第1355話:刺さらないわ
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
毎晩恒例のヴィル通信だ。
「今日夕御飯をツェーザル中将ん家で食べてきたんだ。うちの子達とガルちゃんも連れて」
『精霊・悪魔の人数とノーマル人の人数、どっちが多かったんだ?』
「えっ? えーと中将んとこは四人家族だったから、五対五でイーブンだったな。勝負は持ち越しです」
『何の勝負だ。カオスだなあ』
言われてみりゃそうだけど。
「ガルちゃんは割と常識的な子だな」
『ソロモコをピンチにして、帝国と魔王をかち合わせようとした悪魔を常識的と言い張る件』
「常識的ってのは違うか。律儀? 御飯食べさせてもらうのにホストをバカにするのは、フェアな行いじゃないと思ってるのかもしれない」
『悪魔ごとに何がフェアかって基準が違うのかい?』
「微妙に違う気がする。暇な時研究したい」
『君、暇なんかないじゃないか』
「ないなー。何でだろ?」
暇があったらあったでつまらんのだが。
「ガルちゃんはどこ連れていってもさほど問題ないな、ってのがわかったのは収穫だった」
『問題ないことはないだろう。話してる内容が主席執政官閣下に漏れるんだから』
「あ、そーだった。レストランドーラ行政府にはさすがに行けないな」
こっちで迂闊な話はしないとしても、ガルちゃんが行政府に連れ込まれたら第二皇子の方が警戒するだろう。
ガルちゃんが追い出されて、もっと面倒な悪魔が第二皇子付きになったりしたら大変よろしくない。
「帝国施政館でごちそーになるのが、一番問題なさそう」
『結論に一番問題がありそう』
「ええ? 極めて順当な結論だとゆーのに。今度行った時はデザートにちょこれえとがつくと思うし」
『自分の都合でのパワープレイがひどい』
悪魔的かな?
『ちなみに中将宅に押しかけた理由は? パワープレイ?』
「違うとゆーのに。お呼ばれしたの」
『ははあ? 要するに君から何か聞きだそうということか?』
「悪魔について聞きたかったみたい」
『悪魔……興味本位で聞きたかったわけじゃないんだろう? 中将も主席執政官殿下と悪魔の関係について気付いていたんだな?』
「うん。どこから得た情報かは知らんけど」
昨日施政館でバアルやガルちゃんに会ったから、より疑問に思ったってことなんだろうな。
『君が悪魔をうまく使いこなしてるから、悪魔もありなのかと考え始めたんじゃないか?』
「似たようなことを中将も言ってたな。でも結局うまく使えるかってのは、道具のせいじゃなくて術者側にあるんだよね」
『おまけに悪魔は道具より扱うのが難しい』
サイナスさんの言う通りだ。
『魔魅』もまた業の深い固有能力ではある。
同じ支配系の固有能力でも『威厳』とはえらい違いだ。
固有能力自体に優劣があるとは思わないけど、『魔魅』と『威厳』の差がそのまま第二皇子とプリンスルキウスの資質の差になっているのが現状だ。
どっちが皇帝向きかって言われればそりゃあねえ?
「まーでも次期皇帝レースをプリンスの勝利で終えるのはメッチャ難しいんだよなー。とゆーか現状勝負になってないわ」
だってプリンスルキウスはドーラに島流しの身だし。
『次期皇帝がどうのこうのなんて話を中将としてるのかい?』
「第二皇子ともしてるよ。あたしはプリンス派だ、第二皇子は危なっかしいから減点だって本人にも言ってるし」
『ブレーキのかからなさがえぐい』
「初めっから際どい話ができてたわけじゃないわ。信頼関係が構築されたからだわ」
『信頼関係? 君の存在に慣らしただけだろう?』
どうしてサイナスさんは現場にいたわけじゃないのに、状況把握が適切なんだろうな?
慣らしただけでも上出来じゃん。
『今日他にはどこかへ行ったのかい?』
「ガータンとラグランド行ってきた。ガータンはいいね。山賊を領民に繰り入れるっていう、前例のない取り組みしてるのに、かなり順調だよ」
『ラグランドは? 明日蜂起なんだろう?』
「うん、なるべく抑えるのが第一段階かな」
間違って規模が大きくなっちゃってたらどうにもならんわ。
蜂起を放棄するしかないわ。
「話し合いで落としどころを見つけるってとこまでは決まってるんだけどさ」
『本番は帝国から特使が派遣されてからだな?』
「今日ちょっと面倒な事実が発覚したんだ。ヴィルで施政館に連絡取ったら、ラグランド総督が裏切ったって報告が届いてた」
『えっ? ラグランド植民地側が圧倒的に劣勢なんだろう? 総督が裏切るなんてことがあり得るのか?』
「ラグランド人首脳側からは裏切りなんて話出なかったな。あたしは総督に会ってないんだけど、ラグランドに同情的らしいとは聞いた」
『わからない。どういうことだい?』
「ラグランド総督の周囲に、対ラグランド強硬派がいるんじゃないかな。総督が裏切ったって報告することにより、追い落とそうとしてるんだと思う」
『ことを大きくしたくないというのは、施政館の方針でもあるんだろう?』
「そうそう。でも端っこにいる人と全体が見えてる人では視点が違うじゃん? 自分の考えで良かれと突っ走って、上からの支持が得られないなんてのはよくあることだから」
『言ってて自分に刺さらないか?』
「刺さらないわ。あたしは誰かの家来じゃないから、上からの支持がどうのなんて考えないわ」
まったく失礼な。
あたしは自分のやりたいようにやるわ。
『使者が第三皇子になりそうなことも含めて、あちこちに予期せぬ火種がありそうってことか』
「うん。しかもまだその火種が全部見えてるわけじゃないのが面白……厄介ではある」
『どうするんだ?』
「ムリヤリにでもラグランド総督に会ってこなくちゃいけないな」
帝国側の態度が硬化すると対話の余地が減るから、ラグランド人側からすると総督は重要な存在だ。
ドサクサに紛れて総督が殺されちゃうとひっじょーによろしくない。
最悪なのはそれをラグランド蜂起のせいにされることだな。
皇帝の代理人が殺害されたとなると、帝国は軍を出動せざるを得なくなってしまう。
「明日は不安だな。乙女の心に負担をかけるよ。眠れなくなりそう」
『紛れもなくウソだ』
断じられたぞ?
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はラグランド蜂起。




