第1289話:新『アトラスの冒険者』構想
――――――――――二一六日目。
「ヴィル、聞こえる?」
赤プレートから響く、元気のいい声。
『聞こえるぬ! 感度良好だぬ!』
「よーし、ヴィルいい子! パラキアスさんどこにいるかな。探してくれる?」
『ちょっと待つぬ』
朝からヴィルと連絡を取ってパラキアスさんを探す。
一人でいてくれると都合がいいんだが。
『いたぬ、カトマスだぬ!』
ラッキー。
カトマスならヴィルがいても変な目で見られることはないな。
「一人かな? 話しかけてもよさそう?」
『朝食を食べ終えたところだぬ。『遊歩』でどこかへ行きそうだぬ』
「すぐそっち行くから、パラキアスさん引き止めてビーコン置いて」
『わかったぬ!』
◇
「じゃーん! 美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
「それはいつもやるんだな」
「愛情一杯だからね」
「愛情一杯だからだぬ!」
「私に用があるんだな? 秘密を要することか?」
わざわざ会いに来たことで察したか?
「人に聞かれない方がいいな」
「では郊外へ」
『遊歩』でびゅーんと飛ぶ。
「この辺でよかろう。どうした?」
「『アトラスの冒険者』がなくなっちゃうかもしれないんだって。チュートリアルルームの係員に聞いた」
意外でもないんだろうが、さすがに驚いてるな。
『アトラスの冒険者』はパラキアスさんに直接関係あるわけではない。
でもパラキアスさんが様々な洞察を働かせるためには、いろんな情報を持っているべきだと思うから。
「急だな。何故だ?」
「立て込んだややこしい話なんだけど……」
塔の村の精霊使いエルが、『アトラスの冒険者』事業本部のある異世界の出身であること。
エルは異世界から追われていて、追っ手が『アトラスの冒険者』のトップであるエルの母親であること。
エルの母親が派閥争いに巻き込まれていて、『アトラスの冒険者』を潰してしまえという話があること。
「どうして精霊使いエルは追われているんだ?」
「エルは向こうの世界の旧王族なんだって。多分父方がってことだと思う。赤眼族っているじゃん? あれが一〇〇年以上前にドーラに追放された、向こうの世界の王族の成れの果てなんだ。異世界の現在の政権が旧王族と相容れないの」
沈思するパラキアスさん。
「……エルは閉じ込められていた『精霊使い』だと、デスさんに聞いた」
「だからじっちゃんは、エルをこっちへ連れてきても影響がないと考えたみたい」
「実際には重要人物だった?」
「さあ、詳しいことはサッパリ」
旧体制の遺物である忌み子なのか、反体制側の御輿になり得る存在なのか。
エル自身にも全く自覚がないからなー。
「おいおい事実が判明してくると思うんだ。わかったらまた連絡するね」
「ああ。『アトラスの冒険者』がなくなるかもという話が秘密なんだな? しかし、派閥争いが原因なら『アトラスの冒険者』は存続するんじゃないか?」
「いや、それがね。『アトラスの冒険者』はもう目的が果たされちゃってるの」
「何? どういうことだ?」
パラキアスさんには皆伝えとこ。
いい知恵貸してくれるかもしれんし。
「『アトラスの冒険者』って何のためにあるのか、存在意義がわからんじゃん?」
「最も信用できない部分だ。ユーラシアはそう思わないか?」
「思ってた」
『アトラスの冒険者』のメンバーの中にも、運営が胡散臭いと思ってる人は多いだろ。
特に過去問題起きたことがないから、何となく見ないフリしてるだけだと思う。
「赤眼族監視を目的として設立された組織なんだ。一〇年に一度くらい、誰かに赤眼族クエストが回されてレポートを書かされる」
「ふむ。君のところに赤眼族クエストが来て、真相を知ったということだな?」
「うん。だけど赤眼族は、過去何回かの火災で自分らのルーツがどこにあるかの記録を失っちゃってるの。どこからか追放された一族だって伝承は残ってるけどそれだけ。赤眼族が向こうの世界を恨んでたりとか、どうにかしようなんてこと考えるわけがない」
「……何故異世界がこちらの世界へ世話を焼くのかと、長年疑問だったんだ。旧支配層をこっちへ押しつけた。反体制派となる可能性を持っている赤眼族をチェックする必要があったということか。全部話が繋がる」
納得ですか?
「赤眼族の現状を、どこまで異世界側は知ってるんだ?」
「あたしは決定的なことを話してないけど」
でも過去の『アトラスの冒険者』のレポートもあるしな?
大体のことは把握してるんじゃないかって気もする。
「で、パラキアスさんにはドワーフの集落の場所を教えてもらいたいんだ」
「構わないが、今までの話とどう関係するんだ?」
「もし『アトラスの冒険者』がなくなっちゃったら、代わりの組織が必要じゃん? ドーラの治安も受け持ってるんだし」
「それは……可能ならば」
「『アトラスの冒険者』みたく、各メンバーのホームに転送魔法陣を設置するなんてバカげたことはもちろんできないんだけどさ。デス爺の転移術があればある程度のことは可能だと思うんだ。ギルドに各地への転移石碑を設置して、冒険者に自宅とギルドを往復できる転移の玉持たせてさ」
「構想として面白い。転移石碑と転移の玉の製作に、ドワーフの加工技術が必要ということか。特殊な鉱石が必要なのだろう?」
「うん。黒妖石ってやつ。ところがこれ、帝国のガータンってとこで農具をダメにする邪魔物扱いなの。あたしが出資して農地広げる代わりに、石はもらえることになったんだ」
「ハハッ、夢があるな。地図は持ってるかい?」
ナップザックからドーラ大陸の地図を出す。
「塔の村から真西へ行ったところにエルフの集落がある。そこからさらに南西へ強歩一日半くらいのところが、ドワーフの一番大きな集落だ」
「だって。ヴィル、ちょっと見てきてくれる?」
「わかったぬ! 行ってくるぬ!」
ワープして消えるヴィルを見つめるパラキアスさん。
いいでしょ。
あたしのだぞ?
『御主人、見つけたぬ! ドワーフの村だぬ!』
「よーし、ヴィル偉い! 場所を覚えたら戻ってきてね」
『はいだぬ!』
帰ってきたヴィルをぎゅっとする。
これでドワーフに接触できるな。
「パラキアスさん、ありがとう。じゃーねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




