第1360話:セウェルス第三皇子の、逆らいづらい論理の組み立て
「……という理由だ」
「なるほどー」
第三皇子の部屋まで行く途中、フロリアヌス殿下及びアインハルト君に、騎士について教えてもらった。
つまり騎士って王家と王都を守る武官で、原則的には貴族やそれに準ずる者しかなれない。
職務柄割と危ないと思われてるから、一人が騎士になったら他の兄弟は大人しくしているものらしい。
お家存続の考えが貴族だなあ。
フ殿下やアインハルト君が騎士になったので、その弟のウ殿下やヘルムート君パスカル君はスペアということか。
「兄弟で騎士という例外もないではないがな」
「冒険者も似たようなものじゃないのかい?」
「冒険者はむしろ近しい人がやってるから自分も、ってケースが多い気がする。ドーラに貴族がいないからかもしれないけど。冒険者は騎士さんや兵隊さんと違って、命賭ける商売じゃないじゃん?」
「「ほう?」」
あれ、意外そうだね?
同じなのは戦闘職ってことだけで、内容は全然違うと思うぞ?
「騎士さんや兵隊さんは守るのが仕事だから、逃げられない場面があるじゃん? 冒険者は違うよ。ビジネスだから、自分の力量を越えてれば逃げちゃう」
「ふむ……」
「ビジネスか。意外な考え方だったな」
「リリーも喜んで冒険者やってるんだ。けど命賭けてるなんて意識はさらさらないはずだよ。魔物退治で段々自分のレベルが上がってくると、暮らしが楽になってくるから」
もっともリリーは腕試しにドーラに来たようだ。
アイテム回収による金品稼ぎより、魔物と戦うこととレベル上げの方が目的だろう。
あれ? 考えてみるとリリーは戦闘民族だったわ。
野蛮だな。
「この区画がセウェルス兄上の居場所だ」
「区画が居場所て。何部屋かあるじゃん。既にもう酒臭いんだけど?」
皇位継承権一位の皇子ともなると、皇宮内にデカい部屋がいくつも割り当てられてるんだなあ。
ムダじゃね?
……先ほどからあたし達を追ってくる、ごく微かな気配がある。
リモネスのおっちゃんの言っていた、注意すべき対象か?
今のところ敵意はないようだ。
奥の広い部屋へ。
「兄上。フロリアヌスです。ドーラの冒険者ユーラシア殿をお連れしました」
「入れ」
不思議と生気のない、それでいて尊大さを感じる声だ。
セウェルス第三皇子だろう。
ドアを開けて内部へ。
「「失礼します」」
「こんにちはー」
中途半端にカーテンの引かれたやや薄暗い部屋の中で、ベッドに座った一人の男性と三人の侍女だか愛妾だかがいる。
男性の視線があたし達を探るように舐めまわす。
香が焚かれているが、それ以上にアルコール臭が強い。
「その方がユーラシアか?」
「うん、よろしくね」
この人がセウェルス第三皇子殿下か。
目の周りのくまがすげえ。
第三皇子なら二〇台後半から三〇台半ばのはずだけど、第二皇子より年下って感じがしない。
……しかし、どうやらヤバげな固有能力持ちだ。
要注意。
「可憐だな!」
「殿下は話せるなあ」
「オレを自堕落だと思うか?」
「思う。健康に悪いから生活改めりゃいいのに」
話が飛ぶなあ。
意識してる様子はない。
天然で思考があっち行ったりこっち来たりするんだろう。
「ヤマタノオロチ退治で大功があったそうだな」
「うん。褒美であたしも騎士爵と勲章もらったんだよ」
「固有能力をいくつも持っているそうではないか。聞かせてくれ」
喋ってることにとりとめがない。
でも固有能力には興味があるみたいだな。
身の乗り出し方が違う。
「あたしが持ってるのは、精霊と仲良くできる『精霊使い』、沈黙・麻痺・睡眠に耐性がある『自然抵抗』、気合でどんみたいなスキル習得する『発気術』、すごくカンがいい『閃き』、運のパラメーター爆上げの『ゴールデンラッキー』、レベル上限が一五〇になる『限突一五〇』の六つだよ」
こんなところで『強奪』については話さなくていいだろ。
マルーさんやイシュトバーンさんに隠しとけって言われてるし。
歓喜の声を上げる第三皇子。
「『ゴールデンラッキー』! 豪運の固有能力か! 素晴らしい! オレに相応しい!」
「そお?」
『ゴールデンラッキー』は、イマイチどう役に立ってるかわからないんだよな?
もっとも運がいいから、エンタメに満ちた生活を送れているという面があるのかもしれない。
でも考えてみりゃ皇族みたいな生活に苦労のない人は、運がいいみたいな能力で福が舞い込んできたり不運を避けられたりするのはピッタリなのかも。
『ゴールデンラッキー』に注目した第三皇子はやるなあ。
「ユーラシアよ。その方を触らせてくれ」
「ここへきてセクハラかい!」
脈絡のなさも大概にしろ。
フ殿下が取りなしてくれる。
「兄上。ユーラシア君は救国のヒロインです。お戯れもいい加減にしてください」
「そーだそーだ! 触るならおっぱいの大きいねーちゃんにしとけ!」
自分で言っててささやかな胸にダメージが来るわ。
激昂する第三皇子。
「その方達はうつけ者か! ありふれたおっぱいの大きいねーちゃんと可憐なユーラシアを比べて、どちらに価値があると思っているのだ!」
「えっ? ……比較するなら可憐なユーラシアの方かな?」
「考えが足りない頭でも理解しただろう! 可憐なユーラシアを触りたいという予の欲望の、何が間違っているというのだ!」
「……理屈は間違ってない気がするな? 人として間違ってると思うけれども」
メチャクチャなのに、どーゆーわけか逆らいづらい論理の組み立てだぞ?
元々聡明な人ってのが真実味を帯びてくるわ。
でも欲望言っちゃってるしな?
却って清々しいぞ?
「この件は施政館からの要請とバーターなのだ! ユーラシアに触れることがかなえられないなら、オレは施政館に一切協力せん!」
「バーターなのは、あたしがここに来ることだと思うんだけど?」
子供みたいな駄々を捏ねだした。
サイテーなこと言ってるの、理解してるだろうか?
フ殿下もアインハルト君も呆れとるわ。
第三皇子付きの三人の女性がすまなそうな顔している。
けどべつにあんた達のせいじゃないよ。
とはゆーものの、第三皇子の協力を得られないのは正直痛い。
こんなのを使者に選んだのは施政館の責任であっても、協力させるまではあたしの仕事みたいじゃないか。
あたしがミッションを完遂できなかったと思われるとメッチャ迷惑だな。
どーすべ?




