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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1259話:ベンジャミン・ホープ

「こんにちはー」

「こんにちはぬ!」


 ベンジャミンさんの館へ来た。

 大きな屋敷だが手入れが行き届いていない。

 使用人は解雇して一人で住んでるっぽいな。


「どなたかな?」

「あたしはドーラの美少女冒険者ユーラシア、こちらがガータン新領主ヘルムート君の弟のパスカル君、そちらが悪魔のヴィルだよ」

「変わった取り合わせだな」

「ベンジャミンさんでよかった?」

「うむ。行き届かぬ家だがどうぞ」


 中へ通される。

 ……なるほど、客間くらいは片付けてあるらしい。

 というか新領主の就任とともに使いがくると思ってたんだろうな。


 ベンジャミンさんが言う。


「ユーラシアというと、ヤマタノオロチ退治の?」

「知ってるんだ? これお土産。焼いて塩かけて食べるとおいしいお肉だよ」

「これはすまんね」


 カクっと特徴のある頷き方をするベンジャミンさん。


「それでこの田夫野人にどうした御用件かな?」

「仕官のお誘いに来たんだよ」

「ほう!」


 愉快そうな目になるベンジャミンさん。

 眼鏡をクイッと上げる。


「新男爵ヘルムート殿の指示ですかな?」

「いや、もちろんヘルムート君もベンジャミンさんのことは知ってる。けど男爵叙爵が急なことで、しかも一〇日も経ってないから手が回んないんだ。挨拶が遅れてベンジャミンさんにむくれられるとガータンが治まんないじゃん? だからとりあえず弟のパスカル君連れて挨拶に来たんだよ」

「ふむ、しかしどこでこの凡骨をお知りなさったかな?」

「ババドーン元男爵の娘のフィフィリアっているでしょ? あの子が今ドーラにいるんだ。その執事のマテウスさんに、元男爵の旧臣で優秀な人教えてって頼んだら、そのリストの筆頭にあったのがベンジャミンさんの名前なの。ぐりぐり丸つけてあったわ。よっぽど重要な人だなと思って」

「なるほど、マテウス君の」

「あの人も優秀だよねえ」

「うむ、まさしく」


 よしよし、機嫌良さそう。

 だが?


「どうだろう。ヘルムート新男爵に仕えてもらえる?」

「断る」


 強い意思を感じる口調だ。

 何となく断わられるような気はしていた。

 何故なら最初顔見ただけで、微妙にピリッとした緊張感があったからだ。


 仕える仕えないの話が出ていない挨拶の段階からなので、ヘルムート君自身が出向いてないという意味じゃない。

 そしてあたしみたいな可憐な美少女の印象が悪いわけがない。

 何か理由があるのだ。


 こらパスカル君、慌てなくてもいいぞ?

 勝負はここからだ。


「理由を聞いてもいいかな?」

「新男爵は、公爵フリードリヒ殿の御子息なのだろう?」

「うん」


 悔しそうな表情になるベンジャミンさん。


「公爵がガータン~パッフェル間の自由交易を認めてくれていれば、ガータンの民が困窮することはなかったのだ! 領界に厳重な関所を設けるのは嫌がらせだ!」

「ふーん。嫌がらせだと思ってるんだ?」

「もちろんだ! 公爵はババドーン様を嫌っていた! 公爵の御子息には力を貸せぬ!」


 怒気の抑えられないベンジャミンさん。

 なるほど、理由はわかった。


「フリードリヒさんがババドーン元男爵を嫌ってたのは本当かもしれないけど、そんなことで嫌がらせなんかしないと思うぞ? だってフリードリヒさん商売人だもん。得だと思ったら、むしろ積極的に推進したんじゃないかな」

「ならば何故!」

「公爵領にとってメリットがないから。具体的には交易品に魅力がない割に、山賊流入による治安悪化が無視できないからだと思う」

「……っ!」

「いや、あたしもガータンに詳しいわけじゃないから、傍から見てそう感じるってだけだよ?」


 ベンジャミンさん、思い当たることがありそうだな。

 ガータンを預かる身にとってみれば、パッフェルとの交易を実現させたいのはわかる。

 でも向こうにも美味い汁吸わせてやんないと実現しないぞ?


「でもやりようによっては交易できたと思うけどな? 向こうの欲しがる産物を積極的に作る約束するとか。交渉はしなかったの?」

「しようとはした。しかし男爵を出せの一点張りだった」

「向こうは公爵自ら出席するんでしょ?」

「おそらくは」

「話し合いになるわけないじゃん」


 片や天下の公爵様、片や男爵の代理では釣り合いが取れない。

 しかもガータン側が要望を聞いてもらいたい立場なのに。


「し、しかしババドーン様はガータンの運営には全く携わっていなかった。おられなくても交渉に支障は……」

「まー学者さんの理屈ではそーかもしれんけど、誠意が見えないじゃん。軽く見られてると思ったら、話なんか聞いてもらえるわけないぞ?」

「……ヘルムート様が領主ならば、交易は実現するのだろう? ならばガータンは治まる。私の出番などない」

「どうかな? 息子であるヘルムート君の手腕が評価されることは、フリードリヒさんにとってもメリットだね。だから今までよりも交易実現に傾くことは確かだと思う。でもフリードリヒさんは商売のことで情に流される人じゃないな。損だと思われたらガータンはスパッと切られるぞ?」

「何と。公爵はそれほどか?」

「口調は軽いけどかなりシビアな人だよ。慈善事業じゃないんだから。自身が甘く見られることは、フリードリヒさんにとって大きなマイナスじゃん?」

「むう……」


 考え込むベンジャミンさん。

 頭が冷えてフリードリヒ公爵の人物を知れば、ガータンの未来が見えてくるだろう。


 ……パッフェルとの自由交易が認められなかったことによる怒りよう。

 やらかし男爵が失脚してもガータンに残っていること。

 ベンジャミンさんはガータンにかなりの思い入れがあるものと思われる。

 いくらでも口説きようはある。


「でも言われてみれば、ベンジャミンさんにとってフリードリヒさんはわかりやすい人なんじゃないの?」

「うむ。理屈や損得の通じる人か」

「そうそう。間違いない」


 わけのわからん感情が絡んで絶対にやらないってことなら、努力する意味はない。

 しかし利を提示すれば食いついてくるならやる価値があるじゃないか。


「で、どうだろ? ヘルムート新男爵に仕えてくれる? ガータンの民のためだよ」

「ガータンの民のためと言われるとな。うむ、喜んで引き受けよう」

「やたっ! ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「ありがとうぬ!」


 これにて一件落着だ。

 ガータンが行き詰まることはないだろ。

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