第1348話:ガータンで何を作ればいいですか?
「ありがとう、ユーラシア君。帰ろうか」
「「「「「えっ?」」」」」
フリードリヒさん、あっさりし過ぎだろ。
意表を突かれたわ。
いや、ヘルムート君とベンジャミンさんの邪魔をしたくないっていう意図があるんだろうな。
「本当にベンジャミン殿の顔を見たかっただけなんだ」
「ありがとうございます」
「わかるけれども。せっかくなのにさー。何か聞きたいことないの?」
「山賊と治安の状況はどうだい?」
うむ、まず山賊についてだ。
最重要事項で間違いない。
あたしも仮住民登録がどれくらい進捗してるか知りたいしな。
「現在把握している限り、ガータン領内の空の民全ては、仮住民登録制度の管理下に入った」
「もう? すげえ!」
「今後の流民や空の民については、領府に連れてきてもらうのを原則とします。こちらでも広げた畑の働き手が足りなくなることが予想されますでな」
「ガータン~パッフェル間の交通に関してはほぼ安全と思われる」
「うん、こっちでも調査して、問題がないようならば関所の警戒レベルを下げよう」
喜ぶヘルムート君とベンジャミンさん。
対パッフェルの交易が捗りそうだなあ。
「さっきチラッと聞いたが、ヒョウタン酒は魅力的じゃないか」
「うむ。ヒョウタンにもいろいろなタイプがあるらしいのでな。ゼムリヤへ買いつけの者を派遣したのだ」
言ってくれれば手伝ったのに。
いや、あたしがいつ来るかわからんからか。
「今年中に主要産業化して、来年には増産だ」
「おおう、景気がいいなあ」
「しかし、パッフェルにしか売れないんだろう?」
ヘルムート君とベンジャミンさんが頷く。
何で?
「帝都メルエルと交易できれば最高だ」
「しかしガータンと帝都の間の街道はいくつもの他領を経由する。他領には山賊がおるでな。平穏な交易は難しいのだ」
「そーかー」
山賊はガータンだけの問題じゃないもんな。
フリードリヒさんが言う。
「一説に帝国本土内で市民権を持たない者は数十万人いるそうだ」
「マジか。国ができちゃうやんけ」
「しかし実際に山賊化して交易の害となっているのは、郎党含めてせいぜい一万人内外だろう。ユーラシア君」
「何だろ?」
「ガータンの実りで何人を養えると思う?」
フリードリヒさん、えらく大胆なことを言い出したぞ?
「早期に一〇万人は楽勝だと思うけど」
「ハハッ、伯爵領レベルの人口だな。しかし僕もそう思う」
「……つまり、他領の空の民も領民として取り込めと?」
フリードリヒさんニヤニヤしてら。
空の民を領民にするという発想は、人口の割に土地の少ない帝都やパッフェルのような都会では実現できないからな。
ヘルムート君とベンジャミンさんに期待するところが大きいんだろう。
「お頭はいろんな情報持ってたじゃん。あれは何で?」
「空の民には空の民の連絡網があるんだぜ。他領とも繋がってるんだ。今後は用がなくなるが」
「ふんふん、便利だな。その連絡網切らないでキープしといてくれる? ことあるごとにガータンは領民募集中、空の民でも可って情報流して」
「え? いや、指定以外の業者との取り引きが制限されているから難しいんだぜ」
「ふむ。ではスイープ殿の集落には、耕地拡張前現在の畑の生産物に限って指定外業者との交易を特別に認めよう。ならばどうだ?」
「ヘルムート様の理解があるってことなら」
おそらくガータンで空の民を領民として募集しているという情報が流れたとしても、わんさか山賊達が押し寄せる事態にはならない。
能天気に信じられる話じゃないからな。
山賊を捕まえる罠だと考える者も多いだろう。
でも仮住民登録制度が軌道に乗る頃には、少しずつ移住してくるんじゃないか。
「全国一斉山賊取締りやるって号令かけると、こぞってガータンにやって来るよ」
「フリードリヒさんも悪いやつだなー」
今はあくまで試験的導入の段階なのだ。
制度運用にノウハウが蓄積されてからじゃないと、大勢来ても困っちゃうわ。
「フリードリヒさんは公爵領の領主としてガータンに期待することないの?」
「もちろんあるさ。パッフェルは消費都市だ。ややもすると帝都以上に物価が高くなってしまう。強歩二日以内で安い農産物の産地を確保できるのは嬉しい。しかし……」
商売人っぽい貼りつけたような笑顔だね。
「実際のところ、穀物や豆は十分足りてるんだ。現在納入してくれている生産者と軋轢を起こしてまで、ガータンから買うのかと言われるとノーだな」
「さてパウリーネさんとパスカル君にクイズでーす! じゃあガータンで何を作ればいいですか?」
眠いんでしょ?
わかってるわ。
眠気吸ってヴィルが寝ちゃって、さっきからツッコんでこないもん。
「え? ええと、おいしい果物とか?」
「に、肉だ!」
いいですね。
フリードリヒさんも御満足のようです。
「うむ。果樹と酪農は加工品も含めて有望だな。しかし時間がかかる」
「将来に向けて生産を奨励しておきましょう」
「一つすぐ使えそーなアイデアをあげるよ。もやし」
「「「「「もやし?」」」」」
わかるまい。
フリードリヒさんが、豆は十分足りてるって言ってたからね。
使うことも考えていいでしょ。
「洗った豆を暗い場所で綺麗な水に漬けておくと、七~一〇日で芽が出るでしょ? それを食べるの」
「……つまり間引いたものでなくて、計画的に芽が出てすぐのものを食用に生産するということかい?」
「うん。単に豆を食べるより嵩もぐんと増えるし、炒めてもスープにしてもおいしいよ。他所の国の人に教えてもらったの」
「うまい方法だな」
「ドーラでもいずれ流行らそうと思ってるんだ。生産施設があれば土がなくても作れる。冬でも食べられる野菜だよ。日持ちしないけど、輸送時間も生育期間に充てればかなり計画的に生産できるはず」
「新鮮な野菜を冬でも食べられるのはいいですな。ふむ、研究してみますぞ!」
「新しい発想だ。我が領でもやってみたいが……」
ベンジャミンさんとフリードリヒさんにクリティカルヒットのようだ。
回転が早くて生産効率がメッチャいい。
また年中作れるってのは大きなメリットだからな。
「……ぬ?」
ヴィルが起きたようだ。
よしよし、いい子だね。
ぎゅっとしてやろう。
「じゃあ帰ろうか。ビーコンをパッフェルの宮殿に置いてきてね」
「わかったぬ!」




