第1255話:危険度ゼロ
フイィィーンシュパパパッ。
「久しぶりにここ来たね。ガンガンする人!」
「「「はい!」」」
コブタマンを狩って『焼け野原』の転送先に来たのだ。
コブタをお肉にする前に、魔を払い心を清めねばならない。
理屈なんて関係なくガンガンするんだろって?
だからどーした。
文句あるか?
「いつも魔を払い心を清めるなんてことしてませんよね?」
「銅鑼が近くにあればやると思う」
まーでもいつもガンガンしてるんじゃ、ヴィルやバアルが可哀そうだから。
「さあ、煩悩を吹き飛ばすぞお!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」×四
「気持ちイイね!」
「スカッとしやすぜ!」
「もう一度鳴らしましょう!」
「魅惑の言葉には逆らえないなー」
「グオングオングオングオングオングオーン!」×四
いやー気が晴れるわ。
縞模様の建物から外に出、クララの『フライ』で赤眼族の集落へ。
「こんにちはー」
「おう、精霊使いの人じゃねえか。いらっしゃい」
「お肉持ってきたから食べてね。今日は何? お祭り?」
「祭りか、似たようなもんだ」
外に出ている人が多いのだ。
しかし皆つまんなそうだな?
祭りならもっと賑やかにやればいいのに。
あ、村長とミサイル来た。
「こんにちはー。今日は何なの? お邪魔しちゃ悪い日だった?」
「そんなことはないぞ! 食っていけ!」
「何かごちそーしてくれるんだ? 食料は大丈夫なん?」
部外者ながら心配になるわ。
村長が苦笑いする。
「食物の備蓄どうこうという話じゃなくてな。毎年この時期は植物の芽生えの時期だろう?」
「うん」
「新芽を摘んでカレーを作り、皆でいただくのが慣わしなのだ」
「へー」
新芽のカレーって、えらく魅惑的な響きやんけ。
それだけ聞くとメッチャ美味そうだな。
ミサイルが顔を顰める。
「不味い。かれえを冒涜している」
「おお、難しい言葉を知ってるねえ」
「よかったら食べていかないか?」
「いいの? 勉強のためにいただく」
大釜に案内され、お椀一杯の赤眼族式かれえをよそってもらう。
見た目は草の汁だな。
草を掬ってもぐもぐ……。
「うん、ただの草の汁だ」
ここまで見た目を裏切らない味だと逆にビックリするわ。
ほどよく塩味をつけてあるので食べられないほど不味いわけじゃないが、草の苦味と青臭さでどうにもテンションが上がらない。
せめてうまそーな草だけにすりゃいいのに、量が足んないからか何でも入ってる感じ。
「コショウが入ってりゃちょっとはマシな気がする」
「コショウか。文献では見たことあるが……」
「あっ、コショウがないんだ?」
クララが首を振ってる。
どうやらここでは育たないらしい。
「コショウって、同名の蔓草の実を乾燥させた調味料なんだ。ピリッとした味がするの。お肉の臭み取りによく使われるけど、塩とセットで野菜炒めにも使うよ。ただ育てるのに温度が必要なんだ。ドーラでは南の海岸部の一番温かいところで栽培されてるけど、ここじゃムリみたい」
「そうだったか」
残念そうな村長。
「お肉入れよう」
「えっ?」
「あたしの知ってるかれえにはお肉が入ってるんだ。せっかくコブタマン持ってきたから、解体して骨と骨周りのクズ肉を投入しよう。今よりはよっぽど食べられる味になるはず」
「そうだ! 本物のかれえには肉が入ってた!」
ハハッ、ミサイルも目を輝かせてるじゃないか。
「お肉かれえにするぞー! 解体手伝って!」
「「「「「「「「おお!」」」」」」」」
クララ先生、よろしくお願いします。
◇
「うん、美味い」
「全然違うな」
お肉というか、骨から染み出る旨みと脂でかなりおいしくなった。
村人の皆さんも満足なようだ。
ミサイルが言う。
「またかれえが食べたい」
「あたしも食べたいわ。今年中にここでも栽培できる植物で再現するつもりだから、ちょっと待ってなさい」
「おう!」
嬉しそうなミサイル。
赤眼族で本物食べたことあるのミサイルだけだからな。
「ところでこの集落で使ってる調味料や香辛料って何なの? 砂糖と塩以外だと」
「カラシ、トウガラシ、サンショウくらいか」
「サンショウって知らないな。増えてきたら教えてよ」
赤眼族の村にも知らん味があるんだな。
取り入れなければ。
「そーだ。かれえ作りの古い資料はあるんだよね? 見せてくれないかな。秘密じゃないんでしょ?」
「最古の資料はおそらく失われてるんだ。木片に残された写しでよければ」
十分だってばよ。
嬉しいなあ。
資料室に連れていってもらう。
何々? たあめりっくは太った根を乾燥させてから粉にする。
くみんとこりあんだあは種を粉にする……。
「うん、オーケー。ほぼ想像通りだ。これなら作れる」
「本当か! 楽しみにしてるぞ!」
チュートリアルルームでかれえを最初に食べた時は、味の組み立てが全然想像できなかった。
でも原材料を知ってレシピを読むと、十分再現可能とわかる。
るうを使わないで野菜を煮潰したやつでとろみをつければ、バエちゃんとこのかれえよりもおいしくなる説まである。
「とゆーか、何でこのレシピから草の煮汁になるのかがわからん」
どこにも草をまんま入れろなんて書いてないんだが?
苦笑する村長。
「どうやってもカレーにならないから、いつの頃からか手をかけるのはやめたということなんだろうと思う」
「なるほどー」
確かに手間かけて不味いもの作るのはあり得んわ。
新芽の草の汁を振舞う風習だけが残ったのか。
「ここは古い資料が集められてるんだ? 赤眼族のルーツはどれくらいわかってるの?」
困ったような顔を見せる村長。
「以前話した、どこかから追放された一族ってこと以上にはわからない。過去に何度か大火事があったらしくて、記録が残っていないんだ」
「うーん、火事は怖いねえ」
やはり思った通り、赤眼族は自分達の詳しいルーツを知らない。
これでおそらく赤眼族を監視するという『アトラスの冒険者』の存在意義は消えた。
全部の資料をひっくり返せば、どこかに異世界に関する断片的な記録くらいは残ってるかもしれないよ?
でもそんな歴史的事象を穿り返して今の生活を疎かにしてまで、バエちゃんとこの世界をどうにかしようなんてやつが出てくるわけがない。
異世界にとって赤眼族の危険度なんてゼロだ。
「じゃ、帰るね」
「また来い!」
転移の玉を起動して帰宅する。




