第1419話:未知の魔宝玉だった
イシュトバーンさんが言う。
「この精霊使いは、ドーラを美味いもので満たそうとしてるんだぜ」
「素晴らしいことね!」
「でもこのレイノスって町は、ノーマル人以外を差別するんだよね。レイノスの食堂は紹介してあげられないんだ」
いや、仮に亜人差別がなくなったとしても、堂々と悪魔が行き来する町ってのは難しいか。
あたしはコブタミート教だから関係ないけれども、悪魔を嫌う宗教は聖火教だけじゃないし。
悪魔の一般的イメージが悪過ぎる。
「カトマスならいいだろ」
「よさそーだね。でもあたしカトマスの料理屋入ったことないな。どの店がいいかわかんないや」
カトマスにだって、ノーマル人以外を嫌がる店あるだろうしな?
ビレッジネームテラーのイケてるおっちゃんに聞けばわかりそう。
ま、でも当分はガルちゃんの食事の場として現実的なのは、ギルドとイシュトバーンさん家とチュートリアルルームか。
「ラグランド関係は終いか?」
「一番面白い話が残してあるよ。さっきのリキニウスちゃんと、ラグランド旧王家の血を引くオードリーが何と婚約した」
「ははあ? ラグランドの旧王家ってのは、どの程度の影響力だ? 一族は大勢残ってるのか?」
主席執政官閣下と似たような心配だなあ。
ラブい話はストレートに楽しめばいいのに。
「ラグランドではそれなりに尊敬されてるよ。庶流はどうか知らんけど、直系で残ってるのはオードリー一人って話だね」
「リキニウス皇子とオードリー王女を軸に、ラグランドを支配する腹だな?」
「主席執政官閣下の考えとしてはね。帝国も今回のラグランド蜂起と後処理で、武力鎮圧しない方がメリット大きいことはわかったと思うんだ。いずれ自治権拡大して、税金も本土並みにするんじゃないかな?」
「うまくいくのか? 帝国は相当ラグランドに恨まれてるだろ?」
「そこなー」
リキニウスちゃんの極上スマイルがあってオードリーと仲がいいことが知れれば、いずれ解決する問題の気がする。
でも最初は厳しいよなあ。
長年搾取されてきた歴史があるから。
「オードリーもいい子なんだよ。今日交渉終了後に、あたしが転移でリキニウスちゃんとルーネを帝都に送ったんだ。その時にオードリーもついでに帝都へ行った。しばらく滞在するみたい」
うっかり公爵がもてなすだろ。
オードリーもうっかり公爵のこと気に入ったみたいだし。
「で、今日最大のお楽しみだが。大至急のクエストってのは何だったんだ?」
「ごめん、あんまり愉快な話でもないんだ。ガリアで霜の巨人って魔物が出て退治したってだけ」
「霜の巨人? 知らねえな」
「ガリアの伝承にはあるみたいだよ。これもヤマタノオロチと同じで、正確な記録はないけどってやつ」
「所謂神話級の魔物か」
「そうそう。でもうちのパーティーはその巨人を倒したことあったから」
「何? どういうことだ?」
これはわかるまい。
「以前バアルのクエストで、宝箱に仕掛けられてたことあってさ」
「ほお? 問題ねえんだな?」
「特には。霜の巨人が見たことない魔宝玉を落としてったんだ。かなりいいやつだと思う。これ」
青と白のコントラストが美しい珠をナップザックから取り出す。
「……素晴らしい。未知の魔宝玉に間違いねえな」
「奇麗ね!」
「ガルちゃんも魔宝玉好き?」
「高く売れるところがいいわね」
「えっ? ちょっと待った。ガルちゃんひょっとして『ビートドール』習得してクレイジーパペット倒してたりする?」
「ええ。ラルフさんに教わった通りにしてるわ」
もうかよ?
誰も止めなかったのか?
「おい、どういうことだよ」
「最近ペペさんが開発した『ビートドール』っていう、対人形系魔物用のスキルがあるんだ。習得してると、魔境行けるくらいのレベルがあればクレイジーパペットを一発で倒せちゃうくらいの優れもの」
「特に問題ねえじゃねえか。人形系を簡単に倒せる手段が開発されたなら、冒険者のあり方が変わるんじゃねえか?」
「マニュアル通りに使ってるならへーきなんだけど……。魔境ガイドのタマネギみたいな人いたでしょ? ガルちゃん、何か注意された?」
首をかしげるガルちゃん。
「ぴょんぴょん跳ねる人形系魔物がいて危ないから、魔境の北の方には行かないようにって。もし遭遇したらガードしろって」
「どれくらい真剣に聞いてた? 戦闘になると跳ねる人形系は、一〇回の内九回は逃げちゃう。一回は自爆する。その一回に当たってノーガードだとガルちゃんは死ぬ」
「えっ? 怖い怖い!」
「ガルちゃんよりレベルの高いザガムムっていう悪魔いるでしょ? あの子自爆食らったんだ。ガードしてたから命は助かったけど、岩に叩きつけられて気絶したぞ? 跳ねる人形系は一見薄汚れたクレイジーパペットみたいに見えるから油断しがちだけど、すごく危険」
イシュトバーンさんが眉を顰める。
「やべえのがいるんだな」
「二、三ヶ月前からね。魔境行くくらいの冒険者ならガードすりゃ平気だけど、舐めてるとレベル六〇あっても危ない」
もっと危険性を周知して欲しいもんだ。
「ガリアの巨人の話はどうなったんだ?」
「どうもこうも。伝承にあるとかいう霜の巨人倒してすぐ戻ってきたから、特別何もなかったよ」
「ええ? ガリアの伝承がどうのと聞いたってことは、地元の有識者か何かには会ったんだろ?」
「いきなり霜の巨人対策会議やってるところに転送されたんだよ。大臣とか元帥とか一斉にこっち見て来てさあ。ガリアの王様とも知り合ったよ」
「メチャクチャ面白い展開じゃねえかよ! 最初から話せよ!」
ほんとだ。
あたしとしたことが。
「御飯食べることの方が重要だったから、気がそぞろだったなー。でも明日もう一度来てくれって言われてるんだ」
「楽しみが残ってるじゃねえか」
「まあね。イシュトバーンさんは、ガリア行ったことある?」
「ねえな」
「まだ雪が残ってる、パラパラとしか人が住んでない寂しい国って印象だったなー。空飛んで上から見た感想では。いや、人があんまり住んでない地域だったからかもな? もっとよく見物してくるよ」
「おう、また今度話してくれ」
さて、今日もよく働いたぞ。
「じゃ、帰るね」
「とてもおいしゅうございましたわ」
「ハハハ、また来てくれよ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




