第1270話:正体不明の何か
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「やあ、精霊使い君、いらっしゃい」
お昼をいただき、お頭他一名を送ったあとガータンから戻り、皇宮にやって来た。
「今日はどうしたんだい?」
「大した用じゃないんだけど、リモネスのおっちゃんか魔道士長さんに教えてもらいたいことがあったから来たんだよ」
要するに現在第二王子付きの悪魔がどんな子なのかとゆーことだ。
リモネスさんか宮廷魔道士長さんなら知ってるだろ。
サボリ土魔法使い近衛兵君の前では言えんけど。
ん? 宮殿壁近くから変な気配がする。
何だろう?
「……近衛兵としては怪しい者の侵入を許しちゃいけないよねえ」
「そりゃまあ職務だから」
「あそこに何かいる」
「えっ、どこだ?」
壁近くに何かがいる雰囲気はある。
身体を流れる魔力の流れもわかる。
うずくまっている生き物だ。
しかし姿が見えないのだ。
「わ、わからない。本当にいるのか?」
「うん、いる。敵対的な感じはしないけど」
とゆーか、寝てるっぽい?
「地下で透明な魔物とか飼育してるのかな?」
「聞いたことないな」
「マジで魔物が逃げ出したんだったらえらいことだわ。捕まえよう」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。弱いから」
そーっと近付いて蹴りをくれてやろう。
蹴りは手加減しなきゃいけないんだったな。
皇宮の壁壊すと怒られそうだからかるーく。
「ぎゃっ?」
「あっ、人間じゃん」
マントがめくれたところから青年の顔が見える。
このマント、透明になる魔道具かな?
「お前は誰だ! 名前と所属を言え!」
「ま、マーク・ジャガー。宮廷魔道士です!」
「こんなところで何をしていた! 詰め所まで来い!」
「おー、いつもサボってるとは思えない凛々しさだ」
「滅多にないシリアスシーンだ。黙っててくれ」
マークと名乗った青年を引っ立てて近衛兵詰め所へ。
◇
「マークよ! お主は何をしておるのだ! 研究棟へ帰ったのではなかったのか!」
詰め所の一部を隔離して、マーク青年の尋問が始まっている。
ドルゴス宮廷魔道士長に叱られてシュンとしているマーク青年。
皇宮に来ていた宮廷魔道士長への使いのために寄越され、帰りに寝てしまったということらしい。
「も、申し訳ありません。つい睡魔に襲われ、寝入ってしまいました」
「何で外で寝ようとするかな。寒くない?」
いや、寒いから透明マントを頭から被ってたのか。
宮廷魔道士って、寝る暇もないほど研究してたりするのかな?
「皇宮に潜んでいたなど、死罪でもおかしくないのだぞ!」
「まあいいじゃん。悪気はなかったんだし」
とゆーかこんなんで首ちょんぱになったら、あたしの寝覚めが悪いわ。
近衛兵長さんが苦笑する。
「捕らえた精霊使い殿がこう言ってくれているのであるから、これ以上はいいでしょう」
「ヴォルフ殿、すまぬ」
「ごめんなさい」
一件落着でいいでしょ。
聞きたいことがあるから人払いしてもらう。
あ、リモネスさん来た。
ナイスタイミング。
「リモネスのおっちゃんと宮廷魔道士長さんに聞きたいことがあったんだよ」
「何でしょうな?」
どこから話すべ?
「この前ウルピウス殿下と施政館へ行った時、主席執政官閣下が昼食に毒盛られてたんだ」
「「「!」」」
「それはあたしが見破ったから事なきを得たんだけど、閣下は誰に恨まれてるの?」
近衛兵長さんが答えてくれる。
「反主流派の政治家、平和主義の活動家、海外植民地関係の面々、処断された貴族や商人、次期皇帝位を争う皇子達等々。ドミティウス様の武断的な処置を評価する者も多いですが、敵もまた多ございますぞ」
リモネスさんも魔道士長さんも頷く。
帝国の主席執政官って大変だなあ。
生きづらいんじゃないの?
「毒入れた実行犯はわかってるし、首謀者も閣下が捕まえるだろうからまあいいんだ。ここからちょっとおかしな話なんだけど、礼として皇妃様呪殺未遂事件の黒幕を教えてもらったの」
「何ですと!」
驚く近衛兵長さんと宮廷魔道士長さん。
ところでさっきのマーク青年も聞いてるけどいいのかな?
魔道士長さんが認めてるところを見ると、マーク青年はかなり信頼されてる人みたい。
「あれだけ捜査して何も出てこなかったのだが……」
「ウルピウス様が思い悩んでおられた理由がわかった。犯人を聞かされたからだったのか……」
「ウ殿下考え過ぎちゃってるのか。気にすんなって言っといてよ」
考えるだけムダだから。
忘れちゃえばいいのに。
「黒幕は誰だと?」
「セウェルス第三皇子だって」
リモネスさんが重々しく言う。
「実行犯の証言と同じですな」
「閣下は信じられないかも知れないが本当だって言ってたよ。あたしも本当だと思う。根拠のないこと言ってる雰囲気じゃなかった」
その場が静まる。
「で、まあセウェルス第三皇子犯人説は割とどうでもいいんだ。どうせ証拠のないことで吊るし上げるなんてできないんだし」
「うむ、道理ですな」
「ただ現場や残された物品から何も出てこなかったわけじゃん? にも拘らず、閣下が第三皇子が犯人だという情報を真実だと信じている根拠は何だってことなんだよね」
一つの問題提起だ。
疑問が各人に十分浸透したであろう頃を見計らって、あたしの心を読んでいるであろうリモネスさんが言う。
「……つまりドミティウス皇子は側近の悪魔から情報を得たのであろうと?」
「って考えるのが一番矛盾がないかなと思ってる」
息を呑む面々。
仮に信じられる証人なり証拠があるなら、第二皇子はそれを基にセウェルス皇子を次期皇帝レースから追い落とすだろう。
信用するに値しないなら、そもそも皇妃様暗殺未遂事件の黒幕がどうのこうのなんて話は出さない。
第二皇子の目は事実を確信していた。
ウソを吐かない悪魔のもたらした情報だからだ。
「うちのバアルが言うには、閣下は『魔魅』っていう固有能力持ちなんだって。悪魔にとっていい匂いがしている、悪魔と対等に付き合えるってやつ」
「ふむ、続けてくだされ」
「一方で悪魔同士は大体仲悪いから、近くに寄ろうとしないじゃん? ならば閣下の側にはバアルが離れた後、一人の悪魔がいることになる」
全員が頷く。
さて、本題だ。
「今閣下の傍にいる子は誰か知りたいんだよね。やっぱ一人だけくっついてれば、その悪魔の影響が強く出ると思うから、性格とか知りたいの」




