第1301話:神様くらいまでは大丈夫
「どうだった?」
「どうだぬ?」
帰宅後、ケスに感想を聞く。
あんまりヴィルが面白いからぎゅっとしてやる。
「気疲れした。スキルスクロールに関係する話なんて、あんまりなかったじゃないか」
「まあ。ただケスにああいう雰囲気を体験して欲しかったんだよね」
「姐さん、どういうことだ?」
真剣に見つめてくるケス。
なりは大きいけれども、まだ子供だ。
「ケスは同い年の他の子に比べるといろんな経験をしてると思うよ。輸送隊にしても商売にしても。ケスは商売人になりたいんでしょ?」
「ああ」
「商売って商品とおゼゼのやり取りするだけじゃないんだよ。情報と信用がすごく大事なの。それを知ってもらいたかった」
「……」
黙りこむケス。
今日は口外できない話もあったからな。
「ぶっちゃけでっかい商売して大儲けしたいと思うじゃん?」
「商売の醍醐味だ」
醍醐味って言葉はいいねえ。
何でもかんでも醍醐味のところだけ味わいたいとゆー乙女心。
「当然でっかい商売ができるほどおゼゼを持ってる人は、重要人物に決まってる」
「わかる」
「ケスだって今後取り引きが大きくなっていくと、相手も重要な人になっていくよ。徐々に大きな秘密に関わることも多くなっていく」
「……ああ」
「情報をどう活用するか、いつ喋るべきかってのは大事な選択だよ。今日ケスが聞いたことはアレクとハヤテには話しちゃっていいし、灰の民族長サイナスさんは知ってることも多いんだ」
「そうなのか?」
「うん。時間が経てば秘密でも何でもなくなっちゃう情報も多いね。ケスが今日聞いた秘密はその類」
次期皇帝についても帝国の軍事行動についてもだ。
今年の年末には単なる面白話のネタになってそう。
「ハーブティー入りましたよ」
クララの声だ。
あたしん家の中へ。
「いい香りがする。美味い」
「でしょ?」
タイムの新芽を使ったハーブティーだ。
あたしも好き。
少し砂糖も入れている。
「魔境で取ってきたハーブでやすぜ」
「ベリーナイススメルね」
「じーさんが好きかもしれねえ」
白の民族長ルカさんか。
お世話になってるから恩返ししたいのかもな。
「雑草みたいなもんだから、栽培は難しくないよ。少し持っていく? ねえクララ、今でも挿し木すれば根付くかな?」
「ちょっと温度が厳しいですね。二ヶ月後なら簡単だと思います」
「だって。二ヶ月後楽しみにしてなよ」
ケス嬉しそう。
「あたしタイムの香り好きだな。一番好きなハーブかも」
「ユー様にピッタリのハーブですよ」
「そお?」
「タイムは帝国で勇敢な騎士のハーブと言われているのです」
「ええ? イメージ違う! 清らかな聖女のハーブにしてよ」
おいこら、笑う場面じゃないだろ。
ケスが言う。
「今日は……うん、貴重な経験だったと思う」
「もう一人で注文取りに行ける?」
「まだムリだ」
「そーか。今度行く時は付き合ってあげるよ」
こういうのは場数だからな。
あ、でも盾の魔法のスクロールの納品は輸送隊がやるのか。
じゃあ輸送隊で行政府に来る機会はあるだろ。
「姐御、玄関から入ってないんで、要領がわからないんでやすぜ」
「なるほど、あたしが悪かった。じゃ、次は玄関からだな」
転移で直接行政府にお邪魔したんだった。
でもバカ正直に訪問すると、イシュトバーンさんと新聞記者ズがもれなくついて来ちゃうんだよな。
「姐さんは行政府でいつもあんな感じなのか?」
「そうそう。大体お昼直前にお邪魔して、昼御飯ごちそーになってる。だからレストランドーラ行政府って呼んでるの」
おいこら、ここは笑う場面だぞ?
真面目な顔すんな。
「姐さんはすげえ」
「自分でもよく知ってるとゆーのに」
笑うケス。
笑いのタイミングがズレてると不安になるわ。
何だってゆーんだまったく。
「今日なんか偉い人ばっかりだった。外国の大使とか、レイノスの知事とか。海を渡る商人までいた。おいら、あんな人達と対等に話せる気がしないんだ」
「最初はしょうがないよ。あたしだって初めは縮こまってたわ」
「ボスが縮こまってるところなんてルックしたことないね。イマジンすらキャンノットね」
「キャンノットだぬ!」
「確かに今まであんまり緊張する機会はなかったかもしれないけど、あたしだってマジで偉い人に会ったらド緊張するはずだわ。今まで会ったことがないだけだわ」
「ちなみにユー様はどれくらいの人に会ったらド緊張するんですか?」
「どーだろ? 神様くらいまでは大丈夫だと思う」
夢の中で会った薄着の国のたわわ姫を思い出す。
女神っていう設定だったけど、あんな神様だったら緊張する余地がないわ。
むしろおっぱいさんと話す時の方が緊張するな?
「まーアレクケスハヤテのトリオだと、交渉や営業はケスの役回りになるんだわ」
「うん、わかってる」
「ケスはひとかどの者になるんじゃないかな。イシュトバーンさんに雰囲気似てるんだよね。いい商人になるんじゃないかと思う」
「そ、そうか?」
「そーだそーだ。期待してるんだぞ? あたしの見る目がないなんて誰かに言わせたら許さないからな?」
嬉しそうなケス。
ちょっと前まではイタズラ小僧だったかもしれないけど、今や白の民の子供達にとってはヒーローなんだぞ?
アレクケスハヤテは揃ってレベル三〇オーバー。
アレクには魔道を含む膨大な知識があり、それが実地に生かされつつある。
ハヤテは転移のできる精霊で、人間とあまり喋れないハンデはあるけど、広範なエリアをカバーできる。
ケスはこれからの成長の余地が大きいが、年齢の割に立派な体格と豊富な経験、イタズラが育んだ機転、確固とした強い意志を持っている。
実に非凡な三人組じゃないか。
あたしじゃなくたって期待するわ。
「自分でわかってるでしょ。半年前のあんたは落とし穴掘ってるだけだったけど、今のあんたは自分の道を進み始めてる」
「ああ。姐さん、あありがとう」
「おいこら、いいとこで噛むんじゃないよ。せっかくあたしが賛美されるシーンが台無しじゃないか。やり直しを要求する!」
「やり直しを要求するぬ!」
アハハと笑い合う。
「おいらは帰るよ。姐さんはこれからどうするんだ?」
「時間が余ったから魔境行こうかな。じゃねー」
「バイバイぬ!」
手を振りながら去るケス。
背中が一回り大きくなった気がするよ。
楽しみだね。




