第1367話:本当に色々あった日
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
毎晩恒例のヴィル通信だ。
「今日は本当に色々あったんだよ」
『うん、君がそう言うからには以下略』
「じゃあこっちもダイジェストでお届けしまーす」
『エンタメ要素をカットしないようにしてくれ』
「りょーかいでーす」
何だかんだと言うけれども、サイナスさんはあたしの話が好きなのだ。
多分あたしが可愛いから。
「まず朝からラグランド行ったんだ」
『今日は蜂起が起きるんだったな? 様子はどうだった?』
「予定通り蜂起の規模は小さかったよ」
『一安心だな』
蜂起の規模を制御できないとなると前提が全て崩れちゃうからな。
もっともそーなりゃ帝国は艦隊を派遣して鎮圧だ。
あたしのできることなんかないから、放っとくしかない。
「ラグランドでのあたしの仕事は、帝国とラグランドを交渉のテーブルに着かせる根回しだと思ってたんだ」
『違うのかい?』
「クエスト終了にならないんだよね。もっと関われってことみたい」
あたしは部外者だから、帝国のこともラグランドのことも詳しいわけじゃないんだが。
『状況が膠着すると、蜂起側が辛抱できなくなるだろう? 細かく情報を与えて宥めておくことがユーラシアの役割なんじゃないか?』
「なるほど? 急ぐべきだってことは第二皇子主席執政官閣下も心得てるから、早めに特使を送ると思う」
明日までに人選終えるみたいだしな。
じゃああたしはラグランドとまめに連絡取るべきってことか。
当たり前のお仕事だな。
『ラグランド総督が裏切ったことについての真偽は?』
「やっぱウソだった。詳しく聞いたわけじゃないけど、衛兵隊が総督の対話路線を歯痒く思って、追い落としを謀ったってのが真相に間違いないな。衛兵達がソロモコ遠征失敗の事実を知らなくて、ラグランドに艦隊が来ると思い込んでたという背景もあるけどね」
『そこはよく聞きたいところだな。ファーストアクション:総督に会いに行ったら衛兵隊が高圧的でした、のところから』
「サイナスさんはよく理解してるなあ」
最近誰もがエンタメに対するハードル高いんだけど。
「総督のところへはオードリーっていうラグランド王家の血を引く姫とその侍従、あとヴィルと一緒に行ったんだ。オードリーは七、八歳くらいかな。見た目クララくらいの可愛い子だよ」
『その姫様がポイントなのか?』
「ポイントってわけじゃないけど、ラグランド人側の名目上のトップだな。えらそーな衛兵がズラッと並んでると可愛いオードリーが脅えるし、可愛いヴィルが不機嫌になるから面白くないじゃん?」
『……ダイジェストって言う割には枝葉の情報を混ぜてくるな?』
「で、オードリーとヴィルがぎゅーしてるの。可愛い可愛い」
『押すなあ』
可愛いは正義だからね。
おいしいも正義だけれども。
「衛兵の方はどうってことないんだ。総督が裏切ったなんてウソ情報寄越した弱みがあるから。それをネタに、主席執政官閣下は間違った報告するような無能には甘くないぞーって教えて。総督の安全を確保しないと許されなくなるぞーって諭して」
『煽って脅してなんだろうけど。えげつなかったんだろうけど』
「えげつなくはないとゆーのに」
乙女らしく閣下の威を借りただけだとゆーのに。
「ラグランドの方は、蜂起の規模さえコントロールできれば特に問題ないな」
『一番大きな問題は使者が誰になるかか』
「とってもおかしなことになった」
『責任逃れはユーラシアらしくない。おかしなことにした、の間違いだろう?』
「違うとゆーのに」
あれ、違わないのかな?
「使者候補の第三皇子が、施政館の言うこと聞く代わりにあたしに会わせろって要求してきて」
『え? それは怖いもの見たさだな』
「可愛いもの見たさだよ。すげー酒臭い部屋だった。おまけにあたしを触らせろとかいう、すげーゲスな要求してくんの」
『え? それは怖いもの知らずだな』
「まー第三皇子も一応皇位継承権一位の皇子だから、努めて穏便にね」
あれ?
何サイナスさん黙っちゃってるの?
『……意外だな。ここは精神を病むほど非難の言葉を浴びせてもいい場面じゃないか。君にしては甘いんじゃないのか?』
「精神を病むほどて。だって第三皇子ったら、あたしを美しい可憐だって褒めてくれるんだもん」
『君案外ちょろくないか?』
おっぱい大きいねーちゃんより価値があるって言ってたし。
「おっぱいとお尻以外なら触っていいよって言ったら、うなじにキスされた」
『驚愕だな。叩きのめしたとかいうオチなのか?』
「いや、第三皇子が精神を病んじゃって、使者の話はなくなった」
『……何したんだ?』
「ごめんね、ちょっと言えないことなんだな。でも主席執政官閣下も第三皇子が半分狂人だったことはわかっててさ。明日には新しく使者を選んどくから来てくれって言われた」
『ふうん。信頼されてるんだな?』
「信頼とゆーか」
第二皇子はあたしのことを完全に味方扱いはしていないのかもしれない。
けど仕事はキッチリしてるし、味方にしといた方がいいとは思ってるだろ。
そもそもあたしは対ラグランド交渉におけるキーウーマンだから。
『その後昼食とちょこれえとを食べさせてもらって帰ってきたんだな?』
「あっ、ちょこれえと忘れてた! あたしとしたことが!」
一生の不覚!
「午後は脱落『アトラスの冒険者』に会いに、南部のポポマチってとこ行ってきた」
『話が飛ぶなあ。有力な固有能力持ちなのかい?』
「うん。『マップ』っていう、レベル上がると広範囲の地形や集落の位置がわかるってやつ」
『ほう、便利だな。しかし南部か』
「南部のことってコショウ取れるくらいしか知らなくてさ。話聞いたら集落が一〇個以上もあって、人口もカラーズくらいだって」
『知らなかった。南部の人口規模って結構大きいんだな』
「珍しいものありそうだから、交易したいじゃん? 西域の街道まで道を引きたいねって話してきた」
『問題は魔物か?』
「だね。南部の半島部には魔物いないらしいんだけど、すぐ北の森には多い」
魔物除けの札次第なのだ。
一度クルクルに行って確認しておかねば。
「そんなとこだなー。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は施政館。




