第1268話:空の民
サンダー男に連れられて集落の中を行くと、珍妙なものを見る目を向けられる。
うちの子達だけじゃなく、あたしの方へ視線が来てるのは何故だ?
美少女を見慣れないのだろうか。
が、可憐な少女を賛嘆する視線じゃないのはどうしてだろう?
「この集落は全部で三〇人くらいかな?」
「……まあな」
「警戒しなくていいってば。あたし達はあんた達にとっていい話を持ってきたんだぞ?」
「信じられるか」
吐き捨てるように言うサンダー男。
まー確かに帝国人の常識から言うと、領民に組み入れる、いずれは市民権も与えるってのは信じられんのかもしれない。
あ、比較的大きい建物があるな。
ちょっと歪んでるけど。
中に入る。
「お頭、客人です」
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「客人だと?」
声を発したお頭は、ボサボサグレーの髪で目付きが鋭い四〇歳くらいの男だ。
どこで鍛えたんだか知らんけど、まあまあレベルも高いし、なかなかの人物と見た。
こーゆー人がお頭なのは納得できるな。
「ば、化け物!」
「おいこら、速やかな訂正を要求する!」
「要求するぬ!」
今なかなかの人物って思ったとこなのに、こっち見るなり何なん?
いや、最近化け物ってよく言われる気がするな?
「お嬢さんすまねえ! おいニック、てめえ客人に失礼はなかったろうな?」
「『サンダーボルト』撃たれたけど、まー『化け物』って言われるより失礼じゃないから構わないよ」
「返す返すもすまねえ!」
上下関係がよくわかってるお頭じゃないか。
あたしはこの大空のように心が広いので、特に根に持ったりはしない。
「で、お嬢さん達は何者なんで?」
「ドーラ人らしいですぜ?」
「ドーラ人……まさかヤマタノオロチを退治したという?」
「うん。よく知ってるね」
すげーな。
こんな山の中なのに、どこから情報得てるんだろ?
お頭が言う。
「知らせを聞いた時は何の冗談かと思ったが、あんた達のレベルなら納得だ。そのスーパーヒロインがこんな山の中に何の用だ?」
「スーパーヒロインか。もののわかってるおっちゃんだなあ。今度、ガータンの領主が新しくなったってことは知ってるかな」
「ああ、フリードリヒ公爵の次男らしいな。何か功があったのか?」
ふーん、どうやら情報好きな人なんだな?
ちょっとした情報をサービスしたろ。
秘密ってわけじゃないし。
「ヤマタノオロチを倒したから、褒美にあたしを男爵にしてくれるって話があったんだ。でもあたしじゃムリだから、ヘルムート君を推したの」
「ほう、そんな経緯があったのか」
「これは新聞報道されなかったみたいだね。で、ガータンを統治しようと思うと山賊が邪魔なんだ」
お頭の目が細められる。
「つまり俺達を滅ぼすために、世界一の冒険者を雇ったってことかよ」
「え? 違うよ。ガータンの領民になってくれないかって、頼みに来たんだよ」
今度はお頭とサンダー男とパスカル君の目が丸くなる。
あれ、パスカル君話を理解してなかったのか。
「どういうことでえ?」
「山賊が邪魔ってのはその通り。交易が立ち行かなくて、ガータンの経済がどん詰まりになっちゃうでしょ?」
「わかる。だが俺達も生きていかなきゃいけねえ」
「山賊が領民になってくれれば、大手を振って生きていけるよ。領主にしてみれば税金も取れるしいいことばっかりじゃん」
ため息を吐くお頭。
「山賊ってのはやめてくれ。俺達は空の民って自称してるんだ」
「空の民ね、了解」
「お嬢さんはドーラ人だから知らねえのか? 空の民がどういう人間なのか」
「カル帝国の市民権を持ってないってことは知ってる」
「ああ。空の民は領民になれねえ」
「領主の男爵様は市民権発行するくらい、お茶の子さいさいらしいぞ?」
「えっ……かもしれねえが……」
サンダー男が詰め寄る。
「市民権をくれるっていうのか? 何を犠牲にすることもなく?」
「うん。でもすぐにじゃないぞ?」
「どういうことだ?」
「今すぐ帝国市民になったって税金払えないだろーが。何らかの猶予措置があって、経済的に余裕ができた何年後かに市民権発行ってことになると思う」
山賊連れてこいってことならヘルムート君に詳しい構想があるんだろうが、あたしも詳しいことは聞いてない。
お頭が首を振る。
「やめろニック。夢見るんじゃねえ。食うに精一杯の俺達が、税金払えるほどの生活になるわけがねえ」
「そーかな? うちの子がいい土だって言ってるよ。畑広げればどうにでもなると思うけど」
「この辺の土壌にはやたらと硬い石が含まれてるんだ。少しずつ取り除いちゃいるが、一気に畑広げるなんざ不可能だ」
「あたしが出資して石を取り除く道具作ってもらうことになってるんだ。無償で貸し出すから申請しなよ」
「お頭! イケます!」
まだ懐疑的だね。
「……どこまでも至れり尽くせりじゃねえか。何故だ? お嬢さんに得がねえじゃねえか」
「あたしはその硬い石が欲しいんだよ。ヴィル」
「はいだぬ!」
ビーコンを見せる。
「同じ石だな。しかしこんなやたら硬え石に、ここまで精密な模様を彫り込むとは……」
「こんな風に使うんだ」
転移の玉を起動して見せる。
「まさか、転移?」
「黒妖石って言ってね。転移術に使える石なんだ。ドーラではまとまって取れるところなくてさ。あたしが欲しがる理由がわかるでしょ?」
「ドーラ人が帝国の片田舎に突然現れたカラクリが転移術か」
「そゆこと」
お頭と視線が交差し、不意に笑う。
「負けたぜ。うま過ぎる話だが、お嬢さんに騙されるなら仕方ねえ。俺達は何すりゃいいんだ?」
「新領主のところに来て、条件を詰めて欲しいんだよね。今後は旅人や商人を襲うのやめて。今まであんた達のやったことは忘れることにするから」
「今までの悪行もチャラかよ。いいのか?」
いーんだよ。
どうせ証拠なんか出てこないでしょ?
くだらん調査におゼゼと労力使うくらいなら、今までの悪行はポイしちゃった方が、気持ち良くこっちの話に乗れるでしょ?
「わかった。全員で首揃えて行きゃいいか?」
「いや、あんたともう一人、この集落のことよくわかってる人がいるといいな。何をどれだけ作ってるかとか」
「おい、サク爺呼んでこい」
「じゃ、その人来たら連れていくよ。ヴィル、ヘルムート君達のところへ行っててね」
「わかったぬ!」




