ると、ガリアにとってゼムリヤが垂涎の地ということは共通認識だな。
一応確認しておく。
「王様の父ちゃんがゼムリヤを攻めなかったのは何でかな?」
「推測に過ぎぬであるが、メリットがないからであろう」
王様が疑問に思ったみたい。
バアルに問いかける。




