第1310話:あなたのピンチにあたし参上!
フイィィーンシュパパパッ。
ソロモコのクエストを片付けたばかりなのに、新しく出た転送先ラグランドに来てしまった。
いや、今月半ばにも蜂起が起きるって話だから気になるじゃん。
好奇心は乙女の最高の付属属性。
「ここがラグランドか。皆に印象を聞こうじゃないか」
「緑が多いですね」
「湿度が高いでやすぜ」
「ベリーホットね」
うん、蒸し暑い。
ソロモコも気温は高いんだけど風が心地良かった。
ラグランドは蒸し暑い。
森の中に切り開かれた道なのだが、あんまり空気が通らないのかな。
ただ蒸し暑い。
問答無用で蒸し暑い。
「森の様相もドーラと随分異なりますねえ。植物の種類も多いです」
「とゆーことは、草食獣も多いかな?」
「美味いからでやすね?」
「気になっちゃうよねえ。でもラグランドは食料危機になりそうなんだっけ? じゃああんまり狩っちゃうと迷惑かな」
ダンテがフーって顔してるよ。
仕方ないだろ。
お肉はラブでピースなんだから。
ま、お肉についての建設的な議論はさておき。
早めにラグランドに来てみたのは、ツェーザル中将への土産話になるかなと思ったからだ。
かなりラグランドについて気にしてたっぽいしな。
しかし住民に会ってみないと話にならん。
『きゃあああああ!』
「突然、女性の絹を裂くような悲鳴が聞こえてきたのでした」
「姐御、落ち着いてる場合じゃないでやすぜ!」
「ヘルプが先ね!」
「クララ、お願い」
「はい、フライ!」
びゅーんと悲鳴のした方へ飛ぶ。
あ、魔物に襲われてる!
住民に会いたいという目的からするとラッキー。
「あなたのピンチにあたし参上! リフレッシュ! もう大丈夫だぞー」
フワリと着地する。
お姉さんを齧ってた魔物は、助っ人が現れたと見るや素早く距離を取り、こっちを威嚇してくる。
うーん……。
お姉さんに聞いとこ。
「あの魔物は退治しちゃって問題ないのかな?」
「ど、どういう意味ですか?」
「倒してから、大切な神獣だぞどうしてくれる、とか言われても困っちゃうし」
ユー様おいしそうじゃない肉食魔獣だからやる気なくしてますよね、っていう目でクララが見てくるけど、まことにその通り。
うまそーかまずそーかはモチベーションに影響する。
露骨にだ。
「えっ? 神獣なんてことはありません。ジャングルジャガーは危険な魔物です!」
「やっつけちゃっていい?」
「可能でしたらお願いします!」
「ほい」
パワーカードを起動し一閃、大型のネコに似た魔物の首を刎ねる。
「……えっ?」
「人が住んでる近くにあんな魔物がいるのは危ないなあ」
マッドオーロックスくらいの強さはあるんじゃないの?
ヒットポイントは少なめだけど、肉食魔獣は敏捷で獰猛なんだよな。
「普段は魔物など出ない道なのですが……えっ?」
「何の疑問形だ。あのでっかいネコの亡骸はいる? 毛皮とか使う?」
「はい。毛皮も爪も牙も有用です。肉も滋養強壮作用があると信じられていて、珍重されます」
「じゃあ血抜きして持っていこうか。お姉さんの住んでる集落はどっちかな?」
「向こうです……って、えっ?」
「その『えっ?』てのは口癖なん?」
さっきから何なの?
もっとあたしの美しさか可憐さを賛美しろ。
「あの狂暴なジャングルジャガーの首が、一瞬で飛んだようですが」
「あたし達は冒険者なんだ。魔物退治はお手のもの」
「冒険者? 戦士とか狩人ではなくて?」
「ラグランドには冒険者がいないのかな? 魔物退治以外にも、護衛とかアイテム採取とかを請け負う何でも屋だよ。ドーラには多いんだ」
ドーラって言ったって知らないか。
海の向こうだもんな。
「ドーラ? というと、昨年末に憎っくきカル帝国から独立したという?」
「そうそう。でも憎っくきって。帝国恨まれてるなあ」
このお姉さんドーラを知っとるがな。
あたしアリスに言われるまでラグランドを知らなかったのに。
「ドーラ人がどうしてラグランドへ……ひょっとして『アトラスの冒険者』?」
「よく知ってるね」
「『アトラスの冒険者』……そちらは精霊ですか? となると、まさかミラクルフィフティーンユーラシア? ドーラ独立の旗手だという?」
「まいったなー。あたしラグランドでも有名人? 先月一六歳になったけど」
「ほ、本物に会えるなんて……」
へたり込むお姉さん。
どゆこと?
『アトラスの冒険者』や精霊を知ってる上に、何であたしの関知してないところで『ミラクルフィフティーン』の二つ名がついてるのよ?
一六歳だって訂正するのががめんどいだろーが。
「ぜひ、村へ来てください! 案内します!」
釈然としないまま村へ。
◇
「村の者を助けていただき、感謝の言葉もありません。それであの、あなたがかの有名な美少女精霊使いユーラシア殿だとか……」
「かの有名な美少女精霊使いユーラシアに間違いないよ」
「「「「「「「「うおおおお!」」」」」」」」
村長さんはじめ、メッチャたくさんの人があたしを尊敬の目で見てるんだが?
「『アトラスの冒険者』のクエストでラグランドが出たんだ。これから時々来ると思うけどよろしくね」
「「「「「「「「うおおおお!」」」」」」」」
何なんだ一体。
すげー気分がいいじゃないか。
「どうして歓迎されるのかな? あたし今までラグランドに関わったことないはずだけど」
「ラグランドに希望を与えたからですぞ!」
「あんた、帝国の空飛ぶ軍艦をぶっ壊して、ドーラの独立を確定させたんだろう?」
「何で知ってるのよ。飛空艇に関することは帝国でも内緒みたいだぞ?」
全員が全員したり顔なんだが。
村長が言う。
「スパイが情報をもたらしてくれますのでな。ラグランドは帝国からの独立を目指しておるのです。ドーラのような人口の少ない国が帝国を完封したのは、近頃にない胸のすく事件でしたぞ」
「なるほど、そーゆーことだったか」
とするとラグランドクエストの内容は、独立の手伝いだったりする?
えーまた帝国と揉めるのかよ。
マジで勘弁して欲しい。
「今日は様子見に来ただけなんだ。明日の午前中にまた来るね」
「では都から関係者を呼び寄せておきます」
都が近いんだ?
すぐ隣だったか。
「うん、ありがとう。明日よろしく」
転移の玉を起動し帰宅する。
これはあたし一人の手に余る案件だわ。
都の状況がわかったら、ツェーザル中将に相談しにいこ。




