第1290話:ポーラ
フイィィーンシュパパパッ。
「おはよう、チャーミングなユーラシアさん」
「おっはよー、ポロックさん」
「おはよーございまつ!」
大男であるポロックさんの足元から声がして虚を突かれる。
あ、この子確か……。
「ポロックさんの娘さんだね」
「はいでつ。ポーラといいまつ」
「ひょっとしてお母さんの名前はローラさん?」
「そうでつ」
ポロックとローラでポーラか。
わかりやすい名付けだった。
ハハッ、母ちゃんの名前はノーラでもサーラでもなかったわ。
一発で当てるあたしすごい。
ポーラの姿を見るのは去年のフィッシュフライフェス以来か。
あの時はポロックさんに肩車されてたな。
いかにも弱々しい感じで、大丈夫かと思ったものだったが……。
「すごく元気になったねえ」
「ユーラシアお姉さんのおかげだよ」
「ありがとうございまつ!」
「元気を持て余していてね。これからは時々ギルドに連れてこようと思うんだ」
「そーだったかー。遊んであげたいけど、今日ダメなんだよな。あっ、子守りにちょうどいいのが来た!」
玄関からツンツン頭の冒険者ダンが入って来た。
ポーラを見るなり言う。
「どこで拾った?」
「違わい。妹分だわ」
「ハハッ、段々妹分が増えて行くのな。どら」
ダンがポーラを抱っこする。
あれっ、子供好きなのかな?
そーいやいつもヴィルを構ってくれてるか。
「俺はダンだ。よろしくな」
「ポーラでつ。よろしくでつ」
「ポロックさんの娘さんだよ」
「ああ、凄草で元気になったっていう?」
「そうそう。これから時々ギルドに来るって言うから、遊んでやってよ」
「おう。ポロックさん、おめでとうってことでいいのかい?」
「えっ?」
ポロックさんが嬉しそうに頷く。
何ぞ?
「要するに、奥さんのお腹に二人目がいるから、負担を減らすためにお転婆長女をギルドに連れてくるってことなんだろ?」
「その通りです」
「ダン、やるなあ。微妙に見直したよ」
「盛大に見直せ」
笑いながらギルド内部へ。
ポロックさん家に二人目ってのは気付かなかったわ。
ダンは案外細かいところまで気の回る男。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
お店ゾーンに入ったところでヴィルが飛びついてくる。
おや、ポーラ。
ヴィルに興味津々ですね?
ダンが解説する。
「あれはユーラシアんとこの悪魔だ。可愛いだろ」
「可愛いでつね」
「ヴィル、ポロックさんの娘ポーラだよ。時々ギルドに来るって言うから、遊んであげてね」
「わかったぬ! よろしくだぬ!」
二人が並んで握手している。
ポーラも嬉しそう。
ヴィルの方がまだちょっと背が高いけど、すぐに追い抜きそうだな。
「この二人が並んでるとすげー可愛いな」
「ん? あんたも可愛いぞ」
「それは世界の常識だけれども」
「常識なんだぬ!」
ダンが笑いながら言う。
「ハハッ。ところで新ネタはないのか?」
「新ネタ? あるけど、ここ天井が低いんだよなー」
「はん?」
あ、新ネタって新しい芸ってことじゃなくて、話の方か。
人間お手玉を披露できないのは、ちょびっと残念だけれども。
ヴィルとポーラがキャッキャ騒いでる中、声を落として話す。
「ダンはどこまで知ってるんだっけ? ドーラの東に魔王の絡んでるソロモコってとこがあって、帝国が攻めてくる。明後日」
「おう、あんたのメインの石板クエストだろ? 聞いてるが、明後日なのかよ」
「予定通りではあるんだ。亡くなった第一皇子の一ヶ月の喪が明けたらすぐだろうってことだったから。
ダンの表情が険しくなる。
「大丈夫なのかよ? 帝国の侵攻を許すとえらいことになるんだろ?」
「許せばね。まあでも特に問題はないよ。この件については帝国よりあたしの方の情報量が多いし。どうすれば帝国の皆さんに喜んでいただけるかなーってだけ」
「ハハッ、エンターテインメント気分じゃねえか」
「エンターテインメントだね。離島リゾート美少女劇場はウケるかなあ?」
「あんたが言うなら心配いらねえんだろうが」
考えるような顔をするダン。
似合わねえ。
「すると帝国トップの第二皇子はどうなるんだ? 遠征失敗は響くんだろ?」
「響くんだろうねえ。けど、どの程度政権を揺るがせられるかはわかんないな」
とゆーかこのソロモコ遠征が大失敗に映るような派手な展開になるのでは、魔王の尊敬を集めるシステムの方に影響が出てえらいことになっちゃう。
帝国艦隊には穏便に引いてもらわないといけない。
「不確定要因が多いんだよ。ソロモコ遠征のすぐあとに、ラグランドっていう帝国の海外植民地で蜂起が起きる。第二皇子自身も敵が多くて、食事に毒盛られちゃうくらい」
「ええ? 想像以上に混沌としてるじゃねえか」
「内情をちょっと知ったあたしもビックリ。第二皇子が次期皇帝レースのトップランナーであることは間違いないから、この機に乗じて追い落として、プリンスルキウスを押し立てることができれば最高のシナリオ。でも第二皇子もなかなかやるやつなんだよ。プリンスがダメなら第二皇子がベター」
「第二皇子には会えたのか?」
「会えた。時々施政館っていう、帝国の政治の場に遊びに行ってる。いや、遊びではないな」
再び考えるダン。
だから似合わないとゆーのに。
「……わざわざ帝国が混乱させるより、素直に第二皇子が次の皇帝じゃダメなのか? あんたが間に入ってるなら、ドーラに矛先向かねえだろ?」
「第二皇子は悪魔を引き寄せちゃう固有能力持ちなんだ。今はガルムって子がくっついてるんだって。悪魔のせいか第二皇子の性格のせいか、どーも戦争したがるのがよろしくないんだよ。まープリンス皇帝の目が潰されるなら、第二皇子でしょうがないけど」
まるで実績のない第三皇子やリキニウス殿下よりうんとマシ。
「状況が落ち着かねえってのはわかったぜ」
「あたしももっと帝国の中枢に食い込みたいしな」
声のトーンを普通に戻す。
「今日は何しにギルドへ来たんだ?」
「ペペさん呼びに。世界樹使ってスキルスクロールをドーラで大量生産しようって計画があるじゃん?」
「ああ。進展するのか?」
「とゆーか、弟分アレクの知識がいるんだよ。今日アレク時間があるから手伝ってもらおうかと思って」
「働かせるなあ」
だってあたしだけじゃムリなんだもん。
「じゃーねー。ポーラ遊んでやってよ」
「おう。またな」




