第1269話:ガータン仮住民登録証
「ただいまー」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
空の民のお頭とサク爺を連れて、ヘルムート君ベンジャミンさんのところへ戻ってきた。
ヴィルをぎゅっとしてやる。
パスカル君が空気。
「新男爵のヘルムート君と、ガータンの運営を仕切ることになるベンジャミンさんだよ」
「おう、ベンジャミン殿は知ってる」
「そーだったか。あ、お頭の名前知らないや」
「スイープだ」
「スイープ殿、よろしく」
ほう、殿呼びか。
ヘルムート君もお頭をひとかどの人物と見たようだ。
お頭は軽く中級冒険者くらいのレベルがある。
市民権持ってないような人が、どこでレベル上げる機会があったんだろうな?
一つ言えるのは、こんな人に山賊行為されちゃ大変だってことだわ。
よっぽどレベルの高い人達集めて徹底的に山狩りして捕まえなきゃなんない。
とてもやっとれんわ。
つまり敵にするだけ損。
「パスカルは役に立ったかな?」
「もうちょっと活躍させてやるつもりだったんだけど、雷魔法の盾にしかならなかったね」
ヘルムート君のわからん顔とパスカル君の不本意顔が対照的だな。
お頭が言う。
「お嬢さんからアバウトなことは聞いた。何でも俺達を領民扱いしてくれるとか」
「うむ、そうなのだ。元々はユーラシア殿のアイデアでな。最終的に領民となってくれることを期待している」
「具体的にどんなものでえ?」
「『ガータン仮住民登録証』を発給しよう。これはガータン領内の準領民であることを保証し、税を免除し、許可を得れば未開発地域の開拓が可能であるというものだ。ただし、商取引に制限をかける。領内の指定業者、並びに『ガータン仮住民登録証』を持つ者以外との取り引きを禁ずる」
「……なるほど、ちょいと不便だな。他の『ガータン仮住民登録証』を持たない空の民とももののやり取りができなくなる、か」
笑うヘルムート君。
「そこはスイープ殿が皆に『ガータン仮住民登録証』を取るよう、働きかけてくれるとよろしいのだが」
ほほう、領内の山賊に横流しはさせないということか。
しかし仮住民になりさえすれば、山賊は追われる身にならなくなる分だけ得だ。
経済的に潤えば自由な商売や領外にも色気が出てくるだろうが、本格的に取引したいなら市民権を取って税金払えと。
なるほど、ヘルムート君考えたな。
「いいんじゃない? 少なくとも今までよりは売買しやすいし暮らしやすいと思うよ」
「領内の指定業者には、元空の民という理由で買い叩き売り惜しみすることは許さぬ。不満な事例があればベンジャミン領宰に訴えてくれ」
「ああ、わかった」
「スイープ殿の集落がテストケースになるのだ。最初は足りぬことが多いと思う。質問があれば遠慮なくしてくれ」
「そうだな……」
連れてきたサク爺をチラッと見るお頭。
サク爺が心得たように発言する。
「仮に我らが集落で標準税率分の作物を納めようと思うと、現在の耕地の三倍の面積は必要です。広げて構いませんか?」
「ふむ、開拓してくれることはガータン全体の利益にもなる。しかし他者の利益と競合することもあり得る。当面は現在の耕地の五倍の面積にまで広げることを許可しよう。どこまでを境界とするかは、ベンジャミン領宰と取り決めてくれ」
「埋まってる硬い石を掘り返す道具を貸与していただけるとのことでしたが」
「先ほど鍛冶屋に発注をかけたところなのだ。このような……」
ふむふむ、でっかいバールのようなものか。
「これも試作品だ。使用感を聞かせてくれると助かる。五日後には数本完成の予定だから取りに来てくれ」
「結構距離あるから、あたしが届けるよ。あっ、五日後はダメなんだった!」
ちょうどそれくらいにソロモコに艦隊が来そう。
ガータン発展の第一歩に立ち会えないのは残念だなあ。
「用があるんだ。ごめんね」
「いや、いいんだぜ。忙しい時期でもねえし」
お頭が続ける。
「ここまで凝ったことしてて、俺達を一網打尽にするなんてことはねえんだろう?」
「ないよ。そんな面倒なことするんだったらこうする。ダンテ」
「イエス、ボス!」
急激な魔力の凝縮が始まり、空に放たれる!
ゴワババババババーーーーーーンンンンンという衝撃が降り注ぐ前に、クララのヒールがダンテにかけられる。
ハハッ、ベンジャミンさんとパスカル君腰抜かしてるじゃねーか。
何かあちこちから人飛び出してきたけど、悪いことしちゃったな。
「……今のは?」
「個人で使う分には世界最大の魔法だよ。そりゃ山賊退治だけの目的だったら今ので吹っ飛ばして回った方が簡単だけど、得にならないじゃん? 山も穴だらけになっちゃうし」
ヘルムート君が笑う。
「ハハッ、たまげた魔法だな。まあしかし、ユーラシア殿の言ったことは事実だ。ガータンを豊かな地にしたいから、スイープ殿達の力を貸してくれということだ」
「よ、よおく理解したぜ。決め事に反したらどんなペナルティがあるかもな」
「え? ペナルティでこんなことしないぞ?」
ポカンとするお頭。
興味深げなヘルムート君。
「商隊を襲ったけど返り討ちにあって捕まりました。普通は縛り首になっちゃうんでしょ?」
「当然だな。処刑は免れねえ」
「でも処刑の用意しなきゃならんわ埋葬もしなきゃならんわ、おゼゼがかかるじゃん?」
「え? 金の心配なのかよ? 考えたことなかったぜ」
「だからドーラ流しの刑にするよ」
全員が内容を聞きたそうですね。
いや、『デトネートストライク』は連発できる魔法じゃないんだよ。
「ドーラには凶悪な魔物がたくさんいるんだ。ドラゴンとか。犯罪者は連行してそのエサにする」
「ひ、ひでえ!」
「そお? 縛り首の準備しなくていいし埋葬の手間も省けるし、おまけにドラゴン大喜び。ムダがなくていいと思うけど?」
「お嬢さん、本気かよ?」
「あたしは常に本気だとゆーのに」
「御主人は冗談が大好きだぬよ? でも今のは本気だぬ」
お頭のその顔は、あたしの素晴らしい提案に賛同してる表情じゃないですね。
何故に?
「……お嬢さんがどんな魂胆でいるのかってことは忘れないようにするぜ」
「忘れちゃってもやること一緒だから、べつに構わないぞ? にこっ」
お頭が恐怖の表情になった。
花の乙女としては傷つくんだが。
「そろそろ昼だな。昼食を出そう」
「やたっ、いただきまーす!」




