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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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1302/2453

第1302話:明日はユーラシア劇場を初披露

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。


「今日の午後はよかったなー。魔境でまったりと過ごす時間は、心を洗われるようだったよ」

『昨日も同じこと言ってたじゃないか』

「そーだったっけ?」

『記憶力の欠如?』

「あたしの現実がひっじょーに優雅だからだな」


 あたしの確かな記憶力によると、ここまで昨晩のサイナスさんとのやり取りを微妙になぞっている。

 こういうのも繰り返しギャグの一種だろうか?

 いや、すれ違いのギャグかな?


『御苦労だったね。スキルスクロールの注文がたくさん入ったらしいじゃないか。ケスが喜んでいたぞ』

「ラッキーだったね。正直盾の魔法はあんまり売れるもんじゃないと思ってたけど、商人さんが気に入ってくれたんだ。軍にも騎士にも一般にも、かなりの需要を見込めるって。商売繁盛ありがたや」

『いや、注文もそうだが……』

「わかってるって。あたしの働きに対して形で報いたいってことだね?」

『久しぶりのフレーズで懐かしさに浸りそうになるが、実はえぐい』


 そのえぐさ、形にならない? と言いたくなってしまう。


『たった一日でケスがすごく成長したように見える』

「うん、いい経験をさせてあげられたと思う。男の子の成長を愛でる聖女の慈悲だね」

『ユーラシアは面倒見がいいなあ』

「いつか形になって帰ってくるんじゃないかなあ?」

『そういうこと言わなきゃいいのに』

「ええ? あたしだってアピールしたいんだもん。言いたいこと言うのがあたしなんだもん」

『聖女らしさがなくなる』

「由々しき問題だね。早急な改善の善処の検討がなんじゃもんじゃ」

『最後まで頑張りなよ。眠くなったのか?』


 時間が時間だからね。

 しかし聖女らしくないと言われると、あたしのエンターテインメントの大半が封じられてしまうことに気付いた。

 何とかせねば。


「明日ソロモコに帝国艦隊が来るんだよね。多分朝から出張ってきて、ソロモコの住民よ恐れ入るがよいってやってくるはず。だからあたしも早起きしなきゃならないの」

『早く言ってくれよ』

「っていうのはただの言い訳だから、気にしなくていいよ」

『どうしたんだ? 今日はやけに軽口の密度が高いじゃないか』


 軽口の密度とは何ぞや?

 聖女っぽさと関係あるかな?


「明日はユーラシア劇場を帝国海軍の皆さんに初披露するじゃん? さすがのあたしも気が高ぶってるのかも」

『ユーラシア劇場なのな?』

「結構な大仕掛けなのにウケなかったらどうしよう。ドキドキするわー」

『心配の仕方がいかにもユーラシアだなあ』

「エンタメ重視は譲れないポイントだね」

『どんな筋書きなんだい?』


 何だかんだでワクワクしてるサイナスさん。


「ダンテが究極魔法を空に向かって撃つでしょ? ビビらせたところで白旗振って乗り込んで、交渉してお帰りいただく」

『……大雑把過ぎないか?』

「んー? でも助演俳優達がどーゆーアドリブ入れてくるかわからんのだもん。あんまり細かい筋書きを考えていても意味がないとゆーか」

『主演女優の匙加減次第なんだろう?』

「助演俳優がとんでもなく大根だったりすると、主演女優の演技力だけじゃカバーしきれないんだよ」


 ツェーザル中将の人物は、この前施政館で会った時に大体理解した。

 きちっと役をこなしてくれるに違いない。

 中将の部下はわかんないんだよな。

 いいキャラの人がいることを祈ろう。

 当日のお楽しみともいう。


「午前中で決着つけて行政府に報告しに行くでしょ? その時にお昼御飯食べさせてくれると最高だな」

『舐め過ぎてないか? 普通予定通りには終わらないだろう?』

「いや、もう落としどころは決まってるから、交渉を長引かせる意味はないの」


 交渉を長引かせて、艦隊がソロモコに釘付けになること自体が帝国にとって損なのだ。

 だってラグランドで蜂起が起きるんだから。

 ツェーザル中将なら理解できるはずだ。

 あたしは魔王に関わりのあるソロモコの特殊なポジションを教えて、退きやすい条件を提示してやるだけでいい。

 聖女の寛容さの見せどころとも言う。


「でも重大な問題があるんだ」

『何だい? エンタメの香りが漂っている気がするけれども』

「今日も行政府でごちそーになったんだよ。明日も今日と同じ店からの出前だと、いくらおいしくても損した気分になっちゃう。サイナスさん、どう思う?」

『知らないよ』

「つれないなー」


 あたしの関われない部分だしなあ。

 食事を手配するであろうアドルフのセンスに期待する。


『スキルスクロールはどういう条件になったんだい?』

「盾の魔法はドーラでの小売価格が三〇〇〇ゴールドなんだ。だから一本二七〇〇ゴールドで一〇〇〇本を上限にできるだけってことにした」

『細かい利益の配分は?』

「しまったな、そこ決めてなかった。スキル開発者であるペペさんところへ、小売価格の二割にしたいんだ」

『六〇〇ゴールドだな? しかし空のスクロール代印刷代は固定なんだろう?』

「今はその予定だね」

『高価なスキルスクロールでも実際に製作する職人の取り分が固定じゃ、不満が高まるんじゃないか?』

「だよねえ。困ったな」


 輸送費は販売価格に比例だからいいとして、スクロールの製造価格が上がっちゃうと、安いの作れなくなっちゃうしな?

 かといって職人が不満だと製品横流しされそう。


「ま、一番安い一〇〇〇ゴールドのスクロールを基準に、最低製造価格を決めておこう。高額のスクロールの時は、職人さんにボーナスを出すって方式が無難かな。アレクは何か言ってた?」

『特に何も』


 まだ考えてなかったんだろうな。

 実際に注文が入るかもわからなかったし。


「明日の午後か明後日か、とにかく早い内にカラーズへ行くよ。世界樹の供給どうするかとか密売は許さんとかの問題もあるし」

『わかった。アレク達にはそう伝えておく』


 輸送費なしでカラーズで販売する場合も取り決めが必要だな。

 厳格な販売を行う魔法屋をカラーズ全村で作るべきかな?


「さあ、張り切って寝ようかな」

『ハハハ。何だそれ?』

「明日が楽しいイベントになりますようにってことだよ。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日はソロモコ。

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