第1338話:閣下が信じられる根拠
「こんにちはー。ドーラの美少女冒険者ユーラシアがやってまいりましたよって、主席執政官閣下に伝えてくれる?」
「はい、伺っております。こちらへ」
帝国施政館に到着。
ここでも待たずにすぐ通してくれるようになったぞ?
受付のお姉さんの後をついてゆく。
チラッと情報収集しとくか。
「閣下がすげえ御機嫌斜めって聞いたけど」
「は、はい。笑顔は変わらないのですが、張り詰めたような空気が……」
「おっかないなー。閣下が怒ってるのっていつからだかわかる?」
「一昨日からだと聞いています」
閣下の機嫌が悪いことはかなり広まってるみたい。
あーんどやはり艦隊の帰還前に情報を得ていたようだ。
一昨日だと、仮に連絡の高速船を出してても間に合わんタイミング。
やはり閣下付きの悪魔が情報収集してると見た。
重厚なドアの前でお姉さんが大きめの声をかける。
「ユーラシア様をお連れしました」
「入ってもらってくれ」
「こんにちはー」
執政官室の中へ。
あ、もう中将来てた。
直立不動だな。
主席執政官閣下がお冠だ。
「遅いじゃないか!」
「ごめんね。朝早くは忙しいかと思ってたんだよ」
「ツェーザル中将から報告は受けた。どういうことだ!」
ははあ、あえて中将がどんな報告をしたかは言わない。
あたしの口から喋らそうという魂胆か。
やるなあ。
「といわれても、中将の報告の通りだよ。ソロモコを占領しようとしたけど、強大な魔法の使い手に阻まれました。魔道士の助言に従い撤退することにしました。交渉で魔宝玉を手に入れることに成功しました」
「何故それを君が知っている?」
「あ、中将と口裏合わせてたのバレた」
アハハと笑っていたら、若干閣下の表情も緩んだように見える。
中将は相変わらずハラハラしてるけど。
「『アトラスの冒険者』で君がソロモコに関係しているのは理解した。しかし何故我がカル帝国の方針に逆らう?」
「閣下がソロモコを攻めるつもりだって前もって教えてくれてたら、あたしだってやめてくれって言ってたわ。でも一旦決まった方針を取り下げるってのも、メンツの問題で大変なんでしょ?」
「……難しいな」
「じゃ、しょうがないじゃん。あたしだって大損なんだから勘弁してよ」
「……君は敵じゃないんだな?」
「違うとゆーのに。敵だったら閣下がこの前毒盛られてた時放っといたわ」
「うむ……」
「毒?」
中将は知らなかったか。
あたしもその後の経過聞いてないな。
閣下が言う。
「ウルピウスとユーラシア君が来た時があったろう?」
「ああ、よく覚えています」
「中将と初めて会った日だね」
「中将が退出してから、秘書官が予の食事に毒を盛るという事件があったんだ」
「何と! 全然知りませなんだ!」
「公にはしてないんだ」
「あれって解決したの?」
頷く閣下。
「ああ。『ミリオンマートグループ』自体は関係がなく、サマンサに接触した者の個人的な怨恨による犯行だった」
「秘書官さんの娘さんは?」
「無事だ。サマンサには減給三ヶ月の処分を科した」
「よかったねえ」
まーその個人的怨恨の相手がどうなったかは想像できるから聞かんけど。
閣下が顔を顰める。
「君という人間が本当にわからない。敵なのか味方なのか」
「立場が違うから、簡単に割り切れるものではないとゆーのに。でも味方にしといた方が何かとお得だぞ? あたしは帝国のことをお得意さんだと思ってるから、なるたけサービスしてやろうと思ってるし」
「そうなのか?」
「そうそう。だから帝国が大戦争に巻き込まれると、こっちの商売が困るの。邪魔したのは悪かったけど、艦隊にお帰りいただく以外に方法がなかった」
ドーラの発展にえらい影響しちゃうからね。
「……君の口から、ソロモコの事情について説明してくれ」
フクちゃんが尊敬の感情を集めて魔王に送っているから、魔王が人間と敵対しないこと。
しかしソロモコで変事が起きれば魔王が怒っちゃうこと。
この説明も慣れたもんだ。
「……とゆーわけなんだ」
「魔王にも会ったことがあるのかい?」
「一度だけ。あたしの後輩の『アトラスの冒険者』が担当してた『魔王』っていうクエストがあってね。その絡みで紹介してもらった」
首をかしげる中将。
「『魔王』か。聞くからに恐ろしげなクエストだが、非常な困難が予想されるものは最上級の冒険者であるお主に回されるのではないのか? 後輩も大したやつなのか?」
「二択だったんだ」
「「二択?」」
閣下と中将の声が揃う。
「『魔王』ともう一つの高難易度クエスト『カル帝国皇宮』ってやつと。その後輩冒険者もドラゴンスレイヤーなんだよ。どっちか一つを請けてくださいってことで、あたしが『カル帝国皇宮』の方もらったの。リリーと知り合いだったってことがあると思う」
「ユーラシア君がリリーと元々知り合い、っていうのがよくわからないのだが」
リリーについては閣下も知らないのか。
「リリーは宮廷のドロドロした人間関係が嫌になったって言ってたよ。で、身分を隠してドーラに来たの。ドーラ独立前の戦いで潜入工作兵を送ってきたじゃん? 海の一族に気付かれないようこっそり上陸するやつ。リリーはあれ使ったんだ。港のあるレイノスじゃなくて、田舎のわけわかんないところにいきなり現れた」
「ま、まさかあんな危険な方法で……」
「あたしもクエストでたまたま知り合ったんだ。もう今は帝国の皇女だって皆にバレちゃってるけど、ドーラは身分制度ないから誰も気を使わないじゃん? リリーも居心地がいいみたいだよ。冒険者として活躍してて、レベル三〇越えてる」
「ほう、大したものだ」
中将は感心してるが、閣下は違うことを考えてるようだ。
目が鋭くなる。
「ユーラシア君が話上手であることは理解した。しかし、魔王とソロモコの関係が真実だという証拠はどこにある?」
予定の範囲内だわ。
「人魔大戦の可能性に根拠がないならば、帝国政府としてドーラに責任を問わざるを得ない」
「ソロモコはあたしのクエストであって、ドーラは関係ないとゆーのに。閣下が信じられる根拠が一つだけあるよ。見せてもいいけど、中将がいるところだと都合が悪いと思うんだ」
「構わないから今見せてくれ。ツェーザル中将は口の軽い男ではない」
中将は面食らってるぞ?
余計なことに巻き込んでごめんね。




