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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1352話:『スキルキャンセラ』が普及してる社会

 フイィィーンシュパパパッ。


「ユーちゃん、いらっしゃい」

「お肉の襲来だぞー!」

「やったあ! ありがとう!」


 チュートリアルルームにやって来た。

 お肉と踊る聖職者は、考えてみればシュールだな。


「どうかね? 最近の業績は。しっかり働いとるかね?」

「あはは、どうしたのユーちゃん」

「明日の予定が立たないんだよね」

「どういうこと?」

「あたしのクエスト先で、民衆が蜂起するんだよ。不測の事態が起きるかもしれないから、予定が入れられないとゆーか」


 急激な話題の転換に戸惑ってるな?

 この芸風は割と使えそーだわ。

 ブラッシュアップする価値があるかもしれない。

 不安そうなバエちゃん。


「また戦争なの?」

「石板クエストなんだよね。前回のソロモコもそーだったし、あたしを戦場の女神に祭り上げようってゆー陰謀が」

「陰謀……」


 いや、冗談だぞ?

 深刻になられても。


「上から押さえつける者と下で我慢する者がいるじゃん? そこに武器とか魔法とかがあると、必然的に争いになっちゃうんだよねえ」

「ユーちゃんは何してるの? 危ないことない?」

「危なくはないよ。争ってる双方の指導者層とコンタクト取れるのがあたしだけなんだ。今回はうまいこと収めろって役なの」

「そう」


 ホッとしましたか?


「あたしは戦争が嫌いなんだ。人死には出るし莫大なおゼゼを使うじゃん? トータルで得できるイメージが湧かない」

「ユーちゃんの感性は独特ねえ。感性じゃなくて理性なのかしら?」

「バエちゃんとこの世界では、戦争がないの?」

「ないわ」

「おお? 即答なのか。どうして?」


 戦争をなくす方法があったら知りたいわ。


「社会が管理されているのが最も大きな原因ではあるわ」

「つまり兵器を製造しようだのテロ起こしてくれようだの、物騒なこと考える人がいたりすると?」

「もちろんすぐ捕まっちゃう」

「例えばその人が強大な魔法持ってたりしたら、捕まえるの難しいんじゃないの?」

「『スキルキャンセラ』が普及してるから」

「何それ?」


 先制でかかって、相手の全ての魔法・バトルスキルの発動を止めてしまうスキルだそーな。

 なるほど、人数かけて『スキルキャンセラ』を連打できれば、敵の術者は何もできないな。

 魔法やバトルスキルの脅威は激減する。


「レベルの高い人は単純に強いと思うけど?」

「魔物もいないから、一般人がレベルを上げることはほぼ不可能よ。一部の警備を担当する聖職者が、経験値付与機能付きの特殊なテストモンスターを使い、必要なレベルまで上げることを認められているだけ」

「テストモンスターに経験値をつけてくれれば、『アトラスの冒険者』の初期脱落が防げるのにと考えてたよ。争いを起こさないとゆー理由があったとは」


 単純にテストモンスターを倒して経験値を得るっていう設定が不可能なのかと思ってたわ。

 いろんな事実が明らかになるなあ。

 サイナスさんの言っていた、向こうの世界には魔物退治ができる人がいないというのが、どうやら当たっているようだ。


「今の政府が政権を握ってる理由は何なの? バエちゃんの言う理屈だと、信徒の数が多いイコール武力があるからってわけじゃなさそうだけど?」

「いろんな考え方の信仰があるのよ。ユーちゃんふうに言えば。一番民衆の支持を集めた信仰が政権を取るの」

「あっ? じゃあ今の政府と旧王族の二択ではないんだ?」

「違うわ。今は身分差のない機会の平等を謳った考え方が有力で、長きにわたって政権を担当しているの。だけど王様や貴族みたいなのが好きな人もいる。もっと自由に様々なことをやらせろって人もいれば、異世界を教化して進出しろみたいな考えの人もいるわ。で、基本的に各人がどんな考えを持っていようと、それだけで罰せられることはないの」

「ん? じゃあ旧王族がこっちの世界に追放されたのは何で?」

「残虐な行いが罪とされたからであって、信仰自体が罰せられたわけではないの。少なくとも私はそう教わったわ」

「なるほどな?」


 だから旧王族が追放された後も、王族派みたいな人達がいるのか。


「公平なやり方だねえ。人々の支持を一番得た者が勝ちってのはいい。何より戦争起こして人死にが出たりビンボーになったりしないところが気に入った」

「でしょう?」

「でもおかしいところがあるぞ?」

「えっ、どこが?」

「この前の逃げた精霊使いのことだよ。旧王族ってだけで捕まって閉じ込められるのは変じゃない? バエちゃんの世界では、先祖が罪を犯したら子々孫々まで罰せられるの?」

「そんなことないわ。別件で犯罪者だったのかもしれないし」

「犯罪者が逃げたなら、捕まえるのは警察なり憲兵なりの役割だろーが。何で『アトラスの冒険者』のトップが追いかけるのよ?」

「……言われてみると変ね?」


 バエちゃんが首捻ってるが、かなり事情が判明した。

 エルは向こうの世界全体に追われてるわけじゃない。

 追ってるのはおそらく、エルの母親である赤眼天使一人だ。

 しかし『アトラスの冒険者』のトップだと、結構な人数を動かせるだろうな。

 荒事に強い人を配下に多く従えていることも十分あり得る。


「ユーちゃんのカンではどうなの?」

「フリが雑だなあ。エンジェルさんはあれからチュートリアルルームに来ないんだ?」

「来てないわ」


 じゃあエンジェルさんは逃げた精霊使いの関係者と、バエちゃんに話したことは聞いてないな。

 ダメ押しとくか。


「問題の精霊使いは、エンジェルさんが個人的な事情で追ってるとしか考えられないだろ。これはカンじゃなくて、名探偵ユーラシアの論理的な推論だぞ?」


 バエちゃんが悩ましげな顔してるけど、これでいいだろ。

 リスクはあるが、もう一度あの赤眼天使と話してみたい。

 エルを捕まえてどうするつもりなのかのスタンスがわからん。

 こっちの世界で自由にさせてくれるなら、放っといていいしな?


「ところで御飯食べに来ていい?」

「もちろんよ」

「明後日の夜に来るよ。ヴィルの他にもう一人悪魔連れて」

「ヴィルちゃんみたいに可愛い子?」

「悪魔の見た目は皆可愛いよ。ヴィルみたいにいい子じゃないけど、御飯食べさせれば平気」

「あ、食べる子なのね? じゃあカレー用意しとくね」


 よーし、用は終わり!


「じゃねー」

「またね」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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