第1333話:エルダーガゼルという名のお肉
うちのパーティーとマウ爺、ジーク君のパーティー、ポーラ、ゴブリン二人がクララの高速『フライ』に乗ってびゅーんと飛んでいる。
クララの高速『フライ』は操作がメッチャ安定しているので、結構すごい。
多分術者の性格があるんだと思う。
好奇心旺盛なあたしが一人で『遊歩』使って飛んでる時は、割といろんなことに気を取られている自覚があるからな。
元々飛行魔法は空気に包まれてるから寒くもないし、これを怖がる人がいるとゆー現実はちょっとわからない。
さて、森のゴブリン達と対立している、うまそ……迷惑な草食魔獣はどこだ?
「キュイ!」
「あれか」
すげー立派なうねうねした角を持ってるシカみたいなのが、確かに五体いる。
身体も結構でっかいから、突進してきたら武器の貧弱なゴブリンじゃどうにもならないな。
「しかでつか?」
「シカっぽいねえ」
ん、クララ何?
「ポーラ、あれエルダーガゼルって言うんだって。シカに似てるけど、ウシの魔物なんだってよ」
「そうなんでつか」
「おいしそうだねえ」
「えっ?」
ポーラにはまだわからないことのようだ。
幼いから仕方あるまい。
しかしあたしくらいのお肉ハンターになると、尻肉のつき方だけですげー美味そうと理解できてしまう。
ジーク君達はわかって欲しいな。
マウ爺が渋い顔をする。
「ふむ、難しいの」
「逃げちゃいそーかな?」
「十中八九な」
草食魔獣だからなあ。
危険を感じた時や興奮してる時、出会い頭に遭遇した時以外は、そう向かってくるものじゃないのだ。
どーすべ?
「地形的に追い込めるところはないかなあ?」
「ないな。草原と森だけじゃ」
「疲れるまで追いかけるとか」
「スタミナはかなりあると思われる。散開されたら厄介じゃ」
「むーん?」
バラけるの覚悟で一体ずつ仕留めていくしかないのか?
どんだけ時間かかるだ。
たかがお肉にそこまで手間かけてられんわ。
不意にジーク君が言う。
「追いかけながら空中から攻撃することはできないのかヨゥ?」
「あっ、できるできる! ジーク君やるなー」
「忘れてるのが変なんだヨゥ」
だって飛行魔法で飛びながら攻撃ってのは実際にやったことないからな。
以前対飛空艇戦術として、考えたことはあったってだけ。
「クララ、ゆっくり追ってくれる? 『雑魚は往ね』の間合いで」
「はい」
近付くとエルダーガゼルがこっちに気付き、警戒する。
やはり逃げ出すようだ。
そーはいくか。
レッツファイッ!
ダンテの実りある経験! エルダーガゼル達が逃走する! 溜めて溜めて……。
「雑魚は往ねっ!」
「すごいでつ!」
「「キュイキュイ!」」
バタバタ倒れるエルダーガゼルに、ポーラとゴブリン二人は大喜びだ。
ハハッ、ナイスアトラクションでした。
そして驚愕するチトー君。
「い、今のスキルは一体……」
「嬢の得意技じゃ。自分のレベル以下の敵を一掃するというバトルスキルで、ワシも嬢以外の使い手を見たことがない。かなりのレアスキルじゃ」
「えっ? 自分のレベル以下ってことは、使い手がレベル一三〇オーバーだとどうなります?」
「人形系レア魔物だろうが何だろうが、一撃で倒せるねえ」
「ドラゴンはどうですかっ?」
「ドラゴンもザコの内に入っちゃう。この前ブラックデモンズドラゴン五体が出ちゃって魔王が困ってるっていう、ソル君のクエスト手伝ってきたんだ」
マウ爺が驚く。
「ブラックデモンズドラゴン五体じゃと? よく攻撃に耐えられたな?」
「魔王が闇属性攻撃の効果を半減させる魔法を持ってて、ソル君が戦闘前にステータスを上げられる魔法持ってたんだ」
「ほう、大したものじゃ」
あたしも闇耐性のあるパワーカード『闇払い』を持っていった。
さすがにブラックデモンズドラゴンほどの魔物が五体も固まっていると、しっかり事前準備しないと勝てないのだ。
「私にもドラゴン倒せますかねっ?」
「レノアはブレないなー。倒せるとゆーのに。でもレベルが必要」
ジーク君のモブ顔が難しげなモブ顔になる。
「肝心のレベル上げが問題なんだヨゥ。結局効率のいいレベル上げは、高ランクの人形系魔物を倒すことなんだヨゥ。凡人にはムリなんだヨゥ」
「悩めるジーク君パーティーに朗報でーす! 希代の大魔道士ペペさんが、凡人でも高ランク人形系レアを倒せるバトルスキル『ビートドール』を開発しました! お値段何と六〇〇〇ゴールド!」
「嬢が作らせたのか?」
「いや、ドーラで輸出用スキルスクロールの大規模生産始めようプロジェクトでペペさんの力借りた時に、人形系にダメージを入れやすい汎用スキルがあるといいねって話になったんだよ。そうしたらペペさんがじゃあ作るねって」
ペペさんは容姿もおかしいが才能もおかしい。
どーして気軽にスキル作るなんて話になるのか?
「具体的にはどういう性能なのじゃ?」
「ええと、敵単体に少量の衝波属性ダメージ。威力は攻撃力に比例で、レベル三〇くらいの前衛なら一撃で二〇前後のダメージ取れるって。使用コストは『ファイアーボール』程度のマジックポイントで、射程長め」
「かなり使えるではないか」
「もうスキル自体は完成してるんだ。ラルフ君が一本手に入れてるけど、一ヶ月もすれば普通に買えると思う」
ジーク君がただのモブ顔になった。
道は開けているぞ。
頑張れ。
「すごいでつ! あざやかでつ!」
「「キュイキュイ!」」
向こうではクララが既にエルダーガゼルを解体してお肉にしていた。
ポーラとゴブリンコンビが大喜びだ。
うんうん、実に美味そう。
クララの神技も一見の価値があるのだが、残念ながらこっちの皆は見逃してしまったようだ。
「お肉はあたしがナップザックで運ぶね」
「「キュイキュイ!」」
「え? 角なんか欲しいの? おーい、誰か角欲しい人いる?」
「一本欲しいですっ! 戦利品ですっ!」
「じゃあレノアに一本あげてね。残り九本はあんた達のものだ!」
「「キュイ!」」
レノアの価値観はゴブリン並みということがわかった。
いや、しかしレノアの固有能力『吝嗇』は財産が多いほど強くなるというものなので、万一エルダーガゼルの角に資産価値があったりするとステータスパラメーターが強化されちゃうわけか。
レノアの姿勢は正しい。
「よーし、帰ろうか」
クララの高速『フライ』で、びゅーんとゴブリンの集落へ帰還する。




