第1276話:マーク青年のレベリング
「姐御、今日の方針はどうしやす?」
「ふつーにザコを倒しながら真っ直ぐドラゴン帯まで行けば、レベル三〇くらいまで上げられるんじゃないかな。って、ひょっとしてマーク君は『精霊の友』なん?」
アトムが平常運転で話しかけてくるがな。
あまりにも自然過ぎて気付くの遅れたわ。
「はい」
「ベリーレアね」
「『精霊の友』とは何ですか?」
マーク青年は悪魔について詳しくても、精霊については専門外だったか。
帝国の人で知ってるのはメルヒオールさんみたいな例外だけだろうな。
「精霊って人間嫌いで、ノーマル人とはほとんど喋らないんだよ」
「ええ、そこまでは知ってますが」
「たまーに精霊親和性が高くて精霊と普通に話せる人がいるんだ。精霊達はそーゆー人間を『精霊の友』って呼んでるの」
「なるほど」
「『精霊の友』は一〇〇〇人に一人くらいですよ」
「随分少ないんですね」
灰の民以外だと、素で精霊と喋れる人ってほとんど見ないもんな。
ただしバエちゃんみたいに慣れ次第で『精霊の友』になり得る人まで含めると、割といそうな気はするけど。
「『精霊の友』で悪魔の研究家か。変なの」
「精霊も悪魔もうちの子扱いのボスが一番ストレンジね」
「おおう」
自分のことってのはわからんもんだ。
あ、オーガが出た。
クリティカルを出すわほぼ実入りがないわで実につまらんやつ。
えいやっと倒す。
「レベル上がったと思います」
「うん。魔境の魔物は経験値多いんだよね。マーク君はレベル五くらいはあったと思うけど、宮廷魔道士は訓練があるのかな?」
「騎士や兵士の魔物退治合同訓練についていくことがあるんですよ」
「なるほど、経験あるなら理解しやすいね。今日はレベル三〇オーバーくらいを目安にするよ」
「……要するにレベル上げとは、ボクのレベルを上げてくれるということですか?」
「うん。説明してなかったっけ?」
わざと説明を省いたわけではない。
あたしにとっては日常茶飯事だから。
十八番だし。
「……レベル三〇って、軍では佐官並みじゃないですか。熟練の強者ですよ?」
「ドーラでは一時間もかからずインスタントに生産できちゃうんだ」
「ありがたいですけど、何もお返しできませんよ?」
「いや、あたしにメリットがないことはないな。面白い研究結果が得られたら教えてよ。機密じゃないところだけでいいからさ」
レアな知識はおゼゼ払ったってなかなか得られないものなのだ。
将来何がどこで役立つかわからんし。
魔道士長さんが期待する若手に恩を売っといて損なわけない。
「ワイバーンね」
「あれが飛竜、ですか……」
「素早いし、『ウインドブレス』っていう全体攻撃はバカにならないよ。でもヒットポイントはドラゴンの五分の一くらいかな。体力はない」
ちょちょいと倒す。
「あっ、卵だ! これドーラでは高級食材なんだ。黄身が大きくてすげえ美味いの。あげるからお土産にしてよ」
「これはこれは、どうもすいません」
美味いものはジャスティスでありデリシャスなのだ。
さらに中へ。
「段々空気が重くなってく気がしますねえ」
「魔力濃度が高くなるとどよーんと感じるよねえ。でも空飛んでると逆に身体が浮くような感じがあるらしいの」
「そうだぬよ?」
飛行魔法でびゅーんと飛ぶとあんまりわからんけどな。
さて、そろそろか?
「……ドラゴンですね」
「レッドドラゴンだぜ」
「ここにはレッド、アイス、サンダーの三種類のノーマルドラゴンがいるよ。もっと魔力濃度の高いとこいくとイビルドラゴンがいる」
「倒してしまうわけですか?」
「もう少しマーク君のレベルが上がってからの方が安全かな。まだ間違って攻撃食らうと死んじゃうかもしれないし」
「し、死ぬ?」
「仮にもドラゴンだぞ? クララが蘇生魔法を使えるけど、頭食いちぎられたとかだと蘇生できないし」
「……仮にも?」
「仮じゃなかった。紛うことなきドラゴンだった」
これ以上近付くと戦闘になる危険が大きいので、注目されない内に去る。
うちのパーティーなら、全力で戦えばドラゴンにターンを回さず勝てる。
けど『雑魚は往ね』でシンプルに倒したい乙女心とゆーものがあるし。
そもそもドラゴンなんかより経験値効率のいい魔物がいるわけだし。
「デカダンスね」
「あ、出た出た。あいつは安全に倒せる上に、ドラゴンよりずっと経験値が高いんだ。おまけに魔宝玉を必ずドロップするからカモだよ」
「大きい……人形系の魔物ですね?」
「さすがに魔道の研究者だねえ。マーク君は魔物にも詳しいの?」
「いえ、図鑑を眺める程度ですけれども」
レッツファイッ!
実りある経験からの通常攻撃でウィーウィン!
「リフレッシュ! 透輝珠のドロップだね」
「簡単に魔宝玉が……」
「人形系を上手に倒すことは、レベル上げの面でも収入の面でもひっじょーに重要なんだ。今のデカダンスのレアドロップは黄金皇珠だよ。『魔物図説一覧』には載ってないらしいけど」
「『魔物図説一覧』と言えば、魔物研究の最高峰の書物にして権威じゃないですか。載ってない所見なんてものがあるんですねえ」
「普通にあるぞ? ドラゴンクラスの魔物を好き好んで倒しにくる人、あんまりいないみたいなんだ。さっきの魔境ガイドオニオンさんも研究者肌なところがあってさ。新しく知ったことがあると喜んでくれるんだよ」
「ふうん。魔物学も面白いですねえ」
「今日来なかったけど、人形系レア魔物の亡骸はグリフォンとかガルーダみたいなでっかい鳥系の魔物の好物なんだよ。時々もらいにくるんだ。あっ、言ってるそばから来たわ」
「な、馴れてる……」
グリフォンにもふーして羽毛と亡骸を交換する。
ウィンウィンなのだ。
「その櫛はグリフォンから羽毛を得るための特注品ですか?」
「うん。高級布団の材料になるって言うんで、羽毛を集めてるの。帝国のお貴族様向けに輸出する予定だね」
「経済魔物学か……」
「経済魔物学ってのはいい響きだねえ。グリフォン達はあたしの言うことをわかってくれるんだ。賢いから敵じゃない。魔物の亡骸と羽毛を交換するウィンウィンの関係」
「ドラゴンとは意思の疎通ができないんですか?」
「ドラゴンはダメだなー。一生わかり合える気がしないよ」
そーゆー意味では凶悪と言えなくもない。
「もう少し経験値稼いでいくよ」




