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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1361話:今更遅い

 第三皇子のあたしに触らせろという要求にどう答える?


「むーん? じゃあおっぱいとお尻以外なら触るの許す」

「本当か! うなじだ! うなじを触らせろ!」

「殿下はセンスあるなあ」


 そんじょそこらのセクハラ親父ではない。

 うなじは素晴らしいものだ。

 あたしもおっぱいさんのうなじ見ると、ふっと息を吹きかけたくなるしな。


「い、いいのかい?」

「よくないに決まってるわ。でも殿下の言い分聞いてると、あたしを安っぽく見ているわけではなさそうだから」

「早くしろ!」

「いやーん、えっち」

「おお、嫌がる声まで可憐ではないか!」

「殿下はマジでセンスあるなあ」


 第三皇子に背を向けて座り、後ろ髪を掻き上げる。

 先ほどの入室する前から感じていた、かすかな怪しい気配は消えていない。

 仕掛けてくるならこのタイミングかと思ったが、来る気配がないな?

 どうやら傍観者のようだ。


「どーぞ」

「美しい。可憐なユーラシアに似つかわしいうなじだ」

「殿下は褒め言葉も上手だなあ」


 段々気分が良くなってきたわ。

 第三皇子があたしに触れる。

 ん? ひょっとしてちゅーしてない?

 まあいいけれども。


「兄上!」

「邪魔するなフロリアヌス!」


 引き剥がそうとしたフ殿下を一喝し、再びあたしのうなじにむしゃぶりつく第三皇子。

 ……何かを抜き取られるようなこの感覚は?

 あっ、わかった!

 急いで『強奪』を発動する。


「ユーラシア君、大丈夫かい?」

「何とか平気だよ」


 第三皇子もまた、『強奪』の固有能力持ちなのだ。

 どうやらあたしの『ゴールデンラッキー』を手に入れるつもりだったらしい。

 予に相応しいって、奪って自分のものにするって意味だったのか。

 なるほど、これがリモネスさんの言っていた捕食者の思考ね。

 油断も隙もないなあ。


 しかし同じ『強奪』持ちで能力の綱引きならば、レベルの高いあたしの相手ではない。

 第三皇子の『強奪』を奪ってしまえ!


「……う?」


 ようやく第三皇子も異変に気付いたようだ。

 今更遅いけどな。


「もういいかな?」

「貴様、何をした!」

「何をしたって。何をされたの間違いだろ」

「それはオレの力だ! 返せ!」

「何なの、一体?」


 しらばっくれたろ。

 どうせ傍で見てたフ殿下アインハルト君も女性三人も、何が起こったかなんてわからんだろうし。


「貴様貴様きさまあああああああ!」

「えーと落ち着こうか」

「貴様貴様きさまあああああああ!」

「いつもこういう場合どうしてるの?」

「お医者様を呼んでまいります!」


 お付きの女性一人が駆け出していく。


「殿下、ごめんね」

「何?」


 首の後ろをトンと叩いて気絶させる。

 第三皇子がちゅーした分と、これでチャラにしてやんよ。

 アインハルト君が聞いてくる。


「何が起こったのだ?」

「あたしが聞きたいわ。どーゆーことなん、これ?」

「せ、セウェルス様は、時折意味もなく大声を出されることがあるのです」


 おずおずと話すお付きの女性の言葉に、フ殿下とアインハルト君が同時にため息を吐く。

 今日の場合、意味はあったけどな。


「気が触れたか」

「あたしに触れてたのにも拘らずだぞ?」

「いずれにせよ、重要な使者を務めるなど不可能だ。施政館にはそう報告申し上げよう」


 うむ、完全に同意。

 第三皇子が特使になって場を引っ掻き回す可能性は、図らずも排除された。

 とってもラッキー。


 幼い頃の第三皇子は聡明だったという。

 いつの日か『強奪』持ちとなり、強力な固有能力を手にし得る現実に狂喜し、大き過ぎる夢想に精神が耐えられなくなったんだろうなあ。

 固有能力なんて大したもんじゃないのに。


 リモネスのおっちゃんの恐れもわかる。

 リモネスさんが『サトリ』持ちであることは有名で、使い方によっては極めて強力な固有能力だ。

 おそらくは長年ターゲットにしていたに違いない。

 でも他人の心を覗ける『サトリ』は精神的にきっつい能力だぞ?

 『強奪』持ちになったくらいで狂う第三皇子に使いこなせたとは思えん。


「悪いけど、殿下はこのままにしとくね。あたし達の事情聴取が必要ならば、正門脇の近衛兵詰め所まで連絡して」

「は、はい」

「行こうか」


 第三皇子の部屋を辞す。


「何とも後味の悪いことになったもんだ」

「まあねえ。でもパンクするのは時間の問題だったよーな気もするけど」


 アンバランスさに耐えきれなくなっただけだ。

 となるとあの気配は?


「ガルちゃん、出ておいでよ」


 すぐに姿を現すガルちゃん。

 やっぱガルちゃんだったか。

 おそらくは主席執政官閣下の指示であたし達を見張っていたと思われる。


「な、何だ?」

「高位魔族!」

「お初にお目にかかりますね。ガルムと申します」

「驚かなくていいよ。ガルちゃんはそう悪い子じゃないから」

「君が使役しているという噂の悪魔なのかい?」

「いや、うちにはヴィルとバアルっていう二人の悪魔がいるんだ。ガルちゃんは別。帝都在住の悪魔で、あたしの友達」

「友達……」


 二人とも複雑そうな顔をしていますが。


「いきなり現れるとは……」

「いきなりではないよ。近衛兵詰め所からずっと気配あったから」

「そうだったのかい?」

「あら、わかっていらしたの?」

「ガルちゃん、気配消すの上手だねえ。敵かと思って攻撃するところだったわ」

「こ、怖い!」

「もう気配覚えたから大丈夫だぞ?」


 フ殿下が言う。


「可愛いね」

「あら、ありがとう。あなたもハンサムよ」


 ガルちゃん嬉しそうだな。

 ちょろい子なのかな?


「ガルちゃん、明日の夜時間空けといてよ。食べたことない美味い料理食べさせてあげる。お肉もたっぷり入ってるやつ」

「本当? 嬉しいわ!」


 かれえを食らってみよ。

 ガルちゃんはお肉が好きって言ってるけど、いろんなものを食べる機会がないだけじゃないかな?

 世の中美味いものはたくさんあるよ。


「ヴィルを迎えにやるからね。じゃねー」

「さようなら」


 ガルちゃんの姿が掻き消える。


「ふうん、これが悪魔か。いい経験だった」

「アインハルト君は勉強家だなあ。悪魔はあたし達じゃ知り得ないことを知ってることもあるし、有用ではあるよ。でもこっちのレベルが低いとバカにされちゃうんだよね」

「ふむ、難しいな」


 あんまり構わない方がいいと思うけどね。

 フ殿下が言う。


「施政館に報告だ。ユーラシア君も来てくれるかな?」

「行く。今からだと昼御飯食べさせてくれそーだから」

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