第1380話:魔物退治用の人員を鍛える
あれ、ヒゲピンのおっちゃんが来たぞ?
「伯父上!」
「おっちゃん、こんにちはー」
「ユーラシアではないか。リリー様、お久しぶりです」
「ザムエル叔父上もしばらくぶりだったの」
「リリー連れて遊びにきたんだ。おっちゃんもいたの?」
「最近はゼムリヤ宮で執務しているのだ」
辺境侯領を担う人材としてしごかれてるんだな。
もっとも元々一通りの領主教育は受けているんだろうけど。
「ザムエル、何事だ?」
「魔物が出たとの報告です」
「うむ、急行しよう」
「じっちゃん待った。ゼムリヤってひょっとして魔物退治の人員ほとんどいないんじゃない?」
「ああ。俺が始末するのが通例だ。兵にも合同魔物狩り訓練を行わせてはいるが、まあ不十分だ」
「よろしくないなー」
合同訓練でゾロゾロ兵士連れてったら、結構な魔物以外は逃げちゃうわ。
ヒゲピンのおっちゃん達と行ったこの前の魔物狩りでも、兵士は慣れてないのが丸わかりだもんな。
レベルはそれなりだったから、魔物退治の経験がないわけではないんだろうけど。
「今後の課題だな。しかし目の前の魔物退治が先だ」
「魔物が出たのはどこ?」
「聖モール山の麓だ」
「この前のとこやん。魔物多いんだなあ。クララ、お願い」
「はい、フライ!」
びゅーんと山の麓へ飛ぶ。
「おっちゃん、愉快な悲鳴上げなくなったなあ。つまんない」
「何を言うか! いや、オレはまだ執務中だったのだが」
「早く言ってくれないと。連れてきちゃってごめんよ。とっとと片付けよう」
村長さんが来た。
慌てなくていいよ。
転ぶと危ないぞ?
「メルヒオール様!」
「うむ、魔物が現れたと報告を受けた。どこだ?」
「西の境です。柵を壊されまして」
「急ごう」
再び『フライ』で飛ぶ。
あ、見えてきた。
「木人か。黒っぽいね?」
「シャドウプラントだな。トレントよりやや敏捷性は高いが」
といっても所詮は植物系の魔物だ。
スピードなんてたかが知れている。
でも一晩あると割と長い距離歩いてきちゃうみたいだな。
幹を鞭みたいにびゅんびゅんしならせて攻撃してくるから、結構な威力があるのだ。
レベルの低い村人達にとっては、かなり危ない魔物ではある。
「我が倒す!」
「え? リリーは拳士じゃないか。あいつ結構リーチがあるから、リリーには向いてないぞ? あたしに任せなよ」
「うむ、任せた」
素直だな。
レッツファイッ!
遠めの間合いからバサッバサッと腕みたいな太い枝を刈り落とし、最後に胴斬りと。
「はい、お終い」
「見事だの!」
『スナイプ』を装備してりゃ、向こうからは届かない間合いで一方的に攻撃できる。
卑怯?
あたしには戦闘を楽しもうなんて殊勝な趣味はないんだわ。
見物の村人が、拍手と感謝の言葉もそこそこにシャドウプラントの亡骸に群がる。
あれ、亡骸をバラしてるじゃん。
何かに使えるのかな?
「木人は生木でもよく燃えるのだ。薪に最高だからな」
「そーなの?」
火の魔法に弱いって知識はあったけど、木人ってあんまり遭ったことないから、薪までは思い至らなかったよ。
木人の図体は結構なサイズだから、村人の皆さん全員に一抱え分くらいの薪を提供した格好になるな。
魔物についても地方ごとに生活の知恵があるんだなあ。
「じゃあ戻ろうか」
「もうか? 余韻がないな」
「食べられない魔物だとテンション上がらなくて」
アハハと笑いながら『フライ』で宮殿へ。
メルヒオールさんが言う。
「先ほどの魔物退治の人員の話だが」
「兵隊さんに訓練はやらせてても、結局危ないから魔物が出るとじっちゃんが倒しちゃってるんでしょ? それじゃ人は育たないんだって」
「しかし魔物はこちらの都合に合わせてちょうどいい強さ、ちょうどいいシチュエーションで出現するわけではない」
「うーん、ごもっとも」
魔物退治の人員を育てる環境にないということか。
山の魔物結構強いしな。
さっきの木人でも、安全に倒そうと思えば中級冒険者くらいのレベルの人が数人必要だろうし。
雪崩みたいな特殊要因を考えるとさらに難易度は跳ね上がる。
とはいっても、魔物が出た時メルヒオールさんが出張らなきゃいけない今の体制は論外だわ。
領主がそんな仕事しててどーする。
魔物退治用の人員を育成するのは当然として……。
「……リリーに鍛えてもらえば?」
「何?」
「リリーの住んでる塔の村のダンジョンは、階層によって初心者から上級者までドンと来いなんだ。スキルも売ってるし、リリーが一ヶ月も鍛えれば立派な中級冒険者になるよ。じっちゃんのお供くらい余裕で務まる」
「爺様、我に任せるのだ!」
メルヒオールさん考えてるやん。
何ためらう要素があるのよ?
「しかし、特別扱いの兵になってしまうな」
「魔物退治の人員はじっちゃんの親衛隊ってことにしときゃいいんじゃないの? 魔物出現の報告あってすぐ現場行かなきゃいけないなら、普段の兵隊さんの業務なんかやってらんないじゃん。つか何でじっちゃんには衛兵いないのよ?」
「必要なかったのでな」
メルヒオールさんレベル高いからわかるけれども。
どうやらメルヒオールさんには、全ての兵が魔物退治に従事できるようにしたいって構想があったみたいだ。
けどムリとゆーもんだぞ?
ヒゲピンが言う。
「伯父上、以前の魔物退治でユーラシアに言われたのだ。兵士と冒険者では求められていることが違うと。魔物が強ければ撤退して策を練って挑まねばならぬ」
「判断力と柔軟性か。となると多数の人員は割けないが」
「今までじっちゃん一人で手足りてたくらいなんでしょ? 数人でいいよ。兵隊さんとしての考え方にまだ染まってない、経験の浅い人か新兵がいいかな。希望者募って、見込みのありそうな人を三人くらい選んどいてよ」
「うむ、リリー。訓練を頼んでいいか?」
「任せるのだ!」
ハハッ、まあ鍛えるのは感覚派のリリーじゃなくて黒服の仕事になるだろうけれども。
「二日後に来てくれるか?」
二日後ならまだラグランドに使者が行ってることないな。
「リリー、二日後だって。起きられる?」
「ムリだ。午後にしてくれ」
「じゃ、二日後の午後ね」
よし、これでゼムリヤの魔物も大丈夫だろ。
「爺様。今日は帰るのだ」
「うむ、また来るんだぞ」
「バイバイぬ!」
ひしと抱き合う二人。
愛情濃いなあ。
新しい転移の玉を起動し帰宅する。




