第1291話:津波漁の現場で魚を調達
「ユーラシアちゃん家は、素敵なところにあるのねえ」
「でしょ? 海も近いんだ」
「あっ、『デトネートストライク』津波漁の現場?」
「恐怖の津波事件の現場だとゆーのに」
アハハと笑い合う。
ペペさんをあたしん家に連れてきた。
以前中継で少し寄ったことはあったけれども、のほほんと話するのは初めてだな。
今日は春の日差しが気持ちいい。
「さて、これを持ってと……」
「それは? 随分重そうな台ね」
「亜人の遺跡で見つけた黒妖石の台だよ。魔力を溜められる性質があるんだ」
「ふうん。何かに使うの?」
「この前のペペさんの話だと、スクロール紙はある程度の濃度の魔力に浸されてないといけないみたいじゃん?」
「ああ、スキルスクロールの量産に使用するのね? 魔力を持った台の上で作業をすれば、自然に条件が整うってこと?」
「そゆこと。ペペさんは最初手伝ってさえくれれば、魔法の制作権利料がずっともらえちゃう寸法だよ」
「素晴らしいわねえ。今の水魔法の外注とどう違うの?」
うむ、ここはペペさんにぜひ理解してもらわないといけないところだ。
「ペペさんはさ、『アトラスの冒険者』を統括してる異世界について何を知ってるかな?」
「ほとんど何も知らないわ。異世界だって教えてもらったのもユーラシアちゃんからだもの」
「やっぱそーだったか。あたしはチュートリアルルームの係員と仲良くなってるから、ある程度聞き知ってるよ? でも基本的に向こうの世界が情報をこっちに流したり、交流持ったりすることはいけないことみたいなんだ。今は背に腹を代えられなくて『アクアクリエイト』のスクロールを異世界に外注出してるけど、いつまでもこんなことはダメだな。向こうのお偉いさんからストップがかかって、外注受けてもらえなくなる可能性は十分にある」
「困るわ。一大事ねえ」
「何が痛いって、商売は信用問題じゃん? 帝国から注文受けてるのに納められませんでしたじゃ、ドーラの信用がなくなっちゃう。ドーラでの量産体制を早めに整えなきゃね」
「ユーラシアちゃんはすごいのねえ」
感心されてるけど、本当にすごいのはペペさんみたいな天才だからな?
天才を生かすのは周りの仕事だ。
「まずこの前の盾の魔法からドーラで作ろうと思うんだ。水魔法ほど数は出ないだろうから、試運転にはちょうどいいでしょ」
「そうねえ」
「ドーラでの小売価格の二割くらいが、ペペさんとこ行くようにしたいの」
「えっ? 盾の魔法『ファストシールド』は三〇〇〇ゴールドだから、一本売れたら六〇〇ゴールドももらえちゃうの? 何もしなくても?」
「何もしてないことはないよ。魔法作るって大変なことじゃん。なのにペペさんが金銭的に報われないってのは、あたしが納得いかないわ」
「ユーラシアちゃん……」
ケイオスワードを組み立てて、大して時間もかからず一般的な魔法を作ってしまうなどというのは異常だ。
世界中探してもペペさんにしかできないことのような気がしてきた。
何人かで時間をかけたプロジェクトならば帝国の宮廷魔道士でもできるのだろう。
でも手軽に試し撃ちできるのは、レベルカンストの魔力持ちでかつ魔境に住んでいるペペさんの特権だからな。
そんな世界でも唯一であろう天才魔道士が金策に苦労するなんてのは、どう考えても間違ってる。
ペペさんが成功者になってくれないと、スキル研究者の後進だって育たない。
つまりスキルの進歩が遅くなってしまう。
これは大変よろしくない事態だ。
ん? ダンテどうした?
気になることがある?
「ペペさん、うちのダンテが知りたいんだって。使い捨ての魔法やバトルスキルはできないのかって」
「スキルスクロールを使って、一回限り効果を及ぼすスキルということ? もちろん可能よ」
「あ、できるんだ」
「昔はあったらしいけど、今は廃れちゃった」
「何で?」
大きな魔法を切り札的に使えるのは、いざという時のためにあっていい気もするが?
「大きな魔法はムリなのよ。必要な魔力をスクロールに封じることができないから」
「そーかー」
言われてみればもっともだな。
『デトネートストライク』の発動に必要なコストをちっちゃなスクロールに込めろなんて、不可能に決まってる。
「スキル習得でも発動でも、製作者側からすると材料も手間も同じなんだから、価格も同じだわ。だったら習得の方が得でしょう? 何度も使えるのだし」
「当たり前のことだったわ。魔法を覚えるのか使いきりなのかどっちか選べって言われたら、覚える方がロマンだわ」
「あはは!」
『ファイアーボール』一発撃つのに一〇〇〇ゴールド、覚えるのに一〇〇〇ゴールドだったら、覚えるに決まってるわ。
考える余地もないわ。
「ごく小さい効果のものは、お札として流通しているわね。逃走とか逃げ封じとか? わざわざ高価なスクロールにする意味もないし」
塔の村の脱出の札や『ザガムムのお守り』もその類か。
ふむ、お札かスクロールかの違いなんてのはこの際考えなくてもいいな。
緊急避難に必要で誰でも使えるものならば売れる。
マジックポイントが切れた時や沈黙食らった時用に。
随分と条件が限定的だな。
マジックウォーターや万能薬で用が足りそう。
用途が特殊で普通の人じゃ覚えられないスキルも需要あるかもしれない。
売れそーなアイデアはパッと思いつかないけど、一応覚えとこ。
「何かで使えるかもしれないってのはわかった。ペペさんありがとう」
「そう? よかった」
「いずれ協力してもらうかもしれない。その時はよろしくね」
「うん、わかったあ」
ペペさんの笑顔は無邪気で可愛い。
これで(自主規制)歳だっていうんだから、世の中何かがおかしい。
「さて、行こうか。ペペさん、焼き魚って食べたことある?」
「焼いた魚? フライじゃなくて? ないわ」
「家でフライって面倒じゃん? 油もたくさん使うし。うちではよく焼き魚にするんだ」
「私も食べてみたいわ」
「新鮮な魚だと実に美味いんだよ。お昼に食べよう」
「ありがとう!」
アトムとダンテに目で合図する。
わかってるね?
JYパークでお弁当は買ってくるけど、ペペさんはそれだけじゃ足りっこないから、海で魚を調達しておくんだよ?
「えーと、荷物は持った。クララ、お願い」
「はい、フライ!」
びゅーんと灰の民の村へ。




