第1409話:世論がラグランド贔屓
ホルガーさんが次の在ドーラ大使なんだから、衛兵長もセットでドーラ勤務になる可能性が高いんじゃないの?
ちょっとドーラのヒロインたるあたしが知識を授けておいてやるか。
「首都のレイノスっていう港町がドーラで一番大きくて、今プリンスルキウスが在ドーラ大使として滞在しているのもその町なんだ。駐在武官が勤務するなら当然レイノスになる。レイノスの住人は帝国債持ってる人も多くて、基本的に親帝国だよ」
「ふむ? ドーラは友好独立とは言うが、武力衝突もあったと聞いたぞ?」
結構詳細な報告が植民地にまで入ってるんだな。
帝国はこういうとこすごい。
「あったけど、ごく一部だよ。レイノスの一般の人は戦いがあったなんてこと知らんもん。帝国と仲良くして、輸出したり移民受け入たりしてドーラを発展させるぞーって空気だから。憎っくき帝国って言ってるラグランドとは、雰囲気が全然違うよ。現に今プリンスにつけられてる武官は一人もいない」
「駐在武官ゼロ? まさか……」
すげえ驚いてるわ。
ラグランドじゃ考えられんもんな。
プリンスに随員一人もいないのは別の理由だろうけどね。
「プリンスの下では、帝国軍のクリーク元少将とマックス元中佐が働いてるよ」
「クリーク少将が? 軍を辞したことは聞いていたが」
「やっぱ意外なんだ?」
「ああ。同期で出世頭だったしな」
「クリークさんと同期なのか。もーすっかりドーラに馴染んでるよ。クリークさんの息子とマックスさんの娘は、同じパーティーで冒険者やってるの」
「何とまあ」
人間模様が面白いでしょ?
関わる人間が様々なだけでなく、ドーラという新しい国自体もまた、劇的な変革の真っ最中なのだ。
ドーラいいとこ一度はおいで。
さて、総督府に到着したぞ。
ホルガーさんが言う。
「オードリー様はここまでですな。夕食会の時にまたお会いいたしましょう」
「嫌じゃ。リキニウス殿とルーネと遊ぶのじゃ!」
「そう申されましても……」
ハハッ、ホルガーさん困ってら。
「リキニウスちゃんとルーネは総督府泊りなんだよね。疲れてない?」
「特には疲れてないです」
「船に乗ってただけですしね」
「オードリー。総督府の中で遊ぶなら構わないぞ」
「おお、そうか!」「「「「えっ?」」」」
「何ならお泊りすればいいじゃん」
「よいのか?」
「いいよ。お泊りの用意してきなさい」
「うむ、すぐに。爺、ゆくぞ!」
「は、はい!」
駆け去るオードリーとセグさん。
急ぎ過ぎて転ぶなよ。
ホルガーさんが心配そうに言う。
「いいのですか?」
「いいよ。今一番の不確定要因は過激派のテロなんだ。ラグランドのシンボルたるオードリーが総督府にいることが知られれば、襲撃を食らう確率は減る」
「「「「あっ!」」」」
「ジャブラニさん。オードリーが総督府にいるってこと、なるべく広めといてくれない?」
「うむ、任せよ」
堂々と去るジャブラニさん。
これで打てる手は打った。
「ヴィル、うっかり公爵と連絡取ってくれる?」
「わかったぬ!」
瞬時に掻き消えるヴィル。
ホルガーさんが聞いてくる。
「うっかり公爵というのは?」
「ホルガーさんの頭の中に今浮かんでいる人物のことだよ。リキニウスちゃんの爺ちゃんグレゴール公爵」
全員が苦笑する。
「おもろいじっちゃんだけど、ラグランド交渉には邪魔だわ。あんなのがいると、帝国が譲らなきゃいけない場面が多くなりそうだから、帝都に置いてきた」
帝国にもラグランドにもメリットがなければいけない、ギリギリを見極めるべき交渉なのだ。
撹乱要因はフラグでなくてマジで必要ない。
赤プレートに反応がある。
『御主人。うっかり公爵は施政館にいるぬよ?』
「えっ? 執政官室?」
『そうだぬ』
「うっかり公爵と閣下、どっちが話したそう?」
『両方だぬ』
「閣下に代わって」
公爵邸に行ったらいなくて、施政館だよって聞いたのかな?
ヴィルも段々複雑なお使いがこなせるようになるなあ。
でも何でうっかり公爵は施政館に行ったんだろ?
そろそろあたしから連絡が入りそうだから、閣下に相談に行ったんだろうか?
毎日連絡入れるたび文句言われてたからなあ。
『やあ、ユーラシア君だね』
「うん、神出鬼没の美少女精霊使いことあたしだよ。使者一行は無事ラグランドに到着。今は総督府にいるよ。ルーネに代わろうか?」
『いや、待ってくれ。この通信はホルガーも聞いているかい?』
「聞いております、ドミティウス様」
『交渉は明日になるのだろう? ユーラシア君、終わり次第、リキニウスとルーネロッテを転移でこちらに戻してくれ。これは予と公爵グレゴール殿共通の頼みだ』
「べつにいいけど」
ははあ、寂しくて辛抱たまらんということか。
過保護者だなあニヤニヤ。
一方で慌てるホルガーさん。
「し、しかし、必ずしも交渉が明日一日で終わるとは限らぬのですが」
『ユーラシア君、オブザーバーとして会議に同席してくれ。ルキウスと君がいれば、すぐに交渉を終えられるだろう?』
「終えろと言われりゃ終えるよ? でも駆け引きの余地がなくなっちゃうじゃん。帝国が損しちゃうかもしれないぞ?」
『少々は構わない。実は帝都で世論がラグランド贔屓に傾いているんだ』
ほう、閣下でも無視できないくらいか。
ラグランドのスパイ網いい働き過ぎる。
『早急に和平を結べた方がメリットが大きいと判断した』
「わかった。プリンスルキウスにもそう言っとくね。ルーネに代わるよ」
「お父様、無事ラグランドに着きました。熱帯の蒸し暑さには驚きました」
『ルーネロッテ生水は絶対に飲んではいけないよ暑いからといって布団を剥いだりしないように寝冷えには注意しなさいなるべく総督府内か船の中にいるべき衛兵五人以上ないしユーラシア君のいないところで単独行動を取ってはダメだよそれから……』
おお、閣下の余裕のない早口は新鮮。
娘ラブだなあ。
ネタができた新聞記者大喜びじゃねーか。
『リキニウスちゃああああああん! おんおんおん……』
うっかりさんはうっかりさんで情緒が崩壊してるやんけ。
とっとと交渉を終えて、リキニウスちゃんとルーネを帰さなきゃダメってのは理解したよ。
「閣下じっちゃんじゃーねー。ヴィル、新聞社に行ってビーコン置いてくれる?」
『了解だぬ!』
記者トリオ送って帰ろ。




