第1339話:大悪魔とガルちゃん
ナップザックの中からバアルの籠を取り出す。
「じゃーん! 大悪魔登場!」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
予想していたかしていなかったか、どちらとも取れる表情で籠を見つめる閣下。
思わず、といった調子でおそらく無意識に閣下の言葉がこぼれる。
「……バアル」
「久しいであるな、ドミティウスよ」
「……悪魔か」
中将の表情が険しくなる。
でもバアルは問題ない子だぞ?
いや、問題ないって言うとメッチャ語弊があるけど、誇り高い子なのだ。
「なるほど、バアルはユーラシア君に捕らえられていたのか」
「うむ。しかし恥とは思っておらぬ。吾が主に挑んだことは生涯の誉れであった」
「おお、バアルカッコいい!」
「そ、そうであるか?」
照れるバアル。
「ユーラシア君の僕になったのか?」
「うん。今はうちの子(仮)」
「中将、この悪魔バアルと予は、二〇年以上にわたる付き合いがあったんだ」
「二〇年、ですか」
中将も閣下と悪魔の関係については何か感付いてたか?
告白聞いても困るだろうけど、高級軍人にも悪魔について理解の深い人がいても悪くないと思うな。
「バアル。予を裏切ったわけではないのだな?」
「裏切るも何も、吾はドミティウスと契約を交わした覚えはないである」
「そうだったな」
バアルのドライな言い様に閣下寂しそう。
「バアル、閣下に説明してあげてくれる?」
「ソロモコについて吾が主が語ったことは真実であるぞ。吾もドミティウスの傍らにいた時分は、ソロモコと魔王の関係については知らなかったであるが」
「バアルがウソ吐かない子であることは、閣下も知ってるでしょ? あたしがこの場で出せる、唯一最大の根拠はバアルだよ」
「ああ、納得したよ」
「納得したところで、今閣下付きになってる子に会わせてくれないかな?」
『悪魔』と言わなかったのはわざとだ。
しかし閣下も心得ている。
「ガルム、出てきてくれ」
魔力が高まり、姿を現す一人の高位魔族。
ヴィルほどの腕ではないが、ワープの使い手か。
しかし?
「お初にお目にかかります。ガルムにございます」
「わんちゃんやないけ」
「なっ……!」
オオカミの頭って話だったから、見た目獰猛な子かと思ってたよ。
高位魔族サイズだと子オオカミの頭なのか。
ってゆーか子犬じゃん。
すげー可愛いな。
「し、失礼な! あ、あらバアルじゃないの」
「久しいであるな、ガルムよ」
「いつの間に立派な籠屋敷に住むことになったのかしら?」
「吾の身にも色々境遇の変化があったのである」
「しかもそんなにお可愛らしくなってしまって」
「色々あったのである」
「あらあら、無敵と噂のバアル様も形無しね。ちょっと足が滑ったら踏み潰して……」
「おいこら」
「……えっ? 瞬間移動?」
ダッシュして捕まえただけだってばよ。
「うちのバアルを悪く言うのはひっじょーに面白くないね」
「あ、あらあら。バアルはあなたの下僕に成り下がったのかしら?」
「あたしから悪感情を得ようとするのはあんたの勝手だ。でもそれ相応の対価を支払ってもらうぞ?」
「は、はは……」
「あんた程度のワープの能力で、バアルを捕まえたあたしから逃げられると思うなよ?」
「ひ、ひやああああ!」
「ヴィルカモン!」
「御主人に呼ばれてヴィル参上ぬ!」
「早かったね?」
「待機してたんだぬ」
「よーし、ヴィル偉い!」
中将がまた悪魔かって顔してるけど、確かに悪魔密度が高いな?
「ヴィルまで……えっ? ヴィルあなた、そのレベルはどうしたの?」
「御主人の魔物退治のお供をしてたらカンストしたんだぬ!」
「ヴィル、この子を見張っててくれる?」
「わかったぬ!」
「理解できるね? あんたよりヴィルのワープの方が技術的に上、レベルも遥か上だ。絶対に逃げられないぞ? もっと言うと、あんたが支払いもせず逃げようとすればあたしの虫の居所が悪くなる」
「は、はひ……」
あたしは悪魔とゆーものに比較的好感を持っているので、ガクブルせんでもいい。
正当な取り引きを持ちかけるだけだ。
「あたしがあんたに提供した悪感情の代わりに、一つ質問に答えなさい」
「な、何ですの?」
「あんた、ソロモコに魔王が関わっていることを知ってたのに、閣下に教えなかったでしょ? で、遠征先がソロモコになるように仕向けた」
執政官室の空気が張り詰める。
ヴィルの居心地が悪そうだな。
ごめんよ。
「さ、さあどうかしら?」
「その言い方は正解ですって言ってるのと同じだからな?」
「ガルムよ。迂遠な言葉遊びは吾が主の好むところではないのである。吾が主の機嫌を損ねると、支払いが大きくなるであるぞ?」
「ごめんなさい知ってました仕向けましたっ!」
「証拠その二でした」
バアルの言葉だけだと、あたしが捕らえているバアルに圧力をかけて言わせたと疑うことはできたかもしれない。
一応悪魔ガルムの発言で、魔王とソロモコの関係についての根拠を補強しておいた。
静まる執政官室で、おずおずとガルムが話し出す。
「……あの、私が罰せられる流れですの?」
「え、何で? ガルちゃんは対価に従って正直に話しただけじゃないか。もうあたしとは特に貸し借りないぞ?」
「フェアな取り引きだぬ!」
「ガルちゃんって。で、でも責任が……」
「こーゆー時の責任は、最終決定者が負うもんなのだ」
「ああ、責任は予にある」
閣下もサッパリしたような顔になる。
「ソロモコで誰が損したわけじゃなし、丸く収まったからいいんだぞ? あ、そんなことないわ! 高級魔宝玉を放出した分、あたしが大損害だわ!」
「ユーラシア君が個人で出したのかい? ドーラ政府の思惑でなく?」
「ドーラはソロモコに関係ないじゃん。ビンボーだから余計なおゼゼがあるわけもないし」
閣下はあたしがドーラ政府の手先だと思ってるのかな?
いや、『アトラスの冒険者』をドーラ政府の関連組織だと考えるのが自然か。
まあ『アトラスの冒険者』の運営母体は怪し過ぎるんだよな。
おまけにいっくら調べたって情報出てこないだろうし。
「あたしは自称プラス他称世界一の魔宝玉ハンターだから、もし御用向きがあったら依頼出してよ」
「うん、機会があれば頼もうかな」
「さーじゃあこの損害をどこから取り返してくれよう。ちらっ」
「わ、私は払えないですのよ?」
脅えるガルちゃん。
わかってるってばよ。




