第1412話:交渉終了
ラグランド総督執務室の中の交渉のテーブル。
カル帝国側のリキニウスちゃんプリンスルキウスホルガー総督と、ラグランド側のオードリーセグさんリリウオが向かい合って座る。
あたしは双方から直角の位置だ。
特等席ってやつだな。
ヴィルは後ろの席、ルーネの隣にちょこんと座っている。
雰囲気が悪くなったらあたしんとこへおいで。
ぎゅっとしてあげるからね。
「いやあ、ラグランドは暑いですな」
「ハハハ。季節が季節なら、こんなものではないですぞ」
無難な世間話の後、交渉が始まる。
人道的支援として、帝国からある程度の穀物を無償で譲渡か。
事前に出てた話だな。
これは帝国の市民感情から受け入れやすい。
「治水技術習得のための留学生を受け入れてもらいたいのです」
ラグランドではほぼ毎年大河が氾濫する。
雨量からして氾濫は仕方ないが、場所や時期をコントロールできれば、農地を大幅に拡大できるかもしれない?
いいじゃんいいじゃん。
こんなのは大喜びで許可。
「ラグランド統治法を一部改正していただきたく」
なるほど、帝国人もラグランドの中ではラグランドの法によって裁かれることになるのか。
それからやたっ!
予想通りだけど、他国との自由貿易ができるようになった!
ドーラも万歳だ。
さらに……。
「税金を固定化できないでしょうか?」
「税金の固定化、とは?」
リリウオからトリッキーな要求が出てきたぞ?
現在のラグランドの税率は五割。
国民の総所得概算から一人当たりの税金を毎年割り出し、自治体ごとにまとめて徴収するというやり方らしい。
それを年ごとに計算するのではなく、現在支払っている税金の総額に固定しろということだそーな。
ははーん、帝国としては税収に変化はない。
ラグランドは頑張って所得が大きくなるほど税負担が軽くなるということか。
考えたな。
プリンスがホルガー総督に確認する。
「ラグランドの戸籍制度はどうなっているかな?」
「ほぼ完全と判断できます」
「では一〇年の時限措置として認めよう。それでどうか?」
「大変結構です」
リリウオもこういう要求を出すってことは、国民の総所得が下がるとは考えてないんだろう。
一〇年間はラグランドも徐々に生活が楽になると思っていい。
プリンスのメンツを潰さない、実質減税策だ。
戸籍制度を確認したところからすると、プリンスは将来ラグランドに、帝国本土と同じ人頭税を科すことを構想しているらしい?
あるいは人頭税の可能性を見てるってことかな?
だから当座の時限措置か。
リリウオも時限措置は当然と考えてたみたいだな。
その後細かなことを取り決め、無事調印となった。
リキニウスちゃんとプリンス、オードリー、リリウオが署名して終了だ。
手早く終わったから、リキニウスちゃんとルーネをすぐ戻せるわ。
いやあ、めでたしめでたし。
「ラグランドが良き友人であることを望む」
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします」
「あたしの出番が全然なかったぞ?」
「なかったぬ!」
アハハと笑い合う。
ん? セグさんどーしたの?
「最後に一つ、お願いがあるのですが」
「何であろう?」
「姫様に相応しい婿を、カル帝国から迎えられないだろうか?」
「「「えっ?」」」
当然カル帝国の皇子の中からってことだよね?
オードリーって何歳なん?
七、八歳じゃないの?
いくらしっかりしてる子っていっても早過ぎない?
王族だと普通なの?
オードリーが元気に言う。
「リキニウス殿かルキウス殿がいいのじゃ!」
「プリンスルキウスは婚約者がいるからダメだぞ?」
「ではリキニウス殿じゃ!」
内緒話モード発動。
プリンスが困惑気味に聞いてくる。
「ユーラシア君、どう思う?」
「部外者のあたしにどうって言われても。ただリキニウスちゃんとオードリーの相性は悪くない、とゆーことは保証する」
結婚したらリキニウスちゃん、尻に敷かれそうだけどな。
ホルガーさんが言う。
「自治権拡大の要求が出ないと思ったら、こういう目論見があったのですな」
将来的に独立までいかないまでも、カル帝国保護下で自治領ラグランド王国を復活、オードリーとその配偶者が共同統治者として君臨するってことか。
オードリーの配偶者が有力皇族であるほど、今後ラグランドからの要求は通りやすくなりそう。
うまいこと考えたな。
一方で帝国にとっても皇帝に近しい血でラグランドと結ばれることは、悪いことじゃない。
反乱は激減するに違いないから、統治はうんと楽になる。
「今までラグランドの旧王家と帝室の婚姻はなかったんだ?」
「なかった」
「どーして? 何か理由がある?」
「カル帝国はラグランドを植民地化した時、旧王家の一族を庶民に落としたからですぞ」
ははあ、庶民に落とせば特に手を施さずとも、時間とともに旧王家の影響力はなくなると見たか。
ところがラグランドの民は王家への尊敬を忘れなかった。
それだけ帝国への反感が強かったのか、あるいは反乱のたびに王家が旗印として担ぎ出されたからか。
帝国もラグランド王家の一族を狩り出すことはしなかっただろう。
公式には旧王家の一族は庶民で、血の繋がりがあるというだけで無関係な者まで反乱に連座させるのは法に悖るであろうし、大規模な反乱を誘発しかねなかったから。
しかし時代とともに王家の一族は数を少なくし、ついにオードリー一人となった。
今回の蜂起は、ラグランドが王家の一族を失う機会となったかもしれないのだ。
「で、どうなの? あたしはいいと思うけど?」
「少なくともこの場で却下することはできませぬな。ラグランドの住人を刺激して、蜂起が手をつけられない規模になってしまいます」
「……リキニウスの意思を確認しておくか」
内緒話モード解除。
「ストレートに聞くぞー。リキニウスちゃんは、将来のお相手が決まってたりする?」
「特に決まっていません」
「オードリーがお嫁さんなのはありなの? なしなの?」
「もちろんありです!」
「おお、即答か。キュンキュンするわー」
「キュンキュンするぬ!」
「リキニウス殿、ありがとうなのじゃ!」
オードリーすげえ嬉しそうじゃないか。
昨日今日でえらく仲良くなったもんだ。
プリンスがこっちを見てくる。
あたしが女神のように美しいって?
違う?
うっかり公爵を説得できるかって?
できると思うよ。




