第1398話:使者到着一日前のラグランド
――――――――――二二九日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシア殿、いらっしゃい」
ラグランド首都ウォルビス中央府の正面玄関横にやって来た。
相変わらず静かだな?
蜂起の気配は感じられない。
「こんなに静かだと、蜂起が起きている最中だってのを忘れそう」
「住民も同じ気持ちだと思いますぞ。帝国との交渉が終わるまではこのままと、衛士長ジャブラニ殿達が抑えておりました」
「帝国の鎮圧行動もないもんねえ」
「軍艦が派遣されず、しかも特使の船がタムポートを出たということが知れ渡っておりますでな。騒ぐだけ損だろうと。正直拍子抜けの感があります」
相変わらずすげえ情報網というか連絡網だこと。
「今日は湿度が低い気がするねえ」
「ここ何日か雨がないですからな」
急なにわか雨が多い土地柄だが、ここんとこ降っていないということらしい。
基本的に水には困んない土地ということだな?
「ユーラシア!」
「おっはよー。あれ、どうしたの? 八重歯がチャーミングだよ」
魔法連の頭ヒャクダラだ。
焦っているようだが?
「すまねえ。部下が二人、蜂起側についちまったんだ」
「聞いた聞いた。飛行魔法の使い手だって?」
「そうだ。あれ、あんた何日かこっち来てなかったよな? 誰に聞いたんだ?」
「ホルガー総督だよ。帝国施政館で聞いたことは、ヴィルを通してホルガーさんに情報流してたんだ。だからこっちの様子もホルガーさんに聞いてた」
納得するヒャクダラ。
「ああ、連絡取ってたのか。帝国本土からの使者は明日到着するって話だが、あんたからの情報だったんだな?」
「そうそう。あんた達もホルガーさんと話できてるのはいいね。合格点をあげよう」
「しかし……」
「飛行魔法の使い手のこと? 軍艦焼き討ち作戦の肝と考えてた人達でしょ? 本人もやる気あったろうし、しょうがないぞ?」
「どうしたらいいだろう?」
「交渉の終了までは待ちの雰囲気なんでしょ? じゃあ特に何も……いや。間接的にでも蜂起積極派の人達に話が伝わるなら、火は使うなって言っときなよ。総督府焼き討ちとか考えてるかもしれない。今空気が乾燥してるから、間違って都全域に延焼したりすると、住民にすげー被害出ちゃいそうなんだよね」
「お、おう、わかったぜ」
「その他の状況も確認させてくれる?」
中央府内部へ。
◇
オードリーに侍従セグ、衛士長ジャブラニ、魔法連の頭ヒャクダラ、内政担当のリリウオ。
全員集合してるってことは?
「蜂起は相当安定してるんだ?」
「うむ。しかしごく一部過激派がおるのだ。一〇名以下だが」
「まー世の中いろんな考え方の人はいるからね。むしろ皆が同じこと考えてちゃつまらんとゆーか」
飛行魔法の使い手もその過激派のメンバーということか。
過激派も一〇名以下じゃ、どうしたって住民の支持を得られないということに気付いて欲しいもんだ。
リリウオが言う。
「帝国本土からの特使は明日到着と伺いましたが」
「うん。何事もなければ明日到着予定。昨日使者の乗った船がシーサーペントに追っかけられてさ。予定が狂うとこだったよ」
「魔物か? どうしたのだ?」
ワクワクのオードリー。
「海ヘビの魔物だよ。たまたまあたしが連絡取りに出向いてた時に現れたから、ばさーっと倒したよ」
「おお、さすがユーラシアだな!」
「おいしくなさそーな魔物はうざったいだけだぞ? 海じゃドロップアイテムあっても回収できないし、働き損」
皆さんに納得していただけないようだ。
何故に?
リリウオが続ける。
「正使はリキニウス皇子だと聞きました」
「うん。リキニウスちゃん九歳」
「意図がサッパリわからないのですが」
「ドミティウス主席執政官閣下には元々、皇位継承順位の高い皇族を使者にしようって考えがあってさ。暇そーな皇位継承権一位のセウェルス第三皇子に任せようと思ってたけど、頭がおかしいの。使者はムリって結論。リキニウスちゃんの母方の爺ちゃんがやかましい公爵で、この公爵を黙らせるためにリキニウスちゃんに箔をつけさせることになった」
「結果子供が使者ですか」
「実際の交渉は在ドーラ大使ルキウス第四皇子が行うんだ。内緒だけど、この人はドミティウス主席執政官閣下がコケると次期皇帝だよ。立派で能力もあって気さくな人だから、話しやすいと思う。それからもう一人、主席執政官閣下の娘のルーネロッテ皇女がついて来る。皇族でも重要どころが三人来るんだから、決してラグランドが軽視されてるわけじゃないってことは理解してね」
頷く面々。
「ルキウス……確か以前次席執政官だった?」
「そうそう。ホルガーさんのラグランド総督としての任期がもうすぐなんだって? 任期切れたらホルガーさんが在ドーラ大使になって、プリンスルキウスは次席執政官に復職って聞いた」
「ルキウス皇子はユーラシア殿が評価するほどですか? あまり情報を収集していない皇子なのです」
「一目見ればわかるよ。こいつはやるやつだって」
何てったってプリンスはレベル五〇『威厳』持ちだからな。
しかしメッチャ情報を集めてるはずのラグランドでも、プリンスはスルーなのか。
「もうホルガーさんとの間で、大体どの辺で決着ってまとまってるんでしょ?」
「というわけでもないのです。しかし皇族三人が来るほどの熱の入れようとなると、我々側が引かねばならぬのかと……」
「おいこら、蜂起まで起こして腰引けてるんじゃないよ。ホルガーさんが難色示してる条件って何? 差し支えなければ教えて」
「賠償金です。というか、講和金をもらえればと」
「おゼゼかあ」
おゼゼ払うと譲歩したって印象ありありになっちゃうから、帝国は嫌がるかもな。
「おゼゼじゃなくて、穀物一杯ちょうだいなら通るんじゃないかな? ラグランド可哀そうイメージを帝国に植えつけてるところだから。穀物じゃなくても、ものなら何でもいいか」
「なるほど、情報で有利を導く戦略でしたな」
「交渉の際に、プリンスルキウスに直接言ってみなよ。あたしも前もってプリンスに言っとくから」
「わかりましたぞ」
「じゃ、あたしは帰るね。プリンスルキウスは明後日連れてくればいいのかな?」
「ええ、お願いいたします」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




