第1354話:夜ゆっくり寝られそう
「バアルはいつかあたしに復讐するために現れるだろうとは言われてて。まー色々やってきたけど、最終的に目の前に現れたところを捕まえたの」
「滅してしまおうとは思わなんだのか?」
「会うまでは敵だと思ってたよ? でも実際に会ってみると、悪い子かもしれないけど汚いことする子じゃないんだよね。気に入っちゃったから飼うことにした」
「バアルを生かしておくことに、周囲の反発はなかったのか?」
「ドーラの有力者達のところにお詫び行脚行ったんだ。聖火教の結界で未来永劫閉じ込めておくの、魂が磨り減るまで『デスソング』に聞き惚れろの、未だ何者も到達したことない海溝の深淵に棄却するの散々脅されてさ。バアルが可哀そうに思えたわ。でも一応皆に許してもらったからいいんじゃないかな」
「ふむう、理解しがたいが」
情報源として有用ということもあったのだ。
今のドーラは足りないものだらけだけど、必要なものを三つ挙げろと言われたら、おゼゼと人間と情報だから。
「まあドーラの事情はどうでもよい。主席執政官ドミティウス閣下と悪魔の関係だが」
「うん。あたしの知ってることは話すよ」
「正直お主と悪魔の関係を見ていると、悪魔が必ずしも悪いものと思えん。しかし、ドミティウス閣下への悪魔の影響がいいものとはさらに考えられん。どう判断すべきなのだ?」
「あたしと閣下とじゃ、悪魔との付き合い方が違うんだよね」
「どう違う?」
ここは重要なところだ。
同時に傍からはわかりにくい部分でもある。
「閣下は『魔魅』っていう固有能力持ちなんだって。高位魔族を引き寄せてイーブンな立場でいられるっていう」
「うむ、ドミティウス閣下の近くにはいつも悪魔がいるわけだな?」
「閣下が生まれつきの『魔魅』持ちなのか、あとから発現した固有能力なのかは知らんよ? でも子供の頃から悪魔が近しい存在だったら影響されちゃうでしょ」
「道理だな」
「もっと悪いことに、悪魔同士って険悪なマウントの取り合いになるから、基本的にソロ活動なんだ。一人いたら別の悪魔が寄らないの」
「昨日施政館で言っていた、バアルの次にガルムが閣下の側付きになったという所以か。しかしお主の場合は……」
「あたしの方の事情はあとで話すよ。人間だっていろんな人と交流があれば人間性豊かになるじゃん? 悪魔一人が側近じゃ考え方も偏るわ」
「……」
「とゆーか悪魔ってのは、何とかして自分のメリットを引き出そうとするんだよ。閣下の側にいる悪魔が戦争起こさせて悪感情を摂取しようとするのは、一つの典型例だね」
ツェーザル中将が難しそうな顔しとるわ。
複雑ですか?
悪魔も人間も大して変わらんがなあ。
「お主の場合は? 何故悪魔と付き合える?」
「あたしは閣下みたいに悪魔に好かれる体質じゃないけど、あたしが悪魔好きなんだよね。可愛いし。となると必然的にあたしが悪魔にとって得になることしようとするじゃん? ヴィルにはぎゅーしてやるし、バアルには存在認めてプライド守ってやるし、ガルちゃんには御飯食べさせてやるみたいな」
「ふむ、そうすると複数の悪魔と同時に付き合えるのか」
「あとで気付いたことだけどね。悪魔も他の子と角突き合わせるデメリットよりも、あたしの側にいるメリットの方が大きければケンカしないの。個々の悪魔の性格や悪魔同士の関係がわかってくると、さらに接しやすくなるなあ」
「お主のレベルあってのことだろうがな」
悪魔は承認欲求が強い。
レベルの高い者に認められたいってことはあるようだ。
中将が声を落とす。
「次期……皇帝候補についてだが」
「中将がそれ言い出すと思わなかったな」
ちょっとビックリだ。
誰が皇帝になろうと、命に従うのが軍人って考えを持ってると思ってた。
「命令があればどこへでも行く。軍人だからな。しかし納得できる戦とできない戦はある」
「うんうん、わかるわかる。戦争なんかない方がいいよ。中将は言わないだろうからあたしが言うけど、ドーラ遠征とソロモコ遠征は無用の戦だったわ」
小さく頷く中将。
「お主はルキウス様推しと、ぬけぬけと言い放つ」
「あたしは正直者だから」
「ドミティウス閣下が次期皇帝では危ないと見るのか?」
「現にソロモコでは危なかったぞ? 一歩間違えりゃ大惨事だったわ。あたしがいるから間違えやしないけど。中将がものわかりよく引いてくれたからよかったものの、聞き分けのない司令官だったら、艦隊沈めざるを得なかったよ」
「うむ」
「閣下が有能なことは疑いないよ? でもああいう悪魔の悪い影響を受けやすい人が上から押さえられず、軍事について大きな決定権を持つポジションにいるのは、あたしは反対」
「……ルキウス様か」
「うん」
あたしが好き勝手言えるのはドーラ人だからってこともある。
「プリンスルキウスが皇帝に向いてるかもってのは、メキスさんから聞いたんだ」
「ほう、情報部はドミティウス閣下の直接の配下のようなものだったろうに」
「プリンスは『威厳』の固有能力持ちで、今レベル五〇あるんだよ」
「レベル五〇?」
これは知らなかったか。
「いや、プリンスがドーラに赴任した時、随員が一人もいなくてさ。レベルがないと自分の身も守れないから、あたしが上げたの」
「ガハハ。あの温和な性格に堅実な実務能力、おまけにレベル五〇『威厳』か。なるほど、玉座に相応しい」
「でしょ? でもこのまま行くと主席執政官閣下が皇帝だよね。まーガルちゃんはバアルほど大胆な悪魔じゃないから、手懐けてなるたけ閣下に影響及ぼさないようにしとけば、閣下が皇帝でも何とかなる気はしてる」
「世界の裏ボスのような発想だな」
あたしは世の中が混乱するのが嫌なんだもん。
何の得にもならんから。
中将の表情が随分柔らかくなった。
「ふむ、サッパリしたぞ。ユーラシアよ、感謝する」
「夜ゆっくり寝られそう?」
「ああ」
「じゃ、あたしは帰ろうかな」
「さらばだ。明日は帝都に来るのか?」
どーだろ?
「ラグランドへは行くけど、こっちに来るかはわかんないな。施政館に連絡は入れると思う」
「働き者だな」
「中将もそう思うでしょ? でも誰もあたしにボーナス出そうとしないの。困ったもんだ」
アハハと笑い合い、部屋を出る。
「中将ありがとう! おーい、帰るぞー」




