第1377話:聖火教に対するバアルの意見
「こんにちはー」
「あっ、精霊使いさん。いらっしゃいませ」
正義の象徴お肉を携えて、聖火教の本部礼拝堂にやって来た。
修道女に言う。
「しばらく来れなくてごめんね。お土産のお肉があるから、移民集落の方に置いてくる」
「ありがとうございます。帰りにこちらへ寄っていただけないでしょうか?」
「わかった。何か用があったかな?」
「ミスティ様が話をしたいようなのです。精霊使いさんが来たら、そのことを伝えよと」
「ミスティさんか。すぐ戻ってくるね」
クララの『フライ』でお肉を運ぶ。
◇
「こんにちはー」
礼拝堂の奥の間に通される。
ミスティさんの他、ワッフーと修道女長が控えていた。
ミスティさんがニコニコしながら話しかけてくる。
「ユーラシアさんはますます御活躍のようですね」
「ありがとう。でもあたしの活躍を現金とゆー目に見える形で褒めてくれる人がいないの」
アハハと笑い合う。
「遥か東のソロモコは、魔王の関わる島だとか」
「うん。パラキアスさんに聞いたかな? 魔王が住民の尊敬の感情を集めて配下の悪魔に配り、満足させてるっていうやり方なんだよね。聖火教の教えではあり得ないのかもしれないけど」
「いえ、信徒が悪魔に謀られているということであれば許しがたいです。でもソロモコの皆さんが幸せであるのなら、外野がとやかく言ってはいけないような気もします」
「わかってくれると嬉しいよ」
ふむ、悪魔のことで聞きたいことがあるらしい?
「帝国のドミティウス主席執政官に関してですが」
「うん」
「バアルのあと、ガルムなる高位魔族がまとわりついていると、以前リモネス様に聞きました。帝国の指導者の側に悪魔がいることで、聖火教徒に対する当たりが強くなるという可能性があるのかと」
「あたしも以前、そう考えたことがチラッとあったなー」
今はあんまり悪魔が関係してる気はしない。
何故なら閣下は聖火教徒を嫌ってる気配がないのだ。
閣下は現実主義者だから、宗教には興味がないんじゃないか?
「じゃーん、大悪魔登場!」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
ナップザックからバアルの籠を取り出す。
ワッフーと修道女長が顔を顰めてるけど、こういうのは事情知ってる子に聞かないと。
「大悪魔に質問だよ。バアルは聖火教のことどう思ってた?」
「吾のことを詮索するのが鬱陶しいである。プライバシーの侵害である」
「バアルでもプライバシーの侵害とか気にするんだ?」
「しかし聖火教徒が吾に向ける、恐れと嫌悪の混じった感情はなかなか美味であるぞ。トータルではあまり嫌いになれないである」
ミスティさんワッフー修道女長がすげえ微妙な顔してる。
「飛空艇の試運転がテンケン山の聖火教徒の集落だったじゃん。あれにバアルの意思は含まれてたの?」
「含まれていないである。試運転の必要性、聖火教徒の集落が反乱を企てているという噂、飛空艇の機密が外部に漏れないこと。それらの条件が揃っていたための必然である」
「帝国では聖火教徒の扱いが良くないじゃん? あれって悪魔関わってるの? 聖火教徒が悪魔を毛嫌いしてるから、悪魔がやり返すんじゃないかって考えがあるんだけど?」
首をかしげるバアル。
「どうであろう? 人間に恐れ忌まれるのは、高位魔族にとって誉れである。また高位魔族を嫌うのは、聖火教徒に限らぬである。であるからして、特に聖火教徒をピンポイントでターゲットにする理由がないである」
「大悪魔の見解としてはそうなんだ?」
「うむ。しかし、何らかの理由で聖火教徒を憎むことはあるやもしれぬ。個々の事情まではわからぬである」
「現場のバアルさんでした」
「「「……」」」
沈黙する三人。
バアルの意見は意外ではあった。
沈黙を破ってミスティさんが言う。
「……ユーラシアさんはどう思います?」
「バアルの名誉のために言うけど、誇りある大悪魔だからウソは吐かないよ。あたしもバアルの言ってることは矛盾がないと思う」
「どういう理由でですか?」
「悪魔は基本的に個人プレイなんだよね。複数の悪魔が協力すれば聖火教を排斥するムーブメントを起こせるかもしれないけど、そんなことはしない。一人の悪魔が多くの人に影響を及ぼせるとすると、権力者に取り入るケースかな。でも聖火教禁止令が出されてるとかじゃないんでしょ?」
「ない……ですね」
考え込むミスティさん。
「ドミティウス主席執政官閣下は『魔魅』っていう固有能力持ちで、悪魔を引き寄せやすいんだって。だから閣下の側にはいつも悪魔がいるんだ。バアルは二〇年以上閣下付きだったわけだけど?」
「ドミティウスが聖火教について何か言っていた記憶はないである」
「閣下と宗教って関わりあるかなー? あたしもピンと来ない」
「ガルムという、現在主席執政官の側付きの悪魔はどうですか?」
「ガルちゃんはバアルみたいに凝ったことする子じゃないよ。聖火教徒をどうにかするなんて、考えないと思うけどなあ」
「ガルムを御存じですか?」
「吾が主が手懐けているである」
「そうですか……」
一応今度会った時に、ガルちゃんに聞いておくけれども。
「ちなみにバアルはどーして帝国で聖火教のウケが悪いんだと思う?」
「汎神教のせいではあるまいか?」
「汎神教徒は聖火教を嫌うってこと?」
「汎神教は教会ごとにライバルであるが、表向き争ってはいけない建前である。となると食い物になるのは聖火教なのである」
ははあ、勢力争いの結果なのか。
聖火教は全然押しつけがましくないから、パイの奪い合いになると標的になっちゃう。
聖火教が嫌われて生きづらくなれば、信心の強くない者を引き込みやすい、か。
わかりやすい構図ではある。
「……やるせないですね」
「まーでも聖火教徒がどんどんドーラに来てくれるならありがたいけどね」
いい人多いし、団体としてまとまりあるしな。
基本的に他人と争おうとしないから、トップの人とコミュニケーション取れてりゃオーケー。
何でこんな扱いやすい人達を邪険にするんだろ?
ウルピウス殿下は、差別が優秀な人材を流出させることに気付いたと思うが、立場的に何もできないだろう。
「ドーラは差別のないいい国にしようよ」
「ええ、賛成です」
「あたしは帰るね」
「さようなら」
転移の玉を起動し帰宅する。




