第1357話:盛った、吹いた
「ラグランドは朝から暑いなー。何か飲み物くらい出してくれればいいのに」
「すぐ総督の部屋に通されるのじゃろ?」
「まあね」
待ってる間にオードリー及びセグさんと相談だ。
「ユーラシア殿、今日は挨拶のみになるのですかな? 蜂起については、わしではわからぬことが多いのですが」
「知ってるとこっちが蜂起を主導してると思われちゃうわ。困った困ったって言ってればいいよ」
蜂起を主導してるのは間違いないんだけど、責任を負わされると面倒だしな。
協力して蜂起を抑えていこうねって立場の方が、後々いい関係を築きやすい。
帝国ラグランド双方にメリットがある。
「ユーラシアに任せていいのか?」
「本番は帝国の特使が来てからだよ。今日のところはあたしが任されたぞ。とゆーか総督ホルガーさんの立場を固めてやらないと」
「どういうことじゃ?」
「総督に逆らって、ラグランドを軍事的に何とかしようと考えてるやつがいる」
「先ほどの、ホルガー殿の姿勢が弱腰という話ですな?」
「うん。ラグランド人が蜂起を起こせば人数で勝てると思ってたように、総督の周囲が艦隊さえ派遣してくれれば支配を強められると考えちゃうのは、実はわからなくもないんだ」
とはいえ平和とおゼゼを愛するあたしには容認できない手法なのだ。
「帝国施政館も対話で決着がつく方がいいと思ってるんだよ。邪魔するバカなやつは排除しておかないといけない」
ホルガーさんの人物を見極めることも無論重要ではあるが、優先順位は話ができる環境作りの方が上。
「どうぞ、こちらへ」
総督執務室に通される。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
おお? 軍人の数随分多くない?
これが本来の植民地総督の随員かー。
プリンスルキウスなんか身一つでドーラに来たぞ?
在ドーラ大使がどんだけ軽視されてるかわかるわ。
しかし威圧してくんな。
オードリーが可哀そうだろうが。
真ん中の四角い顔をした中年男性が話しかけてくる。
「君がユーラシア君ですか」
「うん。ホルガー総督かな?」
「いかにも」
厳格な表情を崩さないが、芯の強さと優しさを感じさせる。
なるほど、第二皇子主席執政官閣下が硬骨漢と評するだけあるなあ。
「ユーラシア君は施政館ともラグランドの首脳とも話ができるとか」
「デタラメだ!」
隣に座る態度のデカい軍人、おそらく衛兵の長だろう。
「本当だぞ? じゃあ昨日施政館に届いた、ラグランドからの報告を聞かせようか」
「言ってみろ」
「近日中にラグランドで反乱の可能性極めて高し。艦隊を至急派遣しろとの要請。それから……」
居並ぶ衛兵達の顔を一通り見わたす。
「ホルガーが裏切った、と」
ホルガー総督の顔色が白くなる。
同時に衛兵長の口角が上がったように見えた。
「主席執政官閣下すげえ怒っちゃってさあ」
「そうであろう!」
「つまらぬ報告を寄越したのは誰だ! ホルガーが予を裏切るはずがないのだ、って」
「えっ?」
盛ったった。
おーおー、ホルガーさんの顔に赤みが差してきたのと同時に、衛兵長が白くなったわ。
「ラグランドの指導者層の人達に聞いても、総督がラグランド側に寝返った事実はないんだ。どうする?」
「ど、どうするとは?」
「現場が混乱してたから間違った情報が届いちゃったみたいだよって、あたしの方から閣下に言っとく? それとも施政館の方針を左右しかねない誤情報を流した犯人とっ捕まえて、閣下の前に引き出す?」
「現場が混乱してたがゆえの誤りであった、まことに申し訳ないと伝えておいてくれ!」
「りょーかーい」
ハハッ、どーした衛兵長。
さてはあんた小物だな?
ホルガーさんが聞いてくる。
「どうやらユーラシア君の言は本当のようですね。ドミティウス様は何か仰ってただろうか?」
「艦隊は送れないだろうって」
「な、何故だ!」
「ソロモコ遠征がうまくいかなかったから、ラグランドへ艦隊を派遣することに賛成を得にくいってことが一つ目の理由」
「……」
唖然とした顔になる衛兵長。
ソロモコ遠征があることは知ってたのだろうが、失敗までは時間的に報告が入ってなかったらしい。
「あとこっちの理由の方がメインなんだろうけどさ。帝国にとってラグランドはすげえ重要な取り引き先じゃん? 貿易が滞ると大損、軍を派遣すりゃさらにおゼゼがかかる。ラグランドで大勢人死にが出れば、戦後処理と生産力低下で損が膨らむ。ってことなんじゃないかな」
「か、金の問題なのか……」
「当然だわ。大帝国を預かる閣下みたいな政治家が、軍人みたいな低い目線でもの見てるわけないじゃん。おゼゼは大事だぞ? 総督が文官である理由を考えなよ」
大いに頷くホルガーさんと、唇を噛む衛兵長。
あんたが軍事的にラグランドをどうにかしたかったのもわからんではないよ。
でも諦めてください。
「軍を送らないならば?」
「おそらくは特別な権限を持たせた使者を急派することになるって」
「なるほど。完全に交渉で解決する目論見ということか。ある意味ドミティウス様らしくないが……」
やっぱり閣下って武寄りの評価なわけね?
「そ、そうだ! ラグランドを威に服させることなく言い分を聞くなど、ドミティウス様らしくない! 我ら衛兵隊が遊兵と化すではないか!」
「おいこら。今蜂起の真っ最中だってこと忘れてるだろ。遊兵とか何のん気なこと言ってるんだ。楽して給料もらうことばかり考えてるんじゃないよ?」
「な、何を言うか!」
「さっきの誤情報についてはあたしが取りなしといてやるけど、帝国~ラグランド間交渉のキーマンたるホルガー総督を危険に晒してみなさい。あんた達は無能者の烙印を押されちゃうんだぞ? 主席執政官閣下が無能者を甘やかした例は、今までにある?」
だから魚みたいに口パクパクさせるんじゃないよ。
あれ、衛兵長だけじゃなくて、総督を除く全員が口パクパクしてますね?
「わかってるね? ただ総督の周りをガチガチに固めたってダメだぞ? ラグランド側を警戒させて、交渉の邪魔になっちゃうんだから」
「ど、どうすれば……」
「蜂起を抑えてるラグランド人と連携取ればいいじゃん。衛士長ジャブラニさんと魔法連の頭ヒャクダラが担当だよ。情報とコミュニケーションは大事」
「う、うむ」
完全にペース握ったなー。
ヴィルとオードリーがぎゅーしてるわ。
可愛いな。




