第1316話:かわいそーなラグランド
「ひ、姫様の身だけは守らねば……」
「逆に言えば、独立させろと税金安くしろ以外の要求だったら、認めさせられるかもしれないってことだよ」
「「「えっ?」」」
「リリウオさん、何かない?」
「なくもない、です」
ふむ、この内政担当の男は現実が見えている。
じゃあラグランド側から出す要求はリリウオにお任せしとけば、何か考えるだろ。
「帝国に任命されてるラグランド総督ってどんな人?」
「能吏ですな」
「能吏かー。いーなー」
独立前のドーラ総督なんてお飾りだったって話だぞ?
能吏が派遣されるなら、ラグランドは重要な植民地ということだ。
「総督を何とかしたいね」
「処刑せよということか?」
「バカなことゆーな。対話のチャンネルが減っちゃうだろーが」
武力じゃどないもならんのだ。
口先で要求通さないと。
「総督を懐柔しよう。そして泣きつけ」
「弱みを見せるのか?」
「情報が筒抜けになってしまうだろうが!」
「少々は構わないぞ? ラグランドの食料が不足するっていう弱点は、他でカバーできないくらい大きいんだから」
全員が鼻白む。
食糧問題が五日間でどうにかなるわけないだろーが。
じゃあ搦め手から勝負せざるを得ない。
「ラグランドの強みを生かそう」
「強み? 強みがあるのかの?」
「ビックリするくらい優秀なスパイ情報網があるじゃん」
「破壊工作をさせよということか? 帝国本土各地で普通に生活しておる一般人じゃから、荒っぽい活動には向かぬぞ?」
「過激だなー。あたしは平和主義者だぞ? ゴリ押しはしない」
うちの子達がゴリ押しは得意技だみたいな顔してるけど、丁重に無視する。
このオードリーって姫様は年齢の割にえらくしっかりしてるな。
しかしそれ以上にアグレッシブな気がする。
誰の影響だ?
「で、次期皇帝争いで候補者同士が牽制し合ってるってのは、明確に向こうの弱み」
「ふむ、わからん。説明せい」
「ラグランドは穀物輸入してる代わりに、かなりの嗜好品を輸出してるって聞いたけど、合ってるかな?」
「その通りです。特にカカオ、コーヒーや一部香辛料、熱帯フルーツは特産ですな」
「今の帝国の政権を握ってるのは誰か知ってる?」
「主席執政官ドミティウス皇子ですね。次期皇帝の最有力候補とか」
「そうそう。ラグランドが蜂起すると嗜好品の物価は当然上がっちゃう。これは帝国市民の不満を招くから、政権の支持率低下を招きかねない。主席執政官閣下は、次期皇帝への道に暗雲が漂うと考える」
「……ということはつまり、帝国の今の政権はなるべく素早く、かつ穏便にことを収めたい?」
「ピンポーン。交渉の余地がありそうでしょ?」
ヒャクダラがめんどくさそうに言う。
「交渉は交渉でいいけどよ。こっちの力も見せてやればいいんじゃねえか?」
「おいこら、ちょっと待て! 交渉できるのは、向こうに話し合いの方が得だと思わせてる間だけだぞ? 武力行使して間違って緒戦に勝ったりでもしようものなら、帝国のヘイトを買っちゃう。損得度外視で総力戦になると絶対に勝てないんだってば。ラグランドは放っておかれるだけで飢えちゃうんだから」
「どうすりゃいいんだよ!」
「力を見せたいなら、武力じゃなくて演技力を見せりゃいい」
「は? 演技力?」
おわかりでないようだ。
「かわいそーなラグランドの民は、帝国の圧政に耐えかねて蜂起しました。でも食料がなくて飢え死にしそーです。助けて下さいってアピールする」
「みっともない!」
「恥を晒せというのか!」
「さらに窮状を帝国国内のスパイ網を使って拡散する」
「「「えっ?」」」
「帝国市民に同情されたら勝ちだな。こっちが悲惨にやられるほど、憐れんでもらえて帝国政権がダメージ食うんだから。そーゆー戦いに持っていこうよ」
リリウオが感心する。
「なるほど。これがミラクルフィフティーンユーラシアですか。ドーラを独立に導いたというのもよくわかりました」
ドーラの独立はあたしだけの働きじゃないけどな。
ドーラには頭に『パ』がつく、あたしなんかよりよっぽど悪いやつがいるのだ。
「姫様。正直私は蜂起に否定的でしたが、ユーラシア殿のやり方でしたら目的を達成できるかもしれません」
「オレもそう思う」
「おお、ジャブラニ殿」
「お前らに誇りはないのか!」
ヒャクダラは沸点低いなー。
「おいユーラシア! お前は物乞いみたいな惨めなやり方に耐えられるのかよ」
「耐えられるわけないだろ。あたしはストレスのかかるやり方はごめんだわ」
「な……!」
「あたしは指導者じゃないから自分のやりたいようにやるけど、あんたらは違うじゃん」
「……指導者?」
「他人の命に対して責任のある指導者でしょ。自分のちっぽけなプライドより優先するべきものがある指導者」
「……指導者ね」
納得いただけましたか?
自分が何より大切な人命を背負っているということを。
「じゃ、基本は軍じゃなくて帝国民を相手にする方向で。あたしはツェーザル中将と話してくるよ」
「ツェーザル中将? 帝国軍の? 何でだ?」
「ラグランドが情報戦にしたくても、帝国軍が怒り狂って暴発したら水の泡じゃん。中将は上の命令に忠実だし、軍に抑えが利くし、理屈も通じるからさ。協力してもらおうよ。今ソロモコからの帰還途中で話しやすいの」
「確かにツェーザル提督は帝国軍実戦部隊で最も重きをなしている将軍だが、敵をも利用しようという発想が……」
「敵じゃないって。置かれてる立場が違うだけ」
中将も優秀な男だぞ?
ラグランド蜂起を大事にしないことは帝国にとって利益なのだとゆーことを、絶対に理解してくれる。
オードリーが握手してくる。
「ユーラシア、今日は楽しかったぞ!」
「あんたは子供のクセに、こんなのが楽しいのかよ。皆が幸せで国がどんどん発展していくのを見るのはもっと楽しいんだぞ?」
「そうじゃな!」
オードリーも生意気で過激だが真っ直ぐな子だ。
「状況が変わったら、また来るよ」
「うむ、また来い」
「じゃーねー。ヴィルはツェーザル中将探してくれる? ソロモコから帝国へ帰る航路上の三艦からなる艦隊で、一番レベル高い人だよ」
「わかったぬ!」
転移の玉を起動し、うちの子達を連れて一旦帰宅する。
わかってたけどクエスト終了のアナウンスはないな。
まだ続きがあるからだろう。




