第1274話:あたしが面白くないわ
フイィィーンシュパパパッ。
「おはよう。チャーミングなユーラシアさん」
「おっはよー、ポロックさん」
ギルドにやって来た。
チトー君の用とのことで、ジーク君パーティーと待ち合わせなのだ。
ポロックさんが声を潜める。
どうしたんだろ?
「……ユーラシアさんは知ってるかい? ペコロス君とサクラさんが婚約したってこと」
「うん。五日前にオニオンさんに聞いた。でも誰にも言わないって約束させられてたの」
「なるほど……やはり黙っている方がいいね」
「まだ公表はされてないんでしょ? いつまでも言わないってわけにはいかないんだろうけど」
「ああ。ジワジワ浸透していくのが本当は望ましいんだが」
「おっぱいさんはギルドの花だもんねえ」
絶対に騒ぎになっちゃうと思う。
でも大騒ぎになるとマジで困るしな。
ギルド内部へ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
うんうん、依頼受付所にジーク君パーティーが来てるね。
あれ、もう一人いる?
「こんにちはー」
「師匠、おはようございますっ!」
「おはようだヨゥ」
「おはようございます」
「で、そちらの方は?」
怒ったような顔をした、中肉中背のおっちゃんだ。
揚げ物のいい匂いがする。
料理人かな?
チトー君が紹介してくれる。
「父です」
「チトー君のお父ちゃんだったか。美少女精霊使いユーラシアだよ」
「ヴィルだぬよ?」
「おう、よろしく」
握手。
あれ、ヴィルがおっちゃんの側に行った。
気難しげな表情だけど、怒ってるわけじゃないんだな。
それともヴィルが気に入られたのか。
「で、何事?」
「父はレイノスで定食屋を営んでいるのです」
「チトー君は料理屋さんの子だったんだ?」
意外でもないか。
チトー君いい体格してるしな。
子供の頃からたくさん食べさせられて育ったんだろう。
「昨年一一の月に行われたフィッシュフライフェスで、透輝珠をいただいたんです」
「すごいじゃん!」
わからんって顔をしているジーク君とレノアに説明っと。
「……ってわけで、一~三位の店と特別賞の店に、副賞の透輝珠を授与したんだ。これからも食フェスはやるつもりなの。透輝珠が飾ってある店はおいしい店っていう見方に、今後なっていくと思うんだ」
「オレ達も食べさせてもらったヨゥ」
「とてもおいしいフライでしたっ!」
「うんうん。透輝珠の店なら間違いないよ」
おっちゃん嬉しそう。
チトー君が続ける。
「しかし、うちの店に文句をつける者がいるのです」
「つまんないことするやつを叩き出せってこと? だったらチトー君やレノアでよくない?」
今やジーク君達も中級冒険者に迫るパーティーだ。
一般人なんか相手になるまいが?
「いや、そうではなくてですね。成績と関係ない特別賞だったので、談合があったんじゃないかっていう、中傷を受けているのです」
「あっ、チトー君家って『ダヤン食堂』だったのか!」
「はい。ユーラシアさんも覚えておいででしたか」
「もちろんだよ。一番おいしい店だったから、予定になかった特別賞出したんだ。これはあたしとイシュトバーンさんの共通の意見だよ」
一度揚げた骨を身に絡めてもう一度揚げるという凝ったフライだった。
フェスは数で勝負だったから、不利になっちゃうことは否めなかった。
でもああいう斬新な工夫は評価されないといけないから賞した、ということを話す。
おっちゃんが喜ぶ喜ぶ。
「そこまで評価されてたとは知らなかったぜ。料理人冥利に尽きる!」
「しかし、特別賞の理由が発表されなかったでしょう?」
だから一部の客だかライバル店だかに文句言われているのか。
考えが及ばなかったよ。
当時は来たるべき帝国戦で考えられる食料不足に備えて、魚食を普及させるのがフェスの目的だった。
賞自体もおまけみたいなものだって思ってたし。
「ごめんね。理由を言うことが必要だとは思ってなかったわ」
「お客さんと言い争いになって透輝珠が割れてしまったんです」
「それは別問題だろ。損害賠償請求しなよ」
おっちゃんが慌てて言う。
「いや、透輝珠が割れちまったことは不可抗力だったんだ。頭に血が上っちまった俺も悪かったから、損害どうのってことじゃねえ」
「そお?」
「再び透輝珠を飾りたいのは山々なんですが……」
「ケチがついちまった気がしてな。わざわざ透輝珠買い求めるのもどうかと……」
「ん」
ナップザックから透輝珠を一個取り出して渡す。
「あげるから飾っといて」
「い、いいのかい?」
「いいよ。あたしが評価した店が認められないなんて、あたしが面白くないわ」
「師匠格好いいですっ!」
「あたしはいつも格好いいんだよ」
「ユーラシアさん、ありがとうございます!」
ハッハッハッ、気分がいいなあ。
おっちゃんがしみじみ言う。
「嬉しいぜ。味がくどい、しつこいって言いやがる客がいるんだ。ちょっと自信がグラついてたところなんだぜ」
「味がくどい? ……わからんでもないな」
「何だと!」
おっちゃんが怒るけど、あたしの思うところを伝える。
「『ダヤン食堂』の魚フライは、まよねえずを塗ってから衣をつけて揚げてるでしょ? 仕上げで再びまよねえずだと、くどく感じる人はいるかもなーって思ったんだ。不味いって意味じゃないから誤解しないでね」
おっちゃんチトー君何驚いてるのよ?
「……まさかこんなところで言い当てられるとは……」
「何が?」
「まよねえずを塗ってから揚げるのは、当店の秘中の秘なんです」
「秘密だったの?」
「これが精霊使いユーラシアの眼力か。恐れ入ったぜ」
「恐れ入ったぬ!」
恐れ入られた。
こそばゆいんだけど。
「塔の村では、魚フライに酸っぱい柑橘の果汁をかけて食べてるんだ。『ダヤン食堂』の魚フライには、酸味を添えるだけの方がサッパリして合ってるかもしれないよ。今までのこってりタイプの方が好きな人もいるだろうから、まよねえずと果汁を選ばせればいい」
「解決法までかよ。すまねえな。礼をしたいがどうすりゃいい?」
「うちの子達に『ダヤン食堂』の魚フライ食べさせたいんだ。でもレイノスは精霊にとって優しい町じゃないから、テイクアウトにしてくれるといいんだけど」
「おやすい御用だ。今日昼前に来てくれよ。用意しとくぜ」
「やたっ、ありがとう!」
昼御飯が一品増えたぞー。




