第1275話:マーク青年と魔境へ
「これはまた格別でやすねえ」
「でしょ? さすが特別賞だよ」
ギルドから帰って軽く魔境で稼いだあと、『ダヤン食堂』でもらってきた魚フライをうちの子達といただいている。
うちの子達は揚げたて食べるの初めてだな。
「パリパリデリシャスね」
「そーなんだよ。揚げたてだと食感の良さが際立つなあ。ここまで手がかかってるのに、値段は他の店と変わんないんだよね」
「努力してますねえ」
『ダヤン食堂』は努力しているすごい店なのだ。
応援したくなるのも当然というもの。
「ごちそーさま。皇宮行ってマーク君連れてくるね」
「宮廷魔道士ですか。どんな人です?」
「パッと見頼りなさそうな二〇代前半くらいの人だよ。でも宮廷魔道士長さんが見どころあるって言ってたから、研究では結果を出してるんじゃないかな」
「透明マントでやすか」
「まさかあんなもんがあるとはなー。最初透明な魔物かと思ったんだよ」
透明マントもマーク君が開発したんだろうな。
結構すごい。
「じゃ、連れてきたら魔境で軽くレベリングするからよろしくね」
「魔境アゲイン?」
「魔境アゲインだねえ」
魔境は素晴らしいところなので、一日に何度行ってもいい。
「行ってくる!」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
マーク青年を連れて再び魔境にやって来た。
私生活が充実しているからか、オニオンさんのニコニコ度も二割増しだ。
「そちらの方は?」
「宮廷魔道士のマーク君だよ」
「初めまして。えーと、ここは?」
「魔境だよ。彼は魔境ガイドのペコロスことオニオンさん」
「逆ですよ。ペコロスです。よろしくお願いいたします」
やや首に角度がつくマーク青年。
「今、魔境という不穏な単語が聞こえた気がしましたが」
「魔境は不穏な単語じゃないから気のせいだな。宮廷魔道士長さんに頼まれたんだ。マークは将来有望な魔道士だから、ぜひともドラゴンの洗礼を浴びさせてくれって」
「そ、そんなことドルゴス宮廷魔道士長は言ってなかったですよね?」
「言ってなかったけど、ニュアンスが合ってるのは事実だぞ?」
おそらく魔道士長さんは自らの経験で、レベルアップしていることが研究に有益なことを知ったのだろう。
いや、マーク君も五、六くらいはレベルがあるから、宮廷魔道士にはおそらく戦闘訓練があるんだと思う。
でもあたしのパワーレベリングはお手軽で苦労がいらないからな?
玩具にするつもりならよろしくとゆー、魔道士長さんの親切心じゃないかな。
オニオンさんが笑う。
「よろしいではないですか。ドラゴン見物もオツなものですよ」
「な、なるほど。ドラゴンを見るのも勉強の内ということですか」
「でもドラゴンは気性が荒いから、近くでジロジロ見てると間違いなく襲いかかってくるよ」
「怖いじゃないですか!」
「大体反応は三種類に分かれるなー」
「「は?」」
あれ? オニオンさんもわかってないようだ。
「ドラゴン倒したーって大喜びしてくれる人と、いつまで経っても怖い怖い言う人と、ドラゴンはもっと強くて凶悪な魔物だと思ってたってガッカリする人」
「ああ、なるほど」
「帝国の人は最後のケースが多いね。悪書『輝かしき勇者の冒険』のせいだ」
「ボクも繰り返して読んだものですが……」
「普通のドラゴンは言うほど凶悪な魔物じゃないって。そりゃレベル五〇くらいのパーティーが挑んだんじゃ全滅も自業自得で致し方ないけど」
「レベル五〇くらいのパーティーが全滅って……」
「舐めちゃいけないってことだよ」
ドラゴンは弱い魔物じゃないからね。
オニオンさんがつけ加える。
「おそらく最も数多くドラゴンを倒してるパーティーの言ってることですから」
「そーかな? 『商業的に』倒してるのはあたし達だろうけど」
ペペさんが人形系を倒せないのにレベルカンストしてるのは、極大魔法でふっ飛ばしまくってるからだと思う。
あたし達よりよっぽど数は行ってるんじゃないかな?
ちょっと疑問に思ってたことを聞いてみる。
「ところでマーク君は見るからに平民だよね? どういう経緯で宮廷魔道士になれたの?」
「……運? ですかね」
「運なんだ?」
平民が成り上がるのは運も必要なんだろうなあ。
「ボクは辺境開拓民の子なんです。たまたま魔物に襲われてたまたま助けられて。たまたま共闘扱いになってレベルアップして。その時にたまたま習得した魔法がたまたま珍しめの系統で、たまたま視察に来ていたドルゴス宮廷魔道士長の目に留まって、たまたま既に両親が亡くなっていたので帝都について来たという」
「ふーん。マーク君研究好きそうだし、良かったねえ」
「宮廷魔道士は、まさにボクの天職でしたよ。宮廷魔道士長には感謝してもしきれないです」
「マークさんの魔法の系統は何ですか?」
「水魔法です」
ジーク君と同じやつか。
確か他の属性魔法使いより少ないって話だった。
そーいや山岳地帯にこもってた時、爆弾対策で同行してた水魔法使いはまあまあのレベルだったけど、虎の子の魔道士だったのかもしれないな。
「透明マントもマーク君の仕事なんだよね?」
「透明マントですか?」
オニオンさんが聞きたそう。
「被ってると周りから見えなくなっちゃうの。何かと思った」
「ボクの研究成果の一つです。バカみたいに高価になっちゃうんで、到底量産はできませんけどね。ユーラシアさんはどうしてわかったんですか? よほど目を凝らして見て、何となく存在しているのがわかるという程度のはずなんですが」
「見えたわけじゃないよ。レベルが上がると違和感が感じ取れるようになるんだ。人間とは思わなくて、皇宮の地下で飼ってる透明な魔物が逃げ出したんだと思った」
あんなもんを作れるとは。
魔道士長が期待するのも理解できるよ。
「魔道士長さんの意図は、レベルを上げて使える魔法が多くなると魔道の研究も進むってことみたいなんだ。レベル上げするよ」
「レベル上げ、とは?」
「ユーラシアさんの側を離れなければ危険はありませんよ」
「えっ、危険?」
「危険はないと言ってるのに。行ってくる!」
「行ってくるぬ!」
「行ってらっしゃいませ」
ユーラシア隊及びふよふよ悪魔、クエスチョンマークに囲まれた青年出撃。




