第1267話:山賊退治開始!
――――――――――二一三日目。
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ガータンにていつものやり取りだ。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
「ユーラシア殿、朝早くからすまんな」
「ヘルムート君パスカル君ベンジャミンさんおはよー。これ五〇万ゴールドね。鍛冶屋くらいあるんでしょ? 黒妖石掘り返す器具作って貸し出して」
「ありがたい! 早速作らせますぞ!」
「これねえ、魔境のクレソン。サラダでも炒めてもスープの具でも食べられるよ。ドーラだと水辺に植えとけば、冬でも勝手に増えるんだ。こっち少し寒いから冬越せるかわかんないけど、食の足しになるよ。試しに植えてみてよ」
「うむ、すまんな」
「で、メインイベントの山賊の方だけど」
ベンジャミンさんが眼鏡をクイッと上げてから地図を広げる。
「東への街道沿いで水の確保できる沢や川の近くに集中しているのだ。総数は推定で少なくとも二、三〇〇人規模であろう」
「えっ?」
せいぜい十数人かと思ってたよ。
つまりガータンの実質人口の一〇〇人に一人以上は山賊?
考えてたより随分多いぞ?
山賊だけで完全に村の規模じゃん。
領民にできるかできないかでは大違いだわ。
「山賊ってやっぱり追い剥ぎしてくるんでしょ? あたしのイメージだけど」
頷くベンジャミンさん。
「もちろん平和に暮らす者もいるのだろう。しかし、襲う時は人数をかけてくる」
「正攻法だなー」
平和に暮らす者か。
山賊をメインの生業としているわけではないらしいな。
「商隊を出せば一〇に一つは積み荷を奪われる有様と聞いた」
「プロの護衛を多くつければ襲われることはないが、採算を取るのが難しいのだ。すると大規模な商隊がたまに行き来するくらいになってしまう。交易による発展など夢のまた夢だ。北のパッフェルへの道筋は大して危険でもなさそうなんだが」
「ふーん、どうすべ?」
たくさん山賊いたら、まともな交易を成立させるのは難しいわ。
しかし山賊勢力が一つにまとまってるわけじゃない。
そして小規模な集落は山の中でも作れるんだな?
個別に切り崩して領民として引き込むのが正しいか……。
「……数が多いと、偽の荷車を仕立てて襲撃されたところをとっ捕まえるのは難しそうだね。投石なり矢なりがうるさそう」
「そんなことを考えていたのか」
「ユーラシア殿でも飛び道具は難しいか?」
「いや、うちのパーティーだけなら素人の攻撃なんかどうにでもなるけど、パスカル君が危ないんだよね」
「ううぇい?」
おお、愉快な叫び声だな。
「おおおおオレが?」
「権限のありそーな人が同行するかしないかでは、説得力が大違いだよ。ヘルムート君とベンジャミンさんは忙しそうじゃん? 代わりが務まる人となるとパスカル君しかいない」
「兄上の代理か!」
「そうそう、偉い人」
うむ、やる気になってくれたようだ。
実際にはパスカル君に権限なんかありゃしないだろうけど。
「結局どういう算段でいくのだ?」
「基本通り各個撃破だね。この集落が近いし、他と離れてるから狙い目かな」
地図上の一点を指すと、頷くヘルムート君とベンジャミンさん。
ヘルムート君が言う。
「どこか一ヶ所を懐柔することができれば、おそらく謹んで従う集落が出てくるだろう」
「そーだね。主だった人二、三人連れてくるよ」
「全ての集落を把握してるわけではないからな。向こうから申し出てくるのが望ましい」
まさか好きで山賊やってるわけじゃないんだろう。
理と利で釣ればいいのだ。
待遇がよければ降参してくるに決まってる。
「じゃ、行こうか。パスカル君。武器はいらないから、一応防具だけ身に着けててよ」
「わかった!」
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「だ、誰だ!」
先ほど目星をつけた山賊の集落へヴィルにビーコンを運んでもらい、転移でやって来たのだ。
クララの『フライ』を使う手もあったが、目立つからな。
「あたしはドーラの美少女精霊使いユーラシアだよ」
「ど、ドーラ?」
「山の中に住んでるとドーラを知らないかな? 元々帝国の海外植民地だったんだけど、去年の暮れに独立したんだ。おめでとうドーラ!」
あれ? 何かこの山賊男、目を白黒させてるけど。
山の中に住んでる田舎者は、あたしの華麗な話術についてこられないんだろうか?
「う、後ろの連中は何だ!」
「精霊と悪魔だよ。ドーラでは珍しくないんだ。そっちの男の子はノーマル人ね」
ドーラでも珍しくないことはなかったか。
まあいいけど。
「うちのメンバーについてはどうでもいいわ。ガータンに一昨日新男爵が赴任したんだ。知ってた?」
「い、いや」
「あたし達は男爵の使者だよ。そっちの男の子はガータンの新しい領主の弟さん。この集落の村長か頭目の人に会いたいんだ。会わせてくれない?」
「ちょっと待て!」
「じゃあちょっと待つ」
あたしもせっかちな方だとは思うが、ちょっとくらい待つのはやぶさかでない。
あれ、何だろ?
山賊男の方が慌ててるようだが。
「おかしいだろ! どうして他所の国の人間が、帝国本土の山の中にちょっかいかけてくるんだ!」
「おおう、一番説明の面倒なところにピンポイントで切り込んでくるなあ。簡単に言うとあたしは新男爵と友達で、山賊退治を任されたんだよ」
「何が山賊だ! 食らえ、サンダーボルトっ!」
うん、まあこの山賊男が魔法系固有能力持ちだということはわかってた。
パスカル君を盾にして軽くいなす。
「ぎゃっ!」
「大げさだなー。リフレッシュ!」
パスカル君を全快させる。
「あ、何ともない」
「今のが雷魔法だよ。受けるのは初めてでしょ? 勉強できる機会にはしとかないとね」
「今のは警告だ! 即刻立ち去れ!」
警告って直撃してるやん。
山賊式の警告の仕方は斬新だなー。
「あんたはあんたで平和で美少女な使者に対して何を言ってるんだ。あたしの言ってることわからない? 少々の無礼は許すからトップに会わせろって言ってるの」
「……」
「さっきの『サンダーボルト』、あんたのレベルじゃ、よく撃ててあと三、四発でしょ? すこーし痺れるくらいだから、いくら撃ってもムダだぞ? あたしが敵にならない内に言うこと聞いた方がいいよ?」
「わ、わかった」
よしよし、物事権限のある人に会わないと進まないからね。




