第1408話:埠頭を渡る風
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃい、ユーラシア殿。おお、この前の新聞記者諸君ですな」
「「「そうです。よろしくお願いします」」」
昼食後、新聞記者トリオとヴィルを連れてラグランドにやって来た。
今日もジャブラニ衛士長がいる。
「状況は落ち着いてると見ていいかな?」
「ああ。特使一行を乗せた船は、既に港に到着している」
「ほんと? 早いね」
「ああ、たまたま船が見たいと港にいたオードリー様が、船内の昼食会に招待された」
「しまった、あたしも招待されたかったな。昼御飯食べてきちゃったよ」
「失敗したぬ!」
アハハと笑い合う。
「船到着の報を聞いたホルガー総督も、港に向かったところだ」
「あたし達も港行こうか。ジャブラニさんは中央府の留守を任されてるの?」
「いや、中央府はヒャクダラの管轄だ」
「じゃ、使者の迎えに行こうか」
ウォルビスの港はまだ見たことなかったわ。
ラグランドみたいな大きな植民地の貿易港なんだから、結構な規模なんだろうな。
ちょっと楽しみ。
◇
「おーい、ホルガーさーん!」
ホルガーさんと衛兵達は横付けされた船のところにいた。
暑いラグランドであっても、埠頭を渡る風は爽やかだ。
……見通しのいいところだから、何か仕掛けてきたとしても、察知しやすいな。
あるいは船を焼き討ちするという作戦は、夜決行することを計画していたかもしれない。
「や、ユーラシア君。そちらは?」
「帝都メルエルの新聞記者だよ」
「「「よろしくお願いします」」」
ちょっと不可解そうな顔をするホルガーさん。
説明しとくか。
「この前中央府で話聞いて、ラグランド寄りの記事を書いたんだよね。今日は使者が到着したことを含めて、帝国サイドの記事が書きたいみたい」
「ふむ、報道でしたか」
さして興味なさそうなホルガーさん。
まあホルガーさんには、次期皇帝レースにあたしがどういう考えでいるか知らせてないからな。
ただの熱心なジャーナリスト、くらいの理解かもしれない。
「今日の予定は?」
「リキニウス、ルーネロッテ両殿下を総督府に案内し、夕食まで御休息いただく予定だ」
衛兵長が説明してくれた。
魔道士は全員置いてきたんだな。
総督府番か、あるいは夜の不寝番のため今は休ませてるのか。
衛兵長がジャブラニさんをチラッと見る。
「ジャブラニさんとその直属の部下は信用していいから、先導と後詰め頼みなよ」
「う、うん。ジャブラニ殿、よろしく頼む」
「確かに承った」
おお、心強い。
……油断してるわけじゃないが、今過激派に襲撃される気はしない。
オードリーがリキニウスちゃんルーネと一緒にいるみたいだしな。
まあたとえ襲撃されようと、あたしとヴィルがいれば問題ない。
あ、船室のドアが開いた。
リキニウスちゃんとオードリーを先頭に、特使一行が下船してくる。
「リキニウス様、ルーネロッテ様。よくおいでなされました」
「ホルガー総督。ぼくは若輩者ですから、よろしく教えてください」
うん、リキニウスちゃんいいね。
ちゃんとしてるわ。
好感度高い。
ルーネも港に集まった人々に手を振っている。
概ね歓迎ムードだ。
「総督府まで案内いたします」
「お願いします」
ゾロゾロ。
「それにしてもあんた達、随分仲良くなったね?」
リキニウスちゃんとルーネ、オードリーのことだ。
知り合ったのついさっきで、昼御飯一緒に食べただけだろうに。
「わらわに親切にしてくれるのじゃ!」
「オードリー王女はとても元気で、可愛らしいです」
「オードリー様は幼き頃から一人で、周りに子供がいたことなどなかったですから……」
「今だって幼いわ」
侍従のセグさん涙してるやん。
そーか、古き王家の血筋とはいえ、オードリーの立場は微妙だからなあ。
いつ帝国に疑われるかわからなかったろうし、素性の知れない者はもちろん近付けることはできなかっただろう。
身元がハッキリしてたって、オードリーに釣り合う子なんていないだろうし。
考えてみりゃ不憫だ。
ん? 衛兵長どうした?
コソッと話しかけてくる。
「……殿下達と王女の関係は大丈夫なのか?」
「そこ注意してるのか。仕事熱心だね。うちのヴィルがあの三人の近くをふよふよ飛んでるでしょ? 心地いい感情を摂取できるからだよ。つまりあの三人は見せかけじゃなくて本当にグッドな関係ってこと」
「うむ、では心配いらんな」
衛兵長が頷く。
もっとも衛兵長が警戒してるのは、リキニウスちゃんとルーネの近くにいるセグさんかもしれないな。
でもセグさんはどう見てもただの爺さんだぞ?
総督府まで衛兵長と話してこ。
「衛兵長さんはラグランド勤務は長いの?」
「六年になるな。ホルガー総督とともに来たのだ」
「植民地総督の任期って六年なんだ?」
「三年だ。しかし大貴族の名誉職である平和な植民地の総督以外は、一期で終了ということはまずないな。駐在武官も六年が目安だ」
総督って現地との癒着とか賄賂とかの不正もありそう。
でも難しい植民地の総督を一期で交代させてちゃ、治まらんのだろうな。
うっかり公爵が総督やってたドーラは、平和な植民地と見られていたんだろう。
主席執政官閣下とバアルが余計なことしなきゃ、今でもそうだったろうけど。
「衛兵長さんは御家族を帝国本土に残してるの?」
「ああ」
「ええ? 単身赴任六年はキツくない?」
「年に一度の長期休暇で家に戻ると、息子に他所のおじちゃん扱いされる」
「息子さん何歳なの?」
「五歳だな」
じゃあ息子さんがまだ奥さんのお腹の中にいた時、衛兵長はラグランドに赴任してきたのか。
メッチャ不憫だな。
「これあげる」
「何だ? これは」
「『文字を覚えるための札取りゲーム』だよ。ドーラで作って帝国にも輸出してるの」
「ほう? 小さい子用の玩具か」
「小さい子に限ってるわけではないけどね。ホルガー総督の任期満了で、多分衛兵長さんも本土に帰れるんでしょ? 息子さんと遊んでやりなよ」
「おお、すまんな」
嬉しそうな衛兵長。
「もし次の勤務地がドーラになったら、御家族も連れておいでよ。ドーラは温暖でいいところだよ」
「ドーラ人にとってはいいところなのかもしれんが、魔物が近所を闊歩してるのだろう?」
「してないわ! 駐在武官の住む首都に魔物なんかいないわ!」
どんな誤解だ。




