第1358話:あたしに会いたがる皇子
これでラグランド総督ホルガーさんの身は、とりあえず安全だろ。
ホルガーさんが言う。
「ユーラシア君。その他、ドミティウス様の具体的な指示はなかっただろうか?」
「今度来る使者にお任せだと思うけど。あ、閣下と話す?」
「話す、とは?」
「うちのヴィルはワープできるんだ。施政館への立ち入りも許可してもらってるから、閣下の都合のいい時なら遠隔で連絡取れるよ」
「ほう、何と都合のよい。実にありがたい。お願いしよう」
「ヴィル、閣下のとこ飛んでくれる?」
「わかったぬ!」
ヴィルの姿が掻き消える。
オードリーが寂しそう。
「ヴィルはどこへ行ってしまったのだ?」
「お仕事で帝都メルエルだよ」
「メルエルか。大変に栄えた都なのだろう? わらわも行ってみたいものじゃのう」
「姫様。状況が落ち着くと、帝都を訪れる機会もあると思いますぞ」
「楽しみにしてなよ」
いい子にしてればいずれ連れてったるわ。
赤プレートに反応がある。
『御主人! ドミティウスだぬ!』
『やあ、ユーラシア君かい?』
「おっはよー、閣下。あたし今ラグランドに来てるんだ」
『ああ。今日は蜂起の起きる日だろう? 状況はどうだい?』
閣下が蜂起のことを知ってるので驚いてる人が何人もいるわ。
この蜂起は予定通りなんだよ。
軍人の出番がないことはおわかりですか?
「今んとこ全く問題ないな。総督府にいると蜂起が起きてるなんてわからんくらい」
『ふむ、規模はごく小さいと考えていいね?』
「うん。それからホルガーさん裏切ったってのはやっぱり誤報だった」
『誰だ? くだらぬ報告を寄越した無能は』
衛兵長達が縮こまってるわ。
ウケる。
「こっちも情報が錯綜してるんだ。今犯人捜ししてる暇ないし、罰すると委縮して現場の士気が下がっちゃう。これからの働き次第で帳消しってことにしてよ」
『ふむ? まあユーラシア君がそう言うなら』
「ホルガー総督に代わるね」
閣下も反総督派をクシュンとさせるのに、あたしの権限を強くしといた方が都合がいいとすぐに気付いてくれたわ。
ハハッ、やりやすいなー。
赤プレートをホルガーさんに渡す。
「閣下、このたびの失態、申し訳ありません。罰はいかようにも受ける所存です」
『いや、ラグランド統治方針は見直すべきだった。つい貴公の卓越した手腕に縋ってしまい、貴公の任期まではと決断の遅れた予を許してくれ』
「もったいないお言葉です」
感動で声が上ずるホルガーさん。
いい場面だなあ。
『陛下の代理人たる全権特使を、数日中にラグランドへ送る。貴公は蜂起の勢いに対処しつつ、現地人サイドと講和条件の叩き台を作成してくれ』
「はっ。全権特使はどなたになりましょうか?」
『セウェルスを予定している』
「セウェルス様、ですか?」
『理解してくれ』
「は」
ホルガーさん困惑してんぞ?
第三皇子は相当な困ったちゃんのようだ。
『ユーラシア君は今から時間あるかい?』
「あるよ。今日はラグランドがどうなるかわかんなかったから、予定入れてないんだ」
ラグランドの様子は大体良さそう。
蜂起の規模がコントロール下にあるのを確認して、総督ホルガーさんと話ができれば、今日のあたしの仕事はお終いだ。
『皇宮に行ってくれないか?』
「皇宮? いいけど、何の用だろ?」
『セウェルスが君に会いたがってるんだ』
「えっ?」
……つまりもう特使を打診したんだな?
そしたらあたしとの面会を条件にされたと?
評判の美少女であるあたしに会いたいという心情はわからんでもないけど。
「りょーかいでーす。早めに行くよ」
『頼むね。案内役として信頼できる騎士を近衛兵詰め所に向かわせるよ』
「皇宮を案内できる騎士?」
『楽しみにしてなよ』
「うん。閣下、じゃーねー。ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
赤プレートをしまう。
「とゆーことでした。まずはめでたし!」
「その方、ドミティウス様に対してもぞんざいな口を利くではないか」
「許してちょうだい。あたしは帝国の臣民でも閣下の家来でもないんだから」
「セウェルス様か……」
ホルガーさんが考え込む。
四角い顔がさらに四角く見えるぞ?
「セウェルス皇子ってどんな人? 問題児とは聞いてるけど、会ったことないんだ」
「問題児って……」
「施政館の方針に即してラグランドとの交渉を進め、速やかに事態を収束させるのがあんた達の役割だろーが。交渉の進行を妨げる要因となり得るのは問題児としか言いようがないぞ?」
しかも間に入ってるあたしにとって一番迷惑な存在なのがいただけないわ。
衛兵長がためらいがちに言う。
「……俺は昔、セウェルス様と同じ初等私塾で学んでいたのだ」
「何とビックリ」
「至極聡明な方であったが、酒で身を持ち崩したのだろうか。現在のセウェルス様の悪い噂を聞くたび信じられぬのだ」
第三皇子って子供の頃は聡明な人だったんだ?
初めて出てきた情報だぞ?
いや、正皇妃の生んだ二人目の皇子なら、かなり期待されて教育されたはずだ。
第一皇子ガレリウス殿下が病弱ならば特に。
どこで人生が狂ったんだろ?
屈折した感情を持ってる?
「ありがと。ちょっと参考になったかも」
ホルガーさんが呻く。
「そもそも何故セウェルス様なのか……ユーラシア君は何か聞いてないかね?」
「ホルガーさんの想像の通りだと思うよ。手の空いてる身分の高い人が他にいない」
「うむ……」
オードリーが不思議そうに言う。
「ユーラシアは次期皇帝争いが絡んでると言っておったではないか。主席執政官ドミティウスにとっては、使者として派遣したライバルが大失敗やらかしたり蜂起に巻き込まれて死んだりしたら万々歳だと」
「あっ、こら! 裏事情をこんなところで話すな!」
「いいではないか」
アハハ、すげえ面白いことになった。
ホルガーさんも苦笑しとるわ。
「ユーラシア君もそう考えますか」
「まあ。でも使者が誰であろうと、ホルガーさん以下ラグランド総督府の皆さんの仕事は変わんないから」
「もっともですな」
「よろしくお願いしまーす。じゃ、あたし帰るね。帝国本土の事情で伝えるべきことがあったらまた来るよ」
転移の玉を起動して帰宅する。
ふむ? これで仲介役の仕事としては一段落だと思うけど、クエスト終了にならないな。
もっとラグランドに関われということらしい。




