第1356話:蜂起の日
――――――――――二二四日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「ヴィル参上ぬ!」
「ユーラシア殿!」
ラグランドにやって来た。
熱帯は朝から暑いなあ。
本日は反帝国蜂起が起きる日だ。
聖女や商売人としてのあたしは揉め事が大きくなって欲しくないけど、イベントは楽しい方がいいなあと考えてるお茶目なあたしもいたりする。
まあ展開がどう転ぼうと、損ではないとゆーことだ。
ジャブラニさんが待ち構えていたみたい。
「おっはよー。蜂起の状況はどうかな?」
「畑を守れという通達がよく利いているようだ。農村からの参加者はほとんどなく、首都ウォルビス周辺のみに限定されている。それも当初想定していた規模の二〇分の一以下だな。衛士隊を回して完全に制御下にある」
「かーんぺきだなー。魔法連はつまんなそーにしてない?」
「ハハハ。問題がある旨は聞いていない」
よし、蜂起自体は大丈夫だな。
「ユーラシア!」
「おー、あんたは元気だな」
オードリー王女が飛びついてくる。
ついでにヴィルまで。
あんた達は可愛いのう。
侍従セグさん、魔法連の頭ヒャクダラ、内政担当のリリウオ、全員集合だな。
「ちょっと問題があるんだ。ラグランド総督が裏切った、という報告が帝国施政館に上がってるの」
「ホルガー殿が? 裏切ると言うからには、蜂起側に味方してくれると? いや、そんな話は聞いていないが」
全員が当惑気味だ。
「やっぱウソだな。総督はラグランドに同情的ってことだったじゃん? ラグランド贔屓の姿勢は弱腰で気に入らんって連中が、総督の周りにいるんじゃないかな」
「……武断派の連中が偽りの報告を?」
「多分」
とゆー可能性が高そう。
もちろん推測に過ぎないけど。
「ホルガーさんのことは、主席執政官閣下がすごく高く評価してるんだよね。ラグランドの事情をわかってくれてるなら、結構な要求が通る可能性があるよ。逆に殺されちゃうと交渉が難しくなっちゃう。さらにその責任をこっちに押しつけられると目も当てられない」
「ホルガー殿の安全を確保せいということだな?」
「そうそう。総督に会いたいんだよね。警備はどうなってるのかな?」
ヒャクダラとリリウオが難しそうな顔をする。
「帝国から派遣されてる衛兵が厳戒態勢だろうな。数は多くねえが精鋭揃いだ。魔道士もいる」
「ホルガー総督に会うのは相当難しいと思われますが……」
ふむ、蜂起が起きたって報告は当然入ってるだろうから、厳戒態勢なのは当然。
しかし、ならばこそ情報を欲しがってるに違いない。
訪ねていけば絶対に会える。
「オードリー、セグさん。あたしを総督のいるところに案内してくれる?」
「ゆ、ユーラシア殿?」
不安がらなくても平気だぞ?
帝国の精兵が女の子と爺さんにギャーギャーうるさいこと言うとは思えん。
「ユーラシア、危なくないかの?」
「あたしとヴィルがいれば平気だぞ? それより今、ムリヤリにでも会っとかないと、状況が悪化する恐れがあるよ」
「ユーラシア殿の言うこともわかりますけれども」
「兵隊連れていくわけじゃないんだから、目くじら立てることないでしょ」
頷く全員。
「ジャブラニさんとヒャクダラは蜂起の現場の方、よくチェックして抑えといてね。リリウオさんは集まる情報を整理しといて」
「「「了解!」」」
◇
ここが総督府か。
大きさは中央府の方が大きいけど、帝国風の瀟洒な建物だ。
ドーラの行政府に似てる。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「オードリー王女とセグ殿、と?」
衛兵達が不審げなのもわからんではないけど。
「ドーラのウルトラチャーミングビューティーユーラシアだよ」
「ウルトラチャーミングいい子のヴィルだぬ!」
「二人合わせてウルトラチャーミングス!」
……もう一つウケないな。
ラグランド人なら大盛り上がりだろうに。
どーも帝国人はノリが悪い。
「ドーラの冒険者ユーラシアというと、ヤマタノオロチ退治の? 『アトラスの冒険者』で、あちこちに姿を現すという?」
「御名答。こっちにもあたしの話は届いてるんだ?」
「何かの冗談かと思っていたが、しかし……」
「あたしのレベルで納得した?」
うむ、あたしに対する結構な敬意。
やりやすい。
「話聞いてるかな? ラグランドの民衆が蜂起しちゃった」
「もちろんだ。規模はどうってことなさそうだが」
「今は中央府の衛士隊と魔法連で抑えてるからね。今後どうするか協議したいんで、ラグランド総督ホルガーさんに会わせて欲しいの」
「わ、わかった」
「待て!」
何ぞ?
時間のムダなんだが。
とっととホルガーさんに会わせろと言ってるのに。
「ドーラ人が何故ラグランドに関わるのだ!」
「クエストの関係で、あたしがラグランド人の指導者層と意思疎通できるのは見ての通り。一方ヤマタノオロチ退治の褒美で騎士爵と特級勇士勲章をもらって、それ以来あたしは帝国施政館に出入りできるようになったんだ。あたしの行動は、ドミティウス主席執政官閣下の意思によると思っていいよ」
「ど、ドミティウス様の意思だと?」
「信じられるか!」
怒っちゃやーよ。
オードリーが脅えるし、ヴィルが不機嫌になるだろーが。
まー蜂起が起きてる最中に、口先だけであたし達を通す警備ってのもどうなのとは思う。
通せんぼするのも当たり前か。
「あたしもコブタミート教を捨てる気にはならないしな。衛兵諸君の信仰の自由は尊重したい。衛兵さん達があたしの言ったことを信じようが信じまいが、どっちでも構わないよ」
「ならば去れ!」
「去れってゆーのは、あんた達の信仰問題と話が違うんだな。こっちはトップであるオードリー王女が出張ってきて、対話の姿勢を見せてるでしょ? あたし達の申し出を受けるも断るも、判断はラグランドにおける帝国人トップであるラグランド総督ホルガーさんに委ねられるべき。門前払い食らわせる権限はあんた達にはないんだ」
「じ、事実ならばだが……」
「言い方を変えると、あんた達では責任を負えない。蜂起の規模が小さい内に対応を話し合いたい」
当惑して顔を見合わせる衛兵達。
「わかるね? あたし達の扱いをどうするか、総督に直接聞いて来てちょうだい。総督以外の権限のない人の指示はいらないよ。あたし達はここで大人しく待ってるからね」




