第1378話:未来を考える時間
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村にやって来た。
うまいことリリーを捕まえられたなら、ゼムリヤでごちそーされよう。
さもなければ塔の村の食堂で昼食だな。
「いるぬよ?」
「ラッキーだねえ。 おーい、リリー!」
「おお? ユーラシアではないか」
嬉しそうな太眉の皇女リリーと従者黒服が寄ってきた。
「もう昼ではないか。昼食を食べに来たのか?」
「どっちかとゆーと昼食を食べに行こうかとしているところだな。リリーは今日これから予定ある?」
「む? いつもの通り、軽く食事を取って塔に入るつもりだったぞ?」
「メルヒオールさんとこ行かない? リリーを連れてこいって昨日言われたんだ」
「ゼムリヤの爺様が? 何か用でもあるのかの?」
「いや、理由は聞かなかったな」
あたしもエンタメの匂いを敏感に感じ取ったから、それ以上ツッコむのはお約束に反する気がしちゃってたわ。
何もなしで呼んでこいって話にはならんだろうから、用があることはあるんじゃないの?
でも期限を切られたわけでもないし、できればみたいな感じだったから、リリーに会いたいだけだと思う。
「うむ、連れていってくれ」
「じゃ、あたしのホームに一旦戻るね。お土産にお肉持ってくんだ」
「ワイバーンの卵はないのか?」
「ないな。残念ながら」
リリーはワイバーンの卵が好きだなあ。
リリーが絶対に捕まるんだったら用意したけど、約束したわけでもなかったしな。
今日は仕方ない。
勘弁してちょうだい。
「行くぞー」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
「爺様!」
「リリーよ、よく来た!」
ゼムリヤの宮殿にやって来た。
こっちでヴィルが飛びついてきたと思ったら、あっちではリリーがメルヒオールさんに飛びついてら。
リリーは爺ちゃんっ子だなあ。
メルヒオールさんが言う。
「今日は精霊達とともに来てくれたか」
「お昼御飯をじっちゃんにごちそーになるつもりで来たんだ。これ、お土産のお肉」
「ハハッ、すぐに用意させよう」
やったぜ、お昼御飯ゲットだぜ!
◇
「お肉とソバは合うなー」
お肉のパワーを堪能してから、ソバのサッパリした清涼感で締めるとちょうどいい。
これが名コンビか。
「ユーラシア、ドーラではソバは育たんのか?」
「ドーラの夏にソバは合うと思われますが……」
リリーに黒服まで乗ってきた。
この二人ソバ好物なんだな。
「育てられるよ。でも麦やトウモロコシに比べると収量が少ないんだって。今のドーラは移民が多いじゃん? 腹に溜まるもの優先で作んなきゃいけないからさ。ソバ作ろうとは言いにくいんだよね」
「うむ、仕方ないの……」
「むしろリリー達の方で作って欲しいわ」
「リリー達の方で、とは?」
メルヒオールさんも興味があるようだ。
「あたしが住んでるのはドーラのノーマル人居住地区の中では東なんだ。大きな平野があって、どんどん帝国からの移民を受け入れてる地区ね。リリーが住んでるのは逆に西端なの。東ほど人口が急増しないんで、農産物の生産余力はあると思うんだよね」
「メキス中佐に頼んでみるかの」
「いや、塔の村じゃ今は畑の面積足りないからムリ。冒険者に供給する分だけでも足りないでしょ。可能性があるとするとポーンだな。温泉村ノヴォリベツより少し東の自由開拓民集落で、ドーラの西域では一番農業がうまくいってるところ」
「ドーラでも農業が失敗することはあるか?」
「とゆーか魔物が多いからね。ポーンってとこは、どういうわけか魔法の葉がよく育つの。魔法の葉が生えてると草食魔獣寄らないじゃん? だから魔物の被害が少ないみたい」
「ふむ、面白い」
あれ、リリーが何か考えてるな。
「ポーンとは、確かアグネスの出身地だな」
「アグネスって、猫っぽい目の氷魔法使い? 知ってるんだ?」
デミアンの妹アグネスと面識があったか。
「アグネスは最近、塔の村で冒険者活動をしているのだ。フィフィリアのパーティーとともにダンジョンに潜ったこともあるはずだぞ」
「塔の村行ってたのかー。アグネスは一五歳の女の子で、お兄が優秀な『アトラスの冒険者』なんだ」
メルヒオールさんにも簡単な説明を交えとく。
「冒険者の兄がいたのか。知らなんだぞ? ユーラシアにティアラをもらったとは聞いたが」
「クエストで手に入れた良さげな武器防具は、実力ある冒険者にあげてたんだ。リリーにあげたメリケンサックもだけど。あたし達はパワーカード装備で使わないから」
「うむ、愛用しておるぞ」
「で、お兄にもらってもらおうと思って何がいいか聞いたら、ティアラがいいって。そん時はお兄におネエの趣味があるのかとビックリしたよ」
アハハと笑い合う。
「兄はアグネスを可愛がっておるのだな?」
「だけどアグネスはお兄がウザいみたいなんだよね。塔の村行ったってことは、まあまあレベル上がってお兄から卒業したくなったんだろうな。今度お兄に会ったらからかってやろ」
メルヒオールのじっちゃんが言う。
「試みに問うが、ユーラシアが優秀な冒険者と言うくらいだと、どの程度だ?」
「ドーラの若手ではナンバーワンだよ。『ジーニアス』っていう固有能力の持ち主で、まだ冒険者になって二年半くらいだと思うけど、レベルはじっちゃん以上」
「ほう、そんなにか?」
「ユーラシアも若手ではないか」
「おおっと、自分のことを忘れてたわ」
メルヒオールさんはデミアンのレベルに驚くけど、ドーラは経験値の高い魔物も多いからね。
最初のキツいところ抜ければ、『アトラスの冒険者』は至れり尽くせりだし。
「リリーは、ドーラでの生活を楽しんでいるのだな?」
「うむ、楽しいのだ!」
「将来はどうするつもりだ?」
ははあ、メルヒオールさんの聞きたかったことはそれか。
この前の貴公子こてんぱんイベントみたいなことがあると、リリーの意思を確認したくなるってこともあるんだろう。
リリーの顔が曇る。
「……皇族としての使命を忘れたわけではないのだ。しかし……」
ドーラでの他人に気を使われない生活に慣れてしまうと、皇族貴族の暮らしはいかにも窮屈だろう。
特に帝国で大人気のリリーは、皆から不純物の多い視線を浴びる立場だから。
「……ユーラシアが羨ましい」
「腹ごなしに外で話そうか」
リリーには気晴らしと未来を考える時間が必要だ。




