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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1379話:『アトラスの冒険者』の代替組織

「まだゼムリヤはちょっと寒いね」


 ヒイラギがたくさん植えてある庭を散歩する。


「ハハハ、ドーラに比べるとな。しかし暖流の恩恵を受けているゼムリヤは、ガリアに比べればうんと温暖なのだ」

「海水の流れが気候に大きく影響するもんなのか」


 暖流大事だな。

 しかし寒い地域からの海流も悪いことばかりじゃないらしい。

 寒流にしか乗らないおいしい魚もいるそうな。

 おいしい魚もひっじょーに重要だしな。

 海も奥が深い。

 いや、深海がってことじゃなくてさ。


「ドーラの近海は魚人の領域なんだよね。だからドーラ人は海や魚のことはよく知らなかったの。タブー視されてて」

「ほう、もったいないことだな」

「うん。でも魚人との交流も進んでるから、これからだと思う」


 あえて『知らなかった』と過去形を使った。

 去年の魚フライフェス以降、状況は大きな変化を見せているからだ。

 この前行政府での食事にエビのフライが出てきた。

 魚人から売り込んできたんだかこっちからおいしいものないかって聞いたんだか知らんけど、話ができてるってことだ。

 今後の魚食文化の発達がとっても楽しみ。


 リリーが言う。


「我はヒイラギの木が好きなのだ」

「ふーん、何で? 食べるとこないよね?」

「ヒイラギの葉は広く、鋭いであろう?」


 唐突に謎掛けみたいなこと言いだしたぞ?

 どうした、リリーらしくもない。

 信仰みたいなことかしらん?


「ヒイラギの葉のような人間でありたいと、常々思っていたのだ」

「ヒイラギの葉か」


 幅広だが、特徴的な硬く尖ったところのある葉だ。

 意味するところは……。


「……心は広く、攻めは鋭くみたいな意味合いで?」

「うむ。おかしいか?」

「いや、あたしも包み込むようなボケと切り込むようなツッコミを理想としてるから、気持ちはわかる」


 やや寂しさを感じさせる、乾いた笑い。


「……ユーラシアが羨ましい」

「どの辺が?」

「誰よりも、何よりも自由ではないか!」


 言いたいことは理解できる。

 あたしには生きていく上でのしがらみが特にない。

 本当にやりたいようにやれる立ち位置だ。

 皇女のリリーとは違う。


「ユーラシアが我の立場だったらどうだ? 息苦しくはないか?」


 救いを求めるかのような、魂の叫びに似たリリーの声。

 あたしだって空気は読む。

 茶化せる場面じゃないな。

 どう答えよう?


「……リリーには皇帝になる目があったんだ」

「「「えっ?」」」


 リリーと黒服、メルヒオールさんの声が揃う。


「もしカル帝国がソロモコの征服に成功していたら、泥沼の対魔王戦に突入した。疲弊した帝国から海外植民地が次々に独立する。人心と求心力を失って、リリーの人気に頼らざるを得なくなるのさ」

「そ、それは……」

「地方領主の離反も相次ぎ、帝国も現在の本土領の三分の一ほどの規模に縮小。小国が世界の覇権を争う、戦乱の世に突入する予定だった」

「「「……」」」

「って言ったら信じる?」

「「「えっ?」」」


 たわわ姫に教えてもらった、一つの可能な未来だ。

 もうその世界線はなくなったし、そもそも単なる夢なのかもしれない。

 忘れちゃってもいいけど心の片隅に引っかかって忘れられない、記憶の残骸みたいな何か。


「な、何だ。冗談なのか?」

「冗談か。冗談なのかな? あたしにもよくわかんないんだ。確実なのは、人類が明らかに衰退に向かうルートが消えたこと。未来は面白いぞ?」

「ユーラシア。君は何を……」

「ん? 『閃き』固有能力持ちのカンだぞ?」

「カン? カンか」


 ただのカン。

 メルヒオールさんも納得してちょうだい。

 あたしにもこれ以上説明できないのだ。


「貴公子を手玉に取ってさ。旦那を支えて持ち上げても良し、自分が影響力増すこと考えても良し。リリーの立場は愉快だと思うよ」

「我は『アトラスの冒険者』がいいのだ!」

「でもなー。これ内緒だぞ? 『アトラスの冒険者』は廃止されちゃうんだ。数ヶ月以内に」

「「「えっ?」」」


 驚くのはわかるけど、三人ともさっきからリアクション大きくない?


「どういうことなのだ!」

「まだ言えないことが多いの。要は運営側の都合なんだよね。『アトラスの冒険者』の目的が果たされたんだ」

「目的が果たされた?」

「今はそのくらいで勘弁してくれる? いずれ話せる時が来ると思う」

「うむ、わかったぞ」


 『アトラスの冒険者』の裏事情なんて、全然リリーに関わりのないことだ。

 話してもつまんなくて寝ちゃうと思うぞ?


「今『アトラスの冒険者』はドーラの治安維持に関わってるんだよ。悪いことしてるやつとっ捕まえて、魔法の葉青汁飲ませる権限が与えられてるの」

「そうなのか? 知らなんだぞ」

「塔の村には伝わってなかったか。『アトラスの冒険者』が急になくなると、ドーラの治安が心配ってこともあるんだよね。だから代替組織を作ろうかと思って」

「代替組織? とは?」

「エルが持ってる転移の玉あるじゃん? あれはデス爺の設計なんだ。『アトラスの冒険者』とは全く関係のないものなの」

「村長の転移術をキーにして代替組織を作る?」

「うん。自分のホームと転移石碑ステーションに飛べるようにした転移の玉をデス爺に設計してもらって、代替組織の構成員に渡すでしょ? ステーションに依頼を集める、ステーションから主要な町村と魔境に転移できるようにしとけば、かなりのことができるじゃん」


 リリーが食いついてくる。


「実現の可能性はどれほどあるのだ!」

「おおう、リリーやる気だなあ。転移の玉に使う黒妖石の入手も加工も目処ついてるんだ。デス爺がアレクに転移術の神髄を継承しないままポックリ逝くことがなければ、早期に実現できるぞ? リリーも代替組織に入ってくれる?」

「もちろんだ!」

「ホームはどこにあったって構わないんだぞ? 例えばこの前の貴公子こてんぱんイベントの三人の誰かと結婚しても、すぐドーラに遊びに来れちゃう」

「おお、なるほど!」


 リリーがドーラに遊びに来ることに関して、あの三人が反対すると思えん。

 とゆーかドーラと強い繋がりを持つメリットに気付かないわけがない。


「リリーよ、婚姻にも前向きになってくれるか?」

「あんたはあたしの友達なのだ。どうなろうと人生楽しいぞ?」

「うむ!」


 リリーが満開笑顔だ。

 ニコニコしてる顔はすごく魅力的だな。

 ヴィルがリリーにくっついてるわ。

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