第1327話:煽る山賊
――――――――――二二一日目。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
朝からガータンにやって来た。
平和な農村って感じのするいいところだなあ。
あたしは好き。
「ユーラシア!」
「あれえ? パスカル君まだガータンにいるんだ?」
パスカル君が領主屋敷から飛び出してきた。
ガータンは田舎過ぎてつまらんだろうに、意外だな?
とっととパッフェルに帰ってるもんだと思ってたわ。
「いつ君が来るかと思って、待ってたんだ」
「パスカル君は乙女心をくすぐろうとするなー。そこはウソでも勤労精神が芽生えたって言っとけば、できる男をアピールできるのに」
アハハと笑い合う。
パスカル君は今まで会った皇族貴族の誰よりも感情表現が豊かだ。
時には本心を包み隠すことも必要だろう貴族として、何でも表情に出ちゃっていいのかは知らんけど。
「この前あたしが来た時からこっち、変わったことあったかな?」
「硬い石を穿り出す道具の貸出運用が始まっているぞ」
「おおう、もう掘り出し器具ができてるのか。よしよし、順調だな。黒妖石は量が溜まったら取りに来るよ」
「いや、オレはもうパッフェルへ帰るつもりなんだ。兄上か領宰殿に言ってくれ」
「りょーかーい。あたしもパッフェル行きたいな。聞いてる? プリンスルキウスとパウリーネさんの婚約決まったって」
「昨日使いが来て知った」
「あとでパッフェル行こうよ。送ってくからさ」
「よろしく頼む」
心なしか嬉しそうなパスカル君。
美少女に誘われたからか、久しぶりにパッフェルに帰れるからかどっちかな?
「ところでヘルムート君とベンジャミンさんはどうしたの? 寝坊?」
「いや、空の民の主だった者が来ているのだ」
「えっ? 朝から?」
「昨日から泊りで。スイープ殿が説得してくれたのだ」
「お頭やるなあ」
一番難しいと思ってた、空の民達に信用させるところが進んでるじゃないか。
空の民が全員仮住民登録してくれたら、ガータンの統治はいっぺんに簡単になる。
耕地面積の増大も見えてるし、ガータンで空の民優遇するぞーってのが広まったら、他領でも山賊は減って交易しやすくなるはず。
「どこにいるのかな?」
「公民館だ。二〇〇ヒロくらい先の大きな建物」
「行ってみよ。パスカル君は館の留守番しなきゃいけないの?」
「君が来るかもしれないから待機しててくれと言われただけだ」
「あれ? そろそろあたしが来るって読まれてたか」
ヘルムート君カンがいいな。
「じゃ、一緒に行こうか」
「ああ」
公民館へ。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「おお、ユーラシア殿。来てくれたか」
公民館前の空き地に、ヘルムート君とベンジャミンさんの他、一〇人ほどの見知らぬむさい男達がいる。
ハハッ、どう見ても良民には見えないわ。
山賊だな?
「お嬢さん」
「あっ、お頭ありがとう! 皆を連れてきてくれたんだって?」
「いや、それがな……」
うむ、雰囲気がよろしくない。
ヘルムート君はどうせ山賊を飼い馴らすのは時間がかかると思ってたのか、涼しい顔してるけど。
「あんたが噂のユーラシアか?」
山賊の一人が無遠慮に話しかけてくる。
結構いい身体してるな。
いや、押し出しが利くから山賊社会では顔役なのか。
「そーだよ。ところでいい噂だった? 悪い噂だった? 細かいことが気になっちゃうお年頃なんだ」
「ハハッ。スイープのやつが、あんたには絶対逆らうなって言うんだ」
「お頭は物事の道理を知ってるよねえ」
あれ、お頭以外の山賊達が小バカにした目で見てくるんだが。
見ただけであたしの実力を理解できない程度の連中ってことか。
めんどいなあ。
悪魔連れなのを見て納得しろ。
「スイープが大したやつだってことは知ってる」
「うん、お頭はなかなか。将来はガータンで結構重要な役を任せられると思う」
お頭照れてるけど、もちろんあたしに人事権なんてない。
でもヘルムート君もお頭のことは結構評価してたみたいだから。
「あんたの家来の精霊が、村を丸ごと更地にするような魔法を使えると聞いた」
「ボコッと抉れちゃうから、更地ってのが正しいかどうがわかんないけど」
「話半分としてもまあまあの魔法なんだろう。しかしあんた自身の実力がわからねえ」
「え? あたしを疑ってるのかよ。神をも恐れぬ所業だな」
わかっちゃいたけど。
「あんたは自分の技を示せるのかい? 家来がいなきゃ何もできないのかい?」
「煽るなあ。最近あたしに無礼な態度取る人いないから新鮮だわ」
お頭がハラハラしてる。
でもあたしは寛大だから、これくらいのことじゃ怒らないぞ?
しかし技を示せか。
技って言われると、あたしは『雑魚は往ね』が十八番なんだけど。
あんたらみたいな木っ端者達にはちょうどいいだろうし。
「でもあたし、蘇生魔法使えないからな……」
「え? 蘇生魔法?」
「技じゃなくて芸でもいい?」
「げ、芸だ?」
「あたしのエンタメに懸ける精神と情熱と実力が、一目で理解できると思うよ」
ヘルムート君以外わかってなさそうだけど、別にいいですよ。
百聞は一見に如かず。
「えーと、あんたとあんたとあんた、手伝ってくれる?」
「別に構わねえが……」
煽り男を含んだ三人が顔を見合わせる。
「俺達は何の基準で選ばれたんだ?」
「体格が大体一緒だから。重さが違うとやりにくいんだよね」
「「「は?」」」
秘技・人間お手玉!
「ええええええええ?」
「どおおおおおおお!」
「きゃああああああ!」
「な、何だこれは!」
皆さんビックリしてるわ。
放り投げるところまではハイレベル女子の常識だけど、人間は丸くないからお手玉は結構難しいのだ。
「パスカル君は見るの初めてだったかな? 人間お手玉だよ。割とウケる芸なんだけど、玉から愉快な声が出ちゃうんだよね。やかましいから、朝向きではないかもしれない」
煽り玉が焦ったような声を出す。
「おい、降ろしてくれよ!」
「あたしのエンターテインメント力がわかったかな?」
「わかったから!」
「んー聞こえないぞー?」
「「「よくわかりました!」」」
三人を降ろしてやる。
「お粗末でした。お気に召していただけたでしょうか?」
「召すか!」
「それはお気に召すまで玉になるというフリだな?」
違うらしい。
すげえ勢いで煽り男が横に首を振る。
首がちぎれるぞ?




