第1407話:デカ黒妖石をキープしたい
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとする、いつもの儀式だ。
ニコニコしながらヘルムート君が話しかけてくる。
「ユーラシア殿、よく来てくれたな」
「こんにちはー。その後ガータンはどう?」
「絶好調だ」
黒妖石の回収のためにガータンにやって来たのだ。
絶好調ってのは素晴らしいね。
もっとも頭を悩ます要因でしかなかった空の民が、野心的に働く半領民となったんだから当然だろう。
しかも耕地面積を制限していた黒妖石を除去できる用具を貸し出せる体制だ。
広い土地を生かせて結構何でもできる状態だから、領主としては楽しいだろうな。
ヴィルがヘルムート君とベンジャミンさんの間に行った。
いい感情が溢れているんだろう。
ベンジャミンさんとヘルムート君が口々に言う。
「黒妖石の除去作業がかなり急速に進んでいるのですぞ。ガータン領の耕作可能面積は、今年中に倍に広がるのではあるまいか」
「倍? メッチャすごいね」
「うむ、今年度中の作物の増産は空の民の増加した耕地に任せ、本来の領民の行った黒妖石除去地は、将来を見越してもやし用の大豆生産と牧草地、果樹園にする目論見だ。今年秋には空き倉庫を利用したもやし生産の開始。来年から少しずつ家畜を増やし、帝国一の大規模な牧場を作りたい」
「いいねえ。帝国一の大牧場だったらそれだけで観光資源だよ。人を呼べちゃうねえ」
「ハハッ、将来が楽しみだ」
ヘルムート君もベンジャミンさんも御機嫌やないけ。
もやしはドーラでも広めたい。
ガータンで生産が始まったらどんな感じか、ノウハウ教えてもらおーっと。
ベンジャミンさんが何かを見せてくれる。
ガータンの地図か。
「こういう青写真ですな」
へー、最初から端っこの方まで使うんだな。
とゆーか、端っこを酪農や果樹園、ウルシの生産に利用するのか。
「随分と計画的だね?」
「住民の都合、生産の都合、輸送の都合がありますでな。今からガータンをデザインして発展させるのですぞ」
「あっ、ベンジャミンさんの得意分野って町造りなの?」
「さよう。都市計画が専門ですぞ。なかなか初期から携われる機会などありませんでな。我が生涯を懸けた作品にして見せまする!」
作品だって。
ベンジャミンさんすげえやる気やん。
つかこの通りのガータンになったら、今のドーラよりずっと人口多くなりそう。
スイープのお頭が来た。
「よう、ドーラのお嬢さんか」
「お頭こんにちはー。いっつもこっちに来るんだねえ」
「ちょこちょこ用があるからな。今日は黒妖石を持ってきたんだ」
「ユーラシア殿、こちらに積み上げてあるぞ」
「もらっていこうかな」
掘り出した黒妖石のある場所へゴー。
「……うん、いいね。結構あるじゃん」
「だろう?」
でも惜しいことに、思ったほど大きいやつがないな。
転移石碑にするには大きい黒妖石が必要なんだが。
「大きいやつはあんまりないのかー。ちょっと残念だな」
「大きいやつも出るんだぜ?」
「そーなの? 大きいのも欲しいんだけど」
「いや、大きくちゃ運びにくいだろ? 苦労して割ってから運んでるんだが」
「何とビックリ」
衝撃の事実なんだが。
実にもったいない。
でも思い返してみれば、大きさに関してはあたし何も言ってなかったわ。
「よし。じゃあ、取りに行くから集落に置いといていい。さらにこの黒妖石より大きいサイズだったら有償で引き取ろう」
今ある中で一番デカい黒妖石を指す。
これなら十分転移石碑にできるサイズだ。
「有償って、いくらで買い取ってくれるつもりなんだい?」
「おっ、気になっちゃう? デカ黒妖石三つでこれ一個と交換でどうだろう?」
ナップザックから透輝珠を取り出す。
「これは魔宝玉だな?」
「透輝珠だよ。ガータンやパッフェルでの相場は知らないけど、ドーラだと一五〇〇ゴールド、帝都だと三〇〇〇ゴールドで売れる」
「……つまり、大きい黒妖石一個は数百ゴールド以上相当ってことかい?」
「結構な交換レートでしょ? 魔宝玉もらっても処分できなくて往生するかもしれないから、ベンジャミンさんに透輝珠渡しとくよ。あたしが引き取った分だけ、ベンジャミンさんからおゼゼもらってね」
「えっ? そのバッグ、どんだけ魔宝玉が入ってるんだ?」
「このナップザックねえ。いくらでものが入るマジックアイテムなの」
「ユーラシア殿! ここで魔宝玉を出されても困りますぞ!」
「うむ、屋敷で預かろう」
透輝珠が大量にあるなら、帝都へ向けての大規模な商隊を組めるだろ。
帝都でなくてもパッフェルとの交易で処分できるだろうし。
領主屋敷へ。
「……呆れた量だな」
「魔宝玉はドーラ名物だね。ある種の倒しにくい魔物のドロップアイテムなんだ。お礼に使うのにちょうどいいから、最近あんまり売らずにキープしてあったの。結構な量だった」
「ふむ、ではとりあえず一〇〇個預かろう。よろしいか?」
「うん」
転移石碑にできるサイズの黒妖石三〇〇個分だ。
やったぜ!
当面のデカ黒妖石のキープ量としては十分過ぎるぞ。
「じゃ、さっきのデカ黒妖石は大きさの基準として置いてくね。あれより小さくても、形が良くてムダな部分がなければ有償で引き取るから、どうかなーって大きさのやつも一応取っておいてよ」
「わかったぜ。その旨を各集落に通達しておく」
「よろしくお願いしまーす」
ガータンは日の出の勢いだなあ。
傍から見てるあたしにとっても、今後の発展がワクワクするくらい楽しみだよ。
ヘルムート君が言う。
「よいのか? かなりの援助を受けてしまう格好になるのだが?」
「いいんだよ。黒妖石はあたしにとって価値のあるものだし」
とゆーか黒妖石の入手見込みがなくなると、『アトラスの冒険者』代替組織設立が頓挫してしまうわ。
ドーラのピンチだ。
「もやしの生産が始まったら見学させてよ。参考にしたい」
「む? ドーラでもやし生産はしないのか?」
「いずれは絶対やりたいけど、直近はムリなんだ。移民が一杯来るから、余分な豆がないの」
ドーラもまだまだこれからの国だからね。
おゼゼがない分、ガータンより発展させるのが難しい気がしてきたわ。
「今日は帰る。またね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動、大量の黒妖石を持って帰宅する。




