第1256話:エンターテインメントの範疇
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
軽い夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
ちなみに赤眼族の集落から帰ったあと、魔境で一稼ぎしている。
何故ならおゼゼが減っていくことは乙女の心に負担をかけるから。
昨日も似たよーなこと言ってた気がするけど、大事なことは何度でも言うのだ。
『明日、アレクとケスが輸送隊で出かけるんだ』
「次は出勤なのか。それで?」
『留守の間に、ハヤテを三〇までレベリングしてくれないかってことを言われた』
「べつに構わないけど」
やっぱハヤテ一人だけレベルが低いとお荷物になっちゃうか。
気持ちはわかる。
アレクには色々頼んでるから、ハヤテのレベリングくらい頼まれてやんよ。
『請けてくれたら、草笛の月三~五日は空けておくからスクロール紙の相談に乗るって言ってたよ』
「アレクも交渉がうまくなってきたねえ。明日の午後か明後日にハヤテのレベリングしとくって言っといてよ」
『わかった。明日午前中は何かあるのかい?』
「帝国本土のちょうど真ん中にある、ガータンってとこ行ってくる。もしあたしが男爵になってたら領地になったはずの場所なんだ」
『つまり、公爵の息子の新男爵の領地だな?』
「そうそう。治めるの難しい場所らしいんだよね。悪役令嬢フィフィの父ちゃんの領地だったってこともあるから、行くのちょっと楽しみなんだ」
ん?
サイナスさん、何?
『転送魔法陣の行き先ではないんだろう? ユーラシアは行ったことない場所に、どうやって行ってるんだ?』
「ヴィルに地図を見せて、ここ行ってってビーコンを運んでもらうの」
『ええ? そんなのがありならどこへでも行けるじゃないか』
「いいでしょ?」
今まで行った場所との位置関係がわかれば行けるだろう。
全然違うエリアや海の真ん中とかだと誤差が大きくなっちゃいそうだけど。
ただヴィルの地理感覚はかなり優れているような気がする。
さほど狂いもなく世界各地に飛べるんだったら、正直すごいと思う。
「ヴィルがいい子だから助かってるよ」
『都合のいい子?』
「都合も使い勝手もいい子だけれども」
おまけに可愛い子だけれども。
「今日魔王に会ったんだ。魔王島で」
『魔王島?』
「人間側の正式名称何だったか忘れたな。魔王と配下の悪魔が住んでるから魔王島。魔境みたいに魔力濃度が高めで、結構強めの魔物がいる。人間は住んでない、ってゆー島だよ。ドーラから見るとかなり西へ行った洋上にあるの」
『ほう?』
「『アトラスの冒険者』仲間のソル君が『魔王』のクエストを回されたって話したじゃん? 結局のところ魔王島でブラックデモンズドラゴン五体出ちゃって、魔王が困ってるって依頼だったんだ。あたしも手伝えってことで呼ばれたの」
『どうってことなかったんだな?』
「結構素材拾えたし、キメラのお肉はおいしいってわかったし、悪くなかったよ」
『おおい、ブラックデモンズドラゴンどこ行った?』
事前に準備が必要なくらいには強かったってばよ。
一体倒せばレア素材『逆鱗』を四、五枚取れるから効率はいいけど、もう五体いっぺんに出てくるのは勘弁。
「魔王島は面白かったよ。古い船着場みたいなところがあるから、過去に人間が住んでたことはあるみたい。その船着場から西の遠くに、いかにもおどろおどろしい城みたいなものが見えるの。でもそれは幻影なんだ。魔王城目指して幻影側に行く人から悪感情吸い取るための罠なんだって」
『性質が悪くないか?』
「悪魔が好き好んでやってることだから」
ヴィルじゃあるまいし、こっちを喜ばせようなんてことするわけがない。
「実際の魔王の館は反対側の湖と森を越えたところにあったんだけどさ。悪魔って精霊と一緒で実体がないじゃん? 重いもの持って作業するって苦手なんだよ。で、魔王もすげー頑張って作りましたから勘弁してくださいみたいな、粗末な小屋に住んでるんだ」
『ええ? 衝撃のイメージダウンだな』
「マジでそう。もっとも悪魔は寝なくてもいいから、必ずしも家が必要ないって事情はあるらしいんだけど」
でも人間の使者が謁見求めて魔王島に来るくらいのこと、これからはあるんじゃないの?
体裁ぐらいは整えておくべきだと思うけどな。
せっかく魔王島まで行ってガッカリするんじゃ可哀そうだから。
まあいいけれども。
『魔王はユーラシアの気に入るタイプだったのかい?』
「やっぱちっちゃくて可愛い子だよ。っていうか配下の高位魔族も、見かけは個性あって皆可愛い子達だな。今日話したのは魔王だけだけど、また用があったら行きたい」
『ふむ、魔王の性格は?』
「少し短気かな。でもまともだよ。正々堂々が好きっぽい」
誰かに似てると思ったら、リリーだわ。
怒るけどすぐ収まるところとか。
『正々堂々が好きなら、幻影の城なんか映さないだろう?』
「エンターテインメントの範疇じゃない?」
『悪魔寄りの思考がひどい』
ひどくないわ。
あたしの心が広いから許せちゃうだけだわ。
サイナスさんの言い方がえぐい。
『ソロモコには影響なさそうなのかい?』
「ないな。よっぽどじゃなきゃ人間と敵対しないことを約束させたから、ソロモコが占領されちゃうんじゃなければ問題ないと思う」
『君の働き次第じゃないか』
「うーん、でもこれどう料理するか、材料から盛りつけまで決まってるんだよね。もう調味料くらいしか弄るとこないんだけど、どう弄ったらエンタメ度がアップするかなーって考えてるとこ」
『ひどい味付けになりそうな気配?』
「いや、はるばる遠くからいらっしゃる帝国の皆さんにも楽しんでもらいたいじゃん? あたしだって投げ銭くらいもらいたいし」
『戦争の話なんだよな? 料理コンテストでも大道芸でもなく?』
「主演女優がいくら優れていても、脇がヘボじゃ素晴らしい舞台にはならないのだ」
『演劇の話になったぞ?』
こっちは笑いに飢えてるのだ。
帝国艦隊進発までまだ何日もあるのがかったるくて仕方ない。
展開が読めないのは、ソロモコ遠征よりあとのことなのだ。
「眠くなっちゃった。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はガータン。
その前にプリンスの手紙をパウリーネさんに届けるのが先か。




