第1334話:ちょこれえと
フイィィーンシュパパパッ。
ゴブリンの森から帰宅後、イシュトバーンさん家に来た。
イシュトバーンさん家でたっぷり食べるため、ゴブリンとのお肉パーティーは遠慮したのだ。
あたし偉い。
「こんばんはー」
「こんばんはぬ!」
「いらっしゃい」
「雨やんでよかったよ。ノアも美少女番が板に付いてきたねえ」
「そ、そうか?」
恥ずかしがるようなことじゃない。
美しく可憐にして高貴なあたしを迎える役なんて、とても名誉なことだ。
イシュトバーンさんが飛んできた。
「よう、来たか」
「来たよ。これお肉」
「おう、いつもすまねえな。ん? これ何の肉だ?」
イシュトバーンさんは違いのわかる男なので、コブタ肉じゃないことにすぐ気付いたようだ。
「これエルダーガゼルって魔物の肉なんだ。ついさっき手に入れたの。食べたことないんだけど、草食魔獣だからおいしいと思うんだよね」
警備員さんにお肉を厨房に持っていってもらう。
お願いしまーす。
「で、あの肉を手に入れた経緯が面白いってことだな?」
「鋭いね。マウさん知ってる? 現役最年長の『アトラスの冒険者』。ゴブリンからクエスト請けてるの」
「何だそりゃ?」
以前ゴブリンと仲良くなったら、村を荒らす魔物を退治してくれと頼まれたのどうの。
「半分以上あんたの責任じゃねえか」
「ええ? 『恩恵』じゃなくて『責任』なのはどうだろう?」
納得いかないけれども。
「五体でしょ? 大量だったね。皆にお肉分配できてよかったよ」
「あんたはゴブリンと意思の疎通ができるのか?」
「大体可能だよ。コモンズの通用しないソロモコでも通じるし」
「つまり言葉が通じようが通じまいが関係ねえってことだな? 何故だ?」
「灰の民の族長サイナスさんに言わせると、カンで相手の言ってることがわかって、説得力で自分の言いたいことを伝えてるんだって」
あたしもどういうことかわからんのだけど、サイナスさんの言うことが正解の気がする。
カンは固有能力『閃き』の恩恵だろう。
でも説得力はどこから来たんだろ?
昔からだから、きっと美貌とともにあたしのカリスマを構成する一要素なんだろうな。
「ハハッ、あんたらしいじゃねえか。上がってくれ」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔するぬ!」
「まずは飯なんだろ?」
「その通りだ!」
「その通りだぬ!」
あのえっちな目をヴィルに向けるイシュトバーンさん。
「最近、ヴィルのキレが増してねえか? 間がいいと言おうか」
「イシュトバーンさんも秀でてると思う? ヴィルが言うには、レベルが上がったからじゃないかって」
「はん? レベル? ヴィルは戦闘要員じゃねえんだろ?」
「じゃないぬよ?」
「いや、ヴィルのレベルには理由があってさ……」
魔王やその配下にバカにされないようレベル上げを始めた。
ヤバい人形系レア魔物を倒すため、ヴィルに特殊なパワーカードを持たせているなどなど。
「ということは、あんたのパーティーの魔宝玉回収能力は、以前より優れてるってことか? あのバカげた魔宝玉クエストを請けてた時以上に?」
「そーゆー言い方もできるね。ただ高級過ぎる魔宝玉って売れないじゃん? あ、でも三日前には役に立ったわ」
「何があった? 待てよ、ソロモコ決着の日か」
イシュトバーンさんはよく覚えてるなあ。
ソロモコの話はあたしにとっては予定通りで、若干盛り上がりに欠けたような気がするのだ。
エンタメ感覚に優れたイシュトバーンさんを満足させられるか心配なんだが。
「帝国海軍の艦隊司令官ツェーザル中将がすげー潔く引いてくれたからさ。一粒万倍珠、邪鬼王斑珠、雨紫陽花珠、鳳凰双眸珠、幽玄浮島珠を一つずつサービスしちゃった」
「高級魔宝玉をやるから、ソロモコは勘弁しろってことか? あんたにとっちゃタダみたいなもんじゃねえか」
「タダではないよ。結構な交渉材料にできる貴重な石っていう認識だな」
幸い高級魔宝玉ハンターはうちのパーティー以外にいないので、今後も有効な交渉材料であるよう、出し渋ろうとは思ってる。
「お、料理来たぜ」
「いただきまーす!」
◇
「ごちそーさまっ! おいしかった! もー入んない!」
「詰め込んでも入んないぬ!」
アハハと笑い合う。
「エルダーガゼルは普通に美味いじゃねえか」
「やっぱ思った通りだな。これなら皆喜んでくれてるわ」
ちょっと歯ごたえのあるウシって感じ。
今日は時間も時間ということがあって焼いて塩だったが、薄切りにして鍋なら間違いないな。
「煮込むとよりイケるはずだぜ」
「鍋かシチューか。どっちも甲乙つけがたいねえ」
次どこかでエルダーガゼルを狩ることができたら、ぜひ煮込みにしよう。
今日のパリパリした生地のスイーツも美味かった。
「この前ここに遊びに来た時に聞いた、カカオっていう商品作物だけど」
「おう、チョコレートっていうスイーツになるんだぜ」
「ちょこれえと?」
「初耳だったか? 帝都の高級菓子店で手に入るぜ。オレもカカオがチョコレートの材料だとは、ついこの前料理人に聞くまで知らなかったんだ」
ふーん。
イシュトバーンさんはちょこれえとを帝都で食べたことがあるんだな?
「相当おいしいんだ?」
「適度な苦味が混ざると甘味が増すと知ったのは衝撃だったぜ」
「何それ? 味の想像がつかないんだけど?」
「食ってみればわかる」
味を言葉で説明するって難しいもんな。
イシュトバーンさんがこう言うからには、かなりインパクトのあるスイーツに違いない。
明日食べてこよ。
どこで売ってるか知らんけど、『ケーニッヒバウム』で聞けば間違いないだろ。
「ツェーザル中将によると、カカオみたいな商品作物は、帝国がラグランドに安く作らせてるらしいんだよ。単に税金高い以外でも、強制作付けでラグランドが怒ってるっていうことがあるみたい」
「なるほどな。大人数の腹を満たせる作物の栽培を制限させて、帝国産の穀物に依存させる、か」
汚いやり方ではある。
「あんたはその中将とも普通に話できるわけか?」
「今後は難しいかな。でも中将は明日、帝国施政館にソロモコ遠征について報告に行くって言ってたんだ。あたしも施政館行こうかと思って」
「おい、大丈夫なのかよ?」
「何が? いくらちょこれえとがおいしいからって、あたしは失神したりはしないぞ?」
「そうじゃねえよ!」
ジョークだってばよ。




