第1402話:ラグランドについて予習
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
今日はうちの子達も連れて、使者の乗るラグランド行きの船にやって来た。
お土産にお肉があるので、夕御飯を食べていくつもりなのだ。
リキニウスちゃんが言う。
「それはいつものセレモニーなんですね?」
「いつでもどこでも何度でも必ずやるセレモニーなんだよ」
「いつでもどこでも何度でも必ずやるセレモニーなんだぬ!」
ヴィルは可愛いし、いい子だからね。
でもリキニウスちゃんも可愛いぞ?
ルーネが物珍しそうだ。
「精霊さん達は初めてですね」
「精霊は親和性の高い人としか喋んないんだ。機嫌が悪いわけじゃないから、気にしないでね」
「「わかりました」」
よしよし、素直ないい子達。
「御飯をごちそーになろうかと思って、お土産持ってきたんだよ。じゃーん!」
「お肉と、あっ、大きな卵!」
「ワイバーンの卵だよ。ドーラでは高級食材とされているんだ。高級かどうかは大事じゃないけど、大変においしいとゆーことは重要だね」
「そ、そちらの肉は?」
「コブタマンのお肉。脂の乗りがいいから、炙り焼きしてこの特製の塩をかけて食べると最高にうまーい!」
「「……」」
あれ、魔物食材ってことで尻込みしてるな?
帝国の人はこういう反応多い。
魔物だからってせっかくのおいしい食材を食べないなんてもったいない。
「帝国だとお肉っていうと家畜肉だよね?」
「「はい」」
「ドーラでも基本は同じなんだけど、ビンボーな田舎で家畜肉は高級品でね。野生の小動物や魔物のお肉が御馳走なの」
「……魔物肉が食べられないようでは、冒険者になれないということですね?」
え? そんなことはないよ。
ルーネが悲壮感漂う顔でコブタ肉を睨みつけてますけど。
まーでも草食魔獣のお肉を食べたことのない冒険者はいないと思う。
「いや、単純においしいから」
「おいしいんですね?」
「魔物って邪気持ってて人間に敵対する生き物や精神体のことじゃん? 邪気を持ってようが敵対しようが、味に変わりはないんだよね。草食魔獣のお肉は大体おいしいの。具体的に例えばマッドオーロックスっていうデカいウシの魔物がいるけど、家畜のウシの肉と区別つかないな」
「じゃあドラゴンの肉は食べないんですね?」
「何でもかんでも食べるわけじゃないよ。ドラゴンを食べたことはないけど、美味いって話は聞いたことないな。肉食のやつは大体不味いって言われてるんだ。お望みとあれば今度ドラゴン肉持ってくるけど?」
「「いえいえ!」」
「あたしも気乗りしないわ。ドラゴンは鱗が硬いから、お肉にするの大変だもんね」
「「そういう理由じゃないですけど!」」
どういう理由だったろ?
リキニウスちゃんとルーネ、声ピッタリじゃん。
仲いいな。
「まーあたしもスライムや亜魔族を食えって言ってるわけじゃないんだ。コブタ肉炙り焼きフルコンブ塩は、皇帝陛下でも食べたことないくらいの美味だと保証するよ」
「それほどですか?」
「それほどなんだよ。あたしを信じなさい」
「楽しみです!」
皇帝陛下だったら献上品のワイバーンの卵とかなら、ひょっとすると食べたことはあるかもしれない。
でも今日ドロップしたばかりの卵を食べたことはさすがにないだろ。
お肉と卵を調理室に持っていってもらう。
お肉は炙り焼きでお願いしまーす。
夕食ができ上がってくるまでには少し時間あるな。
「さて、いよいよ明日、ラグランドに到着だね。予習はできてるかな?」
ルーネが発表する。
「はい。ラグランドはおよそ七〇年前にカル帝国支配下に繰り入れられた、海外植民地の一つです。人口が多く、反帝国感情の強い地とされ、反乱のたびに税率が上がっています。高価な換金作物の栽培が奨励されていると聞きます」
奨励、か。
奨励か強制かはこの際どっちでもいいな。
カカオが帝国に商品価値以下の値段で安く売られるんだとすると、ドーラが買うのも難しくはなさそう。
帝国商人以上の値段をつければいいんだから。
今までは帝国しか商売相手がいなかったかもしれないけど、今後は違うぞ。
「帝国は……嫌われているのでしょうね。しかし帝国との結びつきは強いです。ラグランドからの移民や労働者受け入れは多く、貿易額も海外植民地の中で最も大きいです」
ふむ、帝国にとってラグランドが重要な地であることは間違いなく、ラグランドにとって帝国は必須だ。
「ラグランド人の間で旧王家は尊敬されているらしいです。幾度かの反乱で、直系はほとんど残っていないとのことでした」
「うん、いいね。よく勉強してる。ルーネ御苦労様」
「いえ、ありがとうございます」
頬を染める。
ルーネ可愛いよルーネ。
「まーこれ以上ラグランドから搾り取ろうとするのはムリだわ。だってビンボーだもん。耕地広げるのも難しいみたいだし」
「「わかります」」
「蜂起してるって言っても大したことないんだよ。都にいるとどこで騒いでるのかわからんくらい。旧王族含めたラグランド側の指導者がよく抑えてるんだ。これは帝国が艦隊を送らず対話姿勢を見せていることが大きい。交渉は非常に重要」
「「はい」」
「いや、全然緊張することはないんだよ。交渉はプリンスルキウスに押しつけとけばいいからね。あんた達は友好的な姿勢を見せてればオーケー」
リキニウスちゃんとルーネは可愛いので、ニコニコしてればオールオーケー。
「オードリーっていう、旧ラグランド王家の正統な血を引く唯一の王女がいるんだ。年齢はリキニウスちゃんよりちょっと下だと思う。元気ないい子だよ。旧王家が尊敬されているなら、オードリーと仲良くしとくことはすごく大事だな。ラグランドの人達の印象が変わっちゃう。それがあんた達の役割になるよ」
「仲良くですか。帝都に招待しても?」
「おーいいね。オードリーも帝都行ってみたいって言ってたから、すごく喜ぶと思う」
オードリーみたいなちっちゃい子が、ラグランドにいて仕事ができるわけじゃない。
皇族に招待されて友好使節として帝都行きなら、反対する人いないだろ。
「夕食ができ上ってきましたね」
「やたっ! いただきまーす!」
コブタ肉フルコンブ塩の必殺の美味さを思い知りなさい。




