第1260話:思わぬところで黒妖石
ベンジャミンさんが言う。
「ユーラシア君はヘルムート様に過度に義理立てしているように思えるが、それは何故だ?」
「主席執政官と封爵大臣にヘルムート君を推薦したのあたしだから。コケてくれるとあたしの見る目がないと思われちゃうじゃん?」
「む? どういうことだ?」
この辺の詳しい経緯は知る人が少ないだろうな。
ヤマタノオロチ退治の功であたしに男爵の打診があったの何のと説明。
「……で、フィフィかヘルムート君どうだって提案したんだ。やっぱ帝国のことは帝国の人がやった方がいいと思うから」
「……フィフィリア嬢ではとてもムリだろう?」
「ドーラに来た時点でのフィフィじゃお呼びでないな。でもちょっとドーラの山ザル色に染めたったらあら不思議。驚くほど合理的な感覚を見せつけてくるよ」
「あのフィフィリア嬢が……」
「フィフィ自身はガータン統治なんてムリって判断したけど、ベンジャミンさんが手伝ってやったらパッフェルとの交易は実現したかもしれない」
「つまり、フリードリヒ公爵がフィフィリア嬢を評価するということか?」
「正確にはフィフィの目指すガータンの将来像を、かな。そーゆー未来もあり得た」
「ふむう」
フィフィがガータンを統治するなら、フリードリヒさんほどの有力貴族との関係を強化したいあたしはもちろん協力する。
結果として交易は成ったと思う。
「ま、でもフィフィはドーラで冒険者として成功しつつあるから、路線変更は現実的ではなかったな。それに本を出すよ。ドーラに来てからの珍道中紀行文。これ帝国本土にも輸出するつもりだから、見かけたら読んでよ」
「ユーラシア君は様々なことに関わっておるのだなあ」
「人がいいんじゃないか?」
「おっ? パスカル君もあたしの人格が最高なことに気付いたね?」
「気付いたぬ!」
笑い。
あたしの周りで愉快なことが起きるだけなのだ。
「実際フィフィよりもヘルムート君が男爵の方が、統治難易度はうんと低いでしょ?」
「もちろんだな。アーベントロート公爵家本家との関係を考えれば」
「土に含まれる硬い石のせいで耕地が広げられない。山賊のせいで交易がままならないって聞いた」
カクっと頷くベンジャミンさん。
「まさに! その二つが頭を悩ませるのだ」
「山賊は帝国全土の問題なんだろうから、ガータン固有の問題は硬い石ってことだね。どーゆーことなん?」
「どうもこうも。土地自体はまずまず肥えている。石を取り除けば農地となすことができるのだが、農具が傷むので誰もやりたがらないのだ。ガータン固有というか、帝国本土中央台地の問題だ」
「ふーん」
農具だって安くないもんな。
問題の硬い石を取り除く道具を支給すればよさそうだが、予算もないんだろう。
「だから石はそのままでウルシを植えるって発想になるのか。『ケーニッヒバウム』のフーゴーさんに?」
「そこまで調べがついているのか。驚くべきことだ」
「たまたま聞いただけだってばよ」
しかしウルシにはフリードリヒさんは食いついてこないのか?
「フーゴー殿が勧めてくれたくらいだ。帝都には需要があるのだろうが……」
「山賊様のおかげで出荷ができないと」
「そういうことだ」
「むーん? 何でフリードリヒさんはウルシに興味ないのかな?」
「食器がメインだと陶器やガラス、あるいはただの木でいいということなのだろう。他の需要だと贅沢品になってしまうから数が出ない」
「となると職人も育たないよねえ?」
「うむ。数が出れば職人の技術も上がる、技術が上がれば高級品にも興味を持ってもらえるという好循環が作れるのだが」
近場で需要を作りづらい産業ということか。
山賊がいなくなって遠くまで交易が可能になると化けるかもしれない。
とりあえず保留だな。
「硬い石ってのは何なの? どうにもなんないの?」
「これだ。黒妖石という」
「えっ? 黒妖石?」
ベンジャミンさんに渡された石、確かに黒妖石だ。
しめた!
「欲しい欲しい! ドーラではまとまって出ないんだ。あたしが五〇万ゴールド出資するから、石掘り専用の道具を作って黒妖石集めてよ。そうすればガータンも農地が増やせて得でしょ?」
「ありがたい話だが、何のために? 硬くてろくに加工もできないのだぞ?」
「ヴィル」
「はいだぬ!」
ヴィルの持っているビーコンを渡す。
「こ、これは黒妖石! かなり精密な文様が……いや、ケイオスワードか? いったいどうやって……」
「ドーラにはドワーフがいてさ。彼らの石工技術なら黒妖石を加工できるの。こうやって使うんだ」
新しい転移の玉を起動し、ビーコンの位置まで移動する。
「転移か!」
「使いものにならない石が利用できるなんて……」
「特にデカいやつがあると嬉しいんだけどな」
転移石碑として使える大きな黒妖石がたくさんあれば、転移網を構築できる。
移動や流通に革命的な変化を起こせる。
転移術もデス爺の専売特許から解き放たれそう。
ベンジャミンさんが悪い顔をして言う。
「ユーラシア君がドーラと帝国を自由に行き来できる秘密がこれか」
「まあそう」
「黒妖石が利用価値のあるものならば、タダで譲ることはできんな」
「しょうがないなー。よし、世界一の美少女冒険者たるあたしが、ガータンの山賊撲滅に手を貸そう。それでどうだ?」
「ハハッ、山賊撲滅が可能なら、ガータンには大いなる可能性がある!」
楽しくなってきたぞー。
「山賊って、どこに住んでるかわかるの?」
「大体は把握しておる。山賊同士も交流があるようなのだ。手強いぞ」
「ふーん。山賊達はどんな生活してるのかな? 変わったもの作ったりしてない?」
「えっ?」
ベンジャミンさんの意表を突いたった。
「山賊を領民に組み入れられたらいいねって話を、この前ヘルムート君としてたんだ」
「山賊を領民に組み入れる? 可能であれば……」
「できたらすごいでしょ?」
「うむ……街道の往来の危険をなくした上、生産力を増やせる」
「この件はヘルムート君も考えてると思うから、話し合って方針を決めてよ。山賊とっ捕まえるのはあたしが担当するから」
あれ、パスカル君がワクテカしてない?
「あたしとのデートが楽しかった?」
「ああ、楽しい」
「楽しいぬ!」
「ヴィルはいい子だな」
ぎゅっとしたろ。
「ヘルムート君とこ行こうか」
外へ。




