第1410話:慈悲深く聖女なあたし
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
ちなみにラグランドから帰宅したあとは、プリンスに連絡したり魔境に行ったりしていた。
隙間時間を見つけては魔境探索、充実してるなあ。
「今日はまず皇宮へ行ったんだ」
『ん? 用があったのかい?』
「用ってほどでもないけど、二人の皇子皇女が出かけてるわけじゃん? 皇宮にも状況知りたい人いるかと思って、リキニウスちゃんとルーネは今日ラグランドに到着だよーって言いに行った」
『君は案外マメだなあ』
「案外じゃないわ。気遣いの超絶美少女精霊使いだとゆーのに」
サイナスさんは今更何を言っているんだ。
どれくらい皇宮に情報が回ってるかとか雰囲気がどうかとかを知りたかったんだよね。
まあ使者について心配することは何もなかったわけだが。
「皇宮でちょっと面白いことを聞いたんだ」
『またトラブルか?』
「だといいな」
『こら』
いや、これは笑いごとだから。
『とっとと白状しなさい』
「白状って。以前リリーの縁談をぶっ壊せ貴公子こてんぱんイベントあったじゃん? 貴公子の一人の天才剣士があたしに会いたいんだって。ライナー君っていう伯爵家の跡取りなんだけど」
『ラブいことか?』
「いや、ラブくはないな。でも女性関係だと思う」
『何故わかる?』
「だってあたしはライナー君の人間関係や立場は知らんもん。ややこしい相談のわけがない。かつ武芸の立派な師匠がいるにも拘らず、師匠じゃなくてあたしに相談したいってことだと、やっぱ女の子関係なんじゃないかと」
単にドーラのことが聞きたいとかだったらつまらんなあ。
そんなフラグはへし折れ。
『ラブいことじゃないというのは?』
「あたしとリリーが仲いいことは当然知ってるじゃん? ライナー君はリリーを狙ってるんだし、リリーの耳に入りそうなラブい話はあり得ないわ」
『消去法か。しかし、ライバル貴公子の動向の話や魔物談義ってこともあるだろう?』
「あたしのラブセンサーが女性関係だって告げてるんだよね」
『ユーラシアのラブセンサーは、本人に会ってなくても働くのかい?』
「実はあんまり働かないんだよ」
アハハと笑い合う。
ただのカンだ。
ただのではないな、洞察に裏付けられたカン。
「ライナー君とは三日後に会うことになったんだ。話のネタになるといいな」
『わかった。ユーラシア好みの展開になる根拠が薄いから、積極的にフラグを立てにいく作戦だな?』
「そゆことなんだよ。サイナスさん、さすがだね」
あたしの主人公補正頼みの作戦なのだ。
まー女性関係でなくても面白いイベントだったら何でもいい。
「ラグランド関係の話いくよ。本日特使のリキニウスちゃんとルーネはラグランドに到着したんだけど」
『だけど? またトラブル起こしたのか?』
「違うとゆーのに」
トラブルが起きないように働いているんだとゆーのに。
「おかしなことになったんだ。リキニウスちゃんとルーネの保護者どもが、明日ラグランドとの交渉終えたら、すぐに二人を転移で帝都に戻せって」
『うっかり者の公爵と主席執政官閣下だな? 交渉は一日で終わるのかい?』
「本来だったらそうとは限らないよねえ。ところが少々ラグランドに譲ってもいいから、手早くまとめろって。あたしも講和の席にいろって」
『……確かにことの経緯からすると、ラグランド側首脳と話が通じている君がいた方がすんなりまとまりそうではある。しかし君、利害関係者ではないじゃないか』
「だよねえ。あたしに発生する利益が多くなりそうだからいいかなと思ってるけど」
『余計な仕事をさせられるのかもしれないぞ?』
「ええ? 勘弁して欲しい」
とはいえ、『アトラスの冒険者』のクエスト分働くのは仕方ないというか当たり前。
あたしが講和の交渉に参加していいなら、双方の納得できるポイントに誘導しやすいとも思う。
『大体帝国側の言い分がおかしい。少々ラグランドに譲ってもいいから、手早くまとめろというのは変だろう』
「プリンスルキウスにも、変だから兄上に通信繋いでくれって頼まれたよ。国益を蔑ろにするのかって、閣下に食ってかかってたわ」
『裏があるのか?』
「うっかり公爵と閣下がリキニウスちゃんルーネに会えなくて寂しい」
『ひどい理由だなあ』
だけじゃないんだが。
「帝国でラグランド可哀そうムードが蔓延してるんだそーな。あんまりラグランドに対して厳しい条件だと、却って政権支持率が落ちちゃうんじゃないかと」
『君、何か仕掛けただろう?』
「わかる? ラグランド人スパイ網と新聞使って、ラグランドの悲惨な現状の情報を帝都にばら撒いたの。スパイ網が優秀で、考えてた以上に効果出ちゃった」
『つまり次期皇帝を狙う主席執政官を締め上げる関節技ってことだな? どうしてそんな工作してて、施政館に信頼されてるのかわからん』
「ラグランドが蜂起したのはあたしのせいじゃないし、あたしがいなきゃしっちゃかめっちゃかになってたじゃん。ちょっとプリンスとラグランドの後押ししただけ」
『ルキウス皇子は次期皇帝争いで有利になるのか?』
どーだろ?
「帝国の首を絞めといて、一方でラグランドから出てくる要求をちょっと抑えれば、主演交渉者であるプリンスの鮮やかな手並みを演出できるんじゃないかとは思ってたんだ」
『脚本が大雑把でかつ内容がえぐい』
「でも閣下に譲っていいって言われたから、大体落としどころ見えちゃったな。どうやってもプリンスすげえって展開にはならない」
『難しいか?』
「ラグランドに花を持たせて即行で交渉まとめる、ってことで満足するしかないのかなあ?」
展開の動かしようによっては、帝国の現政権に決定的なダメージを与えることができたクエストだった。
一気にプリンスを次期皇帝筆頭候補へ押し上げることができたかもしれない。
でもそのためには蜂起を大きくし、ラグランドの犠牲が大きくなって、施政館が市民の批判に徹底的に晒される状況が必要だ。
犠牲が大きくなるのはあたし嫌いだしな。
慈悲深く聖女なあたしには素直であらねばならない。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はプリンスルキウスを連れてラグランドだ。




